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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
7章 レイリア王国編
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第323話 仮面の少女

 冒険者組合の仕事を終えたばかりのジャックは人影のない寂しい路地裏を歩いていた。昼間だというのに人っ子一人いないその区画はダクリア帝国内でもすたれた地区として一般人からは避けられている場所だ。


 けれども偶然か必然か、普通の人が集まらないような場所には必ずと言っていいほどゴロツキ集団が集まってしまう。その地区もまたゴロツキ集団が拠点としている地区だったはずなのだが、今はジャック以外の人影はない。


 「ちっ、隠れやがったか」


 周囲に人の気配がないのを察したジャックはつい舌打ちをしてしまう。実を言うと以前この場所を訪れた時にジャックはゴロツキ集団に絡まれてしまった。主な理由としては彼が首からぶら下げている金色のタグである。


 Aランク冒険者であることを証明するそのタグは同時に金品も持っていると言っているようなもの。ゴロツキ集団にとっては都合のいい金づるになるというものだ。だが普通に襲ったところで返り討ちにされるのが関の山。だから彼らは一工夫加える。


 最近になって裏で出回るようになった魔封石。闇属性も封じることのできる魔封石を使うことでゴロツキ集団はAランク冒険者を無力化したのだ。いくらAランク冒険者といえども魔法を使えなくなってしまえばただの一般人だ。大勢に襲われてしまえばひとたまりもない。


 同じようにしてジャックもゴロツキ集団の標的になった。ただ彼の場合は普通の冒険者のようにいかなかった。ジャックは冒険者組合の暗部に所属する人間であり、その実力はAランク冒険者が相手でも圧倒するほどだ。たとえ魔法が使えなくなったとしてもある程度のことは対処できる。


 しかし問題はそれ以前だった。そもそもジャックと他の冒険者では前提となるものが異なっている。対人戦や魔獣との戦いなどオールラウンダー的な側面の強い冒険者に対してジャックは対人戦に特化したスペシャリストだ。彼は人間のどこに何をすれば一撃で仕留められるかを熟知している。


 だから魔法が使えなくなったところで大勢のゴロツキなど取るに足らない相手だ。ゴロツキたちも襲いだしてからすぐにジャックの異端さに気づいて撤退を試みたが、相手はあの冒険者組合に所属する死神ジャック。犯罪に関与したゴロツキたちは一人残らず皆殺しにされた。


