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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
7章 レイリア王国編
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第332話 変化

 アヴァロン島。レイリア魔法大会で使用されるラピス島と同じ世界にあり、レイリア王国初代女王モーガン・ル・フェイ・レイリアによって創造されたその島には数多くの魔法師がいた。彼らはレイリアとダクリアという二つの枠組みなどを無視した組織に所属、もしくは加担している魔法師たちだ。


 各国でも名だたる魔法師たちがモーガン・ル・フェイ・レイリア、通称モルガーナの下に集まっていた。


 アヴァロン島に構えられた城塞のように大きな建物がモルガーナたちの拠点であり、真のレイリア王国の本営ともいえる。その建物の中にあるとある一室にモルガーナの姿があった。普段から人目につかないような部屋で生活をしているモルガーナは今日も一人、ということはなくて来客の相手をしていた。


 モルガーナの正面に腰を折るしているのは闇のように美しい紫の髪をした女性。その人間離れした美しさは彼女が人間ではなく精霊だということを存分に知らしめる。彼女の名前は月を司る精霊ルナ。契約者であるセイヤからはロナと呼ばれている女性だ。


 二人の前に置かれているのは普通の紅茶だが、まだどちらも手を付けていない。


 残念なことに二人の間に流れる空気はとても優雅なお茶会とはいえない。両者から放たれる生物としての存在感が空気をひりつかせている。


 ただの一般人がその場にいたらあまりの重圧に気を失ってしまうのではと思われるようなその空気に気のせいかテーブルなどが先ほどから小刻みに震えているようにも思える。


 純粋な魔法の力で見ても両者は以上だ。片やこの世界を創造してしまうほどの力を有し、三百年前にはレイリア王国をまとめ上げていたほどの実力者。片や大魔王ルシファーにしか扱うことのできない夜属性を使って自分の世界を作り上げてしまうほどの規格外の精霊。


 二人が対面してしまえばあまりの存在感に空気が震えてしまうのも仕方がないのかもしれない。


 まず口を開いたのは家主でもあるモルガーナだ。


 「此度はどうしたのですか?」

 「少し聞きたいことがあってのう」


 わずかに笑みを浮かべるモルガーナだが、その目は全く笑っておらず、ルナの挙動の一つ一つを注意深く観察している。一方のルナもモルガーナの視線が気に食わないのか、彼女のことを睨み返す。


 この二人が同じ空間にいる方が不思議なくらいだ。


 「聞きたいことというのは?」

 「お主はいったいどこまで知っているのじゃ?」

 「どこまで、とは?」

 「言葉の通りに受け取って構わぬ。お主には未来でも見えているのか?」


 ルナの言葉に首をかしげるモルガーナ。一見するとルナの言っていることは意味不明だが、モルガーナはルナの真意を知ったうえでとぼけたのだ。


 その態度がルナは不快だった。


 「お主はこのニ十年で随分と変わった」

 「そうでしょうか」

 「ああ。昔のお主なら奴らを駒のようには使わなかっただろう」

 「駒ですか?」


 駒と言われて今度は本気でわからないといった反応をするモルガーナ。どうやら彼女は無意識でそのような対応をしていたようだ。


 「あの若者たちじゃ」

 「若者とは帝王のお仲間でしょうか?」

 「昔のお主なら確実な手段を選んでいた。じゃが昨日お主が与えた試練、下手をすれば死ぬ」

 「そのことですか。それなら問題はありません。私は彼女たちの成長を信じていますから」


 ルナが死ぬといったのは何も全員に対してではない。そのことはモルガーナも理解しているようで、迷うことなく彼女たちといった。


 「四神の儀式にはもう少し人数を割くべきじゃ」

 「だから問題はありません」

 「このままだと取り返しがつかなくなる」


 四神の儀式とは新たに修業を課された面々の中で南の島に向かうように言われているセレナと北に向かうように言われているモーナのことだ。


 彼女たちはまだ出発はしていないのでルナはこのタイミングで文句を言いに来たのである。


 「東の青龍を倒した時もダルタの同行者としてセイヤにギラネル、それにアーサーがおった。あ奴らも同じくらいの同行者をつけるべきじゃ」

 「それはキレル山脈にあなたがいたからです。事実報告ではダルタとアーサーだけで対処はできています」

 「それは妾が新たな刺客を向かわせなかったからじゃ。しかし他の二か所ではどうなるかわからぬ」

 「大丈夫でしょう。帝王と雷神の娘は二人で西の白虎を討ったそうですから。それにあそこには水の妖精ウンディーネがいたのですよ。でも二人は生き残った」


 モルガーナの反論にルナは舌打ちしたくなった。


 確かに彼女の言うことは的を射ているが、そもそもセイヤとユアはどちらも特別な力を持った魔法師たちで普通の魔法師としてカウントするには少々問題がある。


 他方、セレナやモーナは普通の魔法師だ。二人に同行させる魔法師は少なくとも魔王クラスが二人いなければいけない。安全を確保するには三人以上が望ましい。


 だがモルガーナはそれらの人員を一人の抑えて他の魔法師の育成に割いた。それがルナにとっては看過できない出来事だったのだ。まるでモルガーナは多くの可能性を選んで当たれば儲けものと言わんばかりに。


 今が危機的状況だということはノアとつい先日戦ったルナもよくわかっている。だがだからといってここまで博打にような手段をとるのはルナは許せなかった。それにその方法はあまりにもモルガーナらしくなかった。


 三百年前からノアへの逆襲の準備をしてきたモルガーナは用意周到に準備を進めるタイプだ。何か懸念があれば全力でそれを除去するし、新しい力を手に入れるためには安全と確実性を重視してきた。もし間に合わないようならば可能な限り延長してでもその力を手に入れる。


 例えば身ごもったリーナ=マリアに対しては子供を諦めて延期する様に求めてでも戦力の充填を選んできた。しかし今のモルガーナはどこか博打まがいだ。


 一体何が彼をそこまで変えてしまったのか。


 「あなたは私が未来を知っているのかと尋ねましたね」

 「うむ。お主の変わりようはそうでないと説明がつかない」

 「正解です」

 「まさかお主は……ほんとうに……?」


 信じられないという表情をするルナ。それに対しモルガーナが真実を告げる。


 「正確に言うのであれば、未来を知る人物にあったのです」

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