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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
第8章 脱魔王派編
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第340話 採用試験1

「よーし、お前ら一列に並べー!」


 広間に響くのは大柄な男の野太い声。周囲に民家のない倉庫街の一角で行われているのは脱魔王派たちによる新規採用試験。


 空箱を積んだ即席の壇上に立つ男の周りには老若男女問わず様々な風貌の冒険者たちが立っており、彼らの視線の先には一列に並ぶ十三名の若者たちの姿がある。


 彼らは今回の脱魔王派新規採用試験に応募した魔王制度に反感を持ち、魔王制度を打倒しようと志す若者たちである。その中には反魔王派によって構成された冒険者組合の暗部の一人であるジャックや、先日大魔王ルシファーの座を引き継いだセイヤの姿が見受けられる。


 セイヤの姿は大魔王ルシファーとしての姿ではなくレイリアで通用する姿のため、脱魔王派の冒険者たちがセイヤの正体に気づいている様子はない。また暗部で活躍するジャックの姿も表世界では未出のためこちらも気づかれている様子はない。


 彼らは脱魔王派の新規採用試験を受けに来た若手冒険者として見事潜入の第一段階をクリアしていた。


 スパイが入ろうとしていることなど考えている様子のない大柄な男は眼下に並ぶ十三名の若者たちを順番に見据えていくと鼻で笑う。


「ふん、今回も小粒ぞろいだ。いいか、俺たち脱魔王派は現行の魔王制度を瓦解させるために活動している組織だ。しかし現状、新たな大魔王ルシファーの誕生によって国民は魔王制度を再び崇拝しようという風潮にある。これは由々しき事態であると同時に我々にとって好機でもある。まだ支配体制が盤石ではない魔王体制を崩壊させるには今しかないのだ」


 高らかに語る大柄な男を見ながらセイヤは確かにと頷いた。もしセイヤが現行の制度を瓦解させようとするなら変化の瞬間を狙うのが効果的だ。


 例えば普段はその堅い外皮で身を守っているカニであっても脱皮直後はまだ外皮が柔らかく簡単に捕食されてしまう。つまり今のダクリアは脱皮したてのカニと同じであり、今この瞬間が捕食のチャンスという訳だ。


「そして我らが今欲すべきは即戦力。正直に言ってゴミを今から磨いて鉄パイプに育てる余裕もなければそれほどの気概もない。今求めているのはゴミではなく鉄パイプだ」


 大柄な男の言葉に一同が息を飲む。その反応を見た男はますます幻滅した様子を見せるが、それでもこの場を任せられている責任者としての行動を心掛ける。


「なーに、最初からお前らに槍がいるとは思っていない。鉄パイプでも研げば立派な槍になる。それくらいは面倒見てやるから安心しろ」


 一体男は何が言いたいのかと思うジャックだが、彼が大柄な男の意図をくみ取れないのも致し方ないだろう。なぜなら男の例に例えるならジャックは既に切れ味が鋭い妖刀に当たるのだから。


 妖刀からしてみればゴミを鉄パイプにするのと鉄パイプを槍にするのとでは違いを見出すことは難しい。逆に以前はゴミの扱いをされていた経験のあるセイヤは大柄な男に対して少しばかりの不快感を覚えたが、ここで不満を垂れ流すようなことはしない。


「さて、これから選別を始める訳だが……」


 そう言って大柄な男が再び一同を見渡すとニヤリと笑みを浮かべて宣言する。


「今から二人組を作れ。あぶれた一名は即刻失格とする」


 男が宣言した直後、一瞬の間をおいて志望者たちは慌てた様子で近くの志望者とコンビを組もうとする。しかしいきなりのことで三人で一人にコンビの結成を申し出たり、他の者にコンビを申し出ている途中の相手にコンビを申し出る者がいるなど現場は混乱状態だ。


 冷静に周りを分析できない者たちが次々と非効率的な行動をとっていくが、三十秒もすれば一通りのコンビが結成されていく。そして最後に一人の少年が残されると、その少年に向かって大柄の男が微笑みかける。


「そこの眼鏡、失格だ」

「ちょっと待ってください!」


 失格を言い渡された眼鏡の少年は慌てた様子で大柄の男の下へ行き、慈悲を求める。


「こんなんで何が分かると言うんですか! 僕はここにいる誰よりも優れている自信がありますし、僕は誰よりも魔王の存在を憎んでいます! こんなやり方で有望な人材が選べるはずがない! 公平な試験を要求します!」


 大柄の男は必死になって懇願する眼鏡の少年を一瞥すると吐き捨てるように言った。


「とっさに冷静な判断をできない上に要求も達成できない無能はいらん。即刻立ち去れ」


 男の無慈悲な宣告が少年に降りかかる。その様子を見ていた他の志望者たちは一歩間違えば自分があの状況にいたということに恐怖を覚え、下手に目立たないようにだんまりを決め込んでいる。


 当事者である眼鏡の少年は必至に懇願を続けるが、大柄の男が再び少年に視線を移すようなことはしない。


「認めてくれないなら認めさせるまでだ!」


 男の態度を見た少年はここぞとばかりに実力行使に出る。懐に隠し持っていた一丁の拳銃を取り出すと大柄の男に向けて構える。既にその右手の指は引き金にかかっており、銃口には風属性を現す緑色の魔法陣が展開されている。


 言葉を発してから銃を構えるまでの時間は三秒ほど。少年の年代の冒険者としてはまずまずの速度であり、眼鏡の少年が自分の実力に自信を持っているのも頷ける。けれども、あくまでそれは彼の年代での話だ。


 少年が銃を構える前に周囲にいた脱魔王派の冒険者たち一斉に武器を構えて少年を囲むように立っていた。さらに大柄の男は自分を防御する赤い盾を張っており、少年が引き金を引いても一撃では男に攻撃が通らないことは明確だった。


「お前が引き金を引くのは勝手だが、その引き金を引いたら最後お前の命はないと思え」


 大柄の男が眼鏡の少年を睨みつけながら警告する。少年の周囲に構える脱魔王派の冒険者たちも少年が少しでも動くようなら容赦なく動くと殺気を発している。


 この状況は眼鏡の少年にとってあまりにも不利だった。


 目の前で起こった突然の出来事に息を飲む志望者たち。彼らは初めて見る実力者の本気に圧倒され、言葉を発することができなかった。


 脱魔王派の冒険者たちが今見せた実力は並の冒険者を優に超えるほどのものだ。魔王や暗部の人間には及ばないかもしれないが、打倒魔王を掲げるだけのことはある。


 セイヤは脱魔王派の冒険者たちの実力に感心していた。


「どうする?」

「僕の力不足でした。申し訳ございません」


 大柄の男が再び睨みつけると眼鏡の少年は観念したように銃を捨てて両手を上げる。少年の抵抗する意思はないという意思表示を見た脱魔王派の冒険者たちは構えていた武器を下ろすと少年に帰るように促す。


 もうこの場に少年の居場所はなかった。


 少年が後ろ髪を引かれる思いで倉庫を後にすると、倉庫に残ったのは沈黙だった。脱魔王派の冒険者たちは最初の位置に戻り、志望者たちはただ黙って大柄の男を見つめる。


 眼鏡の少年が何事もなく帰れたことに対する安堵と次は何が待ち受けているのだろうという不安の混じった瞳で大柄の男を見つめる。


 志望者たちから視線を向けられた大柄の男は再び一同を見据えると吐き捨てるように告げる。


「まずは一次試験通過おめでとう。続いて二次試験に移る」

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