 それ以来ジャックはゴロツキたちの中でアンタッチャブルな存在とされたのだ。


 だからこうして今もゴロツキたちはジャックの姿を見つけると物陰に隠れながらその地区を抜け出すようにしている。だが一人だけ例外がいた。


 ある少女がジャックに話しかける。


 「おー、ジャック。お疲れ様ー」

 「お前か」

 「そだよー」


 ジャックの前に顔を出したのはピエロのような仮面をつけた少女。その少女の異様な点といえば壁から頭だけが突き出ている点だろう。


 まるで壁に生えているキノコのように上半身だけが現れた少女。他にわかることがあるとすれば仮面の後ろから飛び出る髪色が金だということだけだろう。


 彼女もまた冒険者組合に所属する人間の一人であり、同時に暗部に所属する裏の人間だ。


 「さてジャック、仕事は完璧ー?」

 「さあな。裏切り者は全部始末したつもりだが」

 「ほんとにー?」

 「何が言いたい?」


 壁から生えた首を横にかしげる仮面の少女。ジャックから見れば頭が地面に向かっているような状況だ。


 「えっとーちゃんと全員殺したー?」

 「知るか。それを確認するのがお前の仕事だろ」

 「そうなんだけどさー」


 どこか煮えたぎらない仮面の少女にジャックが舌打ちをする。すでに仕事仲間になってから長い年月が経つが、いまだにジャックは仮面の少女ことを詳しくは知らない。


 「俺の力を疑うなら試すか?」

 「僕を殺す気?」


 殺気を向けるジャックに対して仮面の少女はケタケタと仮面の中で笑った。その態度がより一層ジャックの癇に障る。


 「でもでもーやめたほうがいいよー? だって僕を殺したらー、その魔剣使えなくなっちゃうよー?」

 「ちっ」

 「忘れちゃー困るよ? その魔剣クリムゾンブルームの契約者は僕でー、ジャックは借りてるだけなんだからー」


 仮面の少女の言う通り、魔剣クリムゾンブルームの真の所有者は彼女でありジャックではない。ジャックはただ魔剣クリムゾンブルームを借りているにすぎない存在だ。


 だから仮面の少女を殺してしまったらジャックは魔剣クリムゾンブルームを使えなくなってしまうのだ。


 「それで、お前は何が言いたい」

 「そういう素直なところは僕好きだよ!」

 「さっさと要件を言え」

 「実はねー死体が一個足りないんだー」

 「なにぃ?」


 死体とはもちろんジャックがその手で殺めた粛清のこと。


 「今回の対象は全部で十二だったのにー、死体は十一個しかないんだー」

 「まだいたのか。そいつは?」

 「えっとね、Aランク冒険者のあいつー。今回だと唯一のAランク冒険者だよ」

 「金タグか」


 ふとジャックは考える。そう言えば切り刻んだ肉塊の中に金色のタグがいたことを。


 「金タグなら切り刻んだぞ」

 「ほんとーに? Aランク冒険者が怖くて嘘ついてないー?」

 「殺すぞ? それにお前なら粛清の現場を見ていたはずだ」

 「ははっ、バレちゃったか。確かにジャックはAランク冒険者も粛清してたね」

 「なら十二個あるはずだ」

 「それがあら不思議。ないんだよねー」


 小首をかしげる仮面の少女は嘘をついているようには見えない。おそらく本当にAランク冒険者の死体だけがないのだろう。


 「金タグだけじゃなくて死体もか?」

 「そうなんだよーそこなんだよー」


 これまでも粛清対象から金色のタグだけを持ち去る輩はいた。冒険者が中心のこの国ではAランク冒険者の証明である金タグはかなりの効力を持つため悪用する者は後を絶たない。


 そのため暗部も死体の処理まで請け負うことになっているのだが今回はそのひとつを回収し損ねてしまったのだ。明らかに異様な今回の事件。人間の肉塊コレクターでなければまず持ち去ることはないであろう死体を一体だれが持って行ったのか。


 「もしかしたらあいつかなー?」

 「あいつ?」

 「知らない?」


 ケタケタと笑いながら尋ねる仮面の少女に対してジャックはさっさと教えろと回答を急かす。


 「最近噂の墓荒らしだよー」

 「墓荒らしだぁ?」

 「そうそう。いろんなところで遺体が奪われているらしいの。それも生前名を馳せた魔法師たちが」

 「それは随分と変わった趣味だな」

 「だよねー。噂によると魔王アスモデウスも持っていかれたらしいよー」

 「魔王だ? 気に食わねぇ」

 「ねー。一体何が目的なんだろうねー」


 謎の墓荒らしにジャックはイラつく。今回の件はまるで自分がその墓荒らしに利用されていたみたいなのが気に食わなかったのだ。


 仮面の少女はジャックを見てケタケタと笑いながら新しい知らせを届ける。


 「それとね、それとね、キングが死んだよー」

 「キングがか?」

 「そうー」

 「相手は?」

 「不明ー。でも死体はなかったらしいよー」


 キングとは彼らと同じ冒険者組合の暗部に所属する人間であり、実質的な暗部のリーダーだ。そして表の名では冒険者組合を仕切るトップであり、反魔王派を束ねるリーダー的存在でもあった。


 そんなキングの死はおそらくこれからダクリアの冒険者に多大な影響を与えることになるだろう。


 「それも墓荒らしか?」

 「うーん、わかんない。でも今のところそれが有力だよねー」

 「目撃者は?」

 「それがいないんだってー。なんか急にキングが消えたと思ったらキングの装飾品だけが届けられたらしいよー。しかもご丁寧にキングの血液付きで」


 どうやらそこからキングの死亡が判断されたようだ。そのことを聞いたジャックはつぶやく。


 「けっ、気に食わねぇ」

 これにてジャックの初登場は終わりになります。さて新しく登場した冒険者組合の暗部である死神ジャックはいかがだったでしょうか。この物語にしては珍しく殺人に重きを置いた実験的なキャラになっているので、よかったら感想などをいただけたら参考にさせていただきたいと思います。


 もうお気づきの方もいるかと思いますが、ジャックはダクリアサイドでのセイヤに対応するようなキャラです。これまでもダクリアサイドで様々なキャラが登場しましたが、魔王制度に重きを置いていたためにセイヤと同年代のキャラが登場していませんでした。魔王の一人がセイヤと同年代という案もあったのですが、それだと少年で魔王になったセイヤの特別性が失われると思い止めました。おかげで登場がかなり遅れてしまいましたね。


 ジャックの登場がここまで遅れたのは七章で新キャラが続々と出てきたことが関係します。個人的にはジャックの印象を強くしたかったので敢えて七章の折り返し地点より後、つまり七章後半の冒頭に出した次第です。まあ同じく新キャラのハルトスの方が印象的だったと言われたら泣きますね。


 ですがジャックの登場でやっと予定していた構図が完成しました。レイリアサイドなら十三使徒のレアルと特級魔法師のセイヤ。ダクリアサイドなら冒険者組合のジャックと大魔王のセイヤ。両サイドでセイヤに対応するキャラが出てきたのでやっと一段落といったところです。残りの七章は各方面の現状を紹介しつつ、最後には主人公に活躍してもらおうと考えているので残りもよろしくお願いします。

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