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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
7章 レイリア王国編
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第309話 ダクリア帝国デート

 「ここがダクリア帝国……」


 軽めの朝食を終えたセイヤとユアの姿はダクリア帝国の中心部にあった。二人がダクリア帝国に行くといった際、モルガーナなどに止められるかもしれないと思ったセイヤだが、実際は快く送り出してもらった。


 休日をダクリア帝国で過ごすことで大魔王として国民の生活をその目で見るという必要なことを同時にできると考えたモルガーナたちはすぐにゲートを開いてくれた。


 リリィたちも誘おうとしたセイヤだが、残念ながらその姿を見つけることはできなかったのでダクリア帝国を訪れているのはセイヤとユアの二人だけだ。


 「どうだ、発展してるだろ?」

 「うん……すごい……」


 レイリア王国とは比べ物にならないほど発展しているその街並みにユアは視線を奪われる。ダクリアの技術力はダクリア二区でも目にしていたユアだが、ダクリア帝国の技術力はダクリア二区をも上回るほどのものであり、改めてダクリアの技術力を思い知る。


 また新たな大魔王の誕生とあって魔王会議開幕のために賑わっていた街は現在も盛り上がりを見せている。街のいたるところで大魔王ルシファー誕生セールと銘打たれた店舗を見かけることができ、国中がセイヤの大魔王ルシファー就任を喜んでいるようだ。


 二十年にわたって不在だった真の大魔王ルシファー。それが誕生し、就任式では大魔王ルシファーを狙ったテロ行為を容易く封じたその実力を示して見せた。


 それを祝わずにいつ祝うのかと言わんばかりに街は大盛り上がりだ。


 ちなみに今のセイヤの姿はいつもの金髪碧眼である。大魔王就任式では白髪赤眼の魔王モードで臨んでいたため、今のセイヤを見て大魔王ルシファーだと認識する者は街中にはいない。そういう意味では同じ有名人でもレイリア王国よりはくつろげるというものだ。


 大魔王誕生に賑わう街の中を手をつなぎながら歩く二人はまさにカップルそのもの。ユアの美貌を見た男たちはセイヤに嫉妬と憎悪の視線を向けるが、いつも通りセイヤは気にした様子を見せない。大魔王たるもの、国民の怒りにいちいち反応していてはきりがないし、そんなことに反応するほどセイヤの器は小さくない。


 逆に目の前にいるのが大魔王ルシファーだとは微塵も考えていない男たちはただただ嫉妬と憎悪の視線を向けるだけだ。


 そんな男どもの視線など気にした様子も見せないユアの足はとある露店の前で止まる。


 「セイヤ……あれ……」

 「お、リンゴ飴か。食べるか」

 「うん……」


 露店の前に並ぶリンゴ飴の数々。真ん中にあるのは真っ赤なリンゴを飴でコーティングしたスタンダードな商品だが、その隣には緑や黄色といった色とりどりのリンゴ飴が並んでいる。


 しかしその中で一際目を奪われるのは真っ黒にコーティングされたリンゴ飴?のようなもの。そのリンゴ飴の下には『期間限定! 大魔王ルシファー誕生記念! ~全ては夜が飲み込む~』と銘打たれていた。


 (おいおい、一体何が入っているんだ……)


 心の中でその黒いリンゴ飴に苦笑いを浮かべたセイヤはユアとともにその露店の女店主に話しかける。


 「リンゴ飴が欲しいんだが」

 「いらっしゃい! どれにする? 今のおすすめはこの期間限定! 大魔(ry」

 「私は緑の……」

 「あらまぁ、可愛らしいお嬢さん。あんたやるねぇ」


 ユアの姿を見た女店主が目を輝かせながらセイヤの肩をたたく。どうやらセイヤが絶世の美女といっても過言ではないユアと恋人関係にあることに驚いている様子だ。


 「今日はデートかい?」

 「そう……」

 「いいねぇ。若いってのは」


 手をつなぐ二人を見つめながら遠い過去を回顧する女店主。


 「おっと、お嬢ちゃんは緑のリンゴ飴だね。そっちのお兄ちゃんは?」

 「セイヤ……どうする……?」

 「へぇ、あんたセイヤっていうのかい」


 セイヤの名前を聞いた女店主が驚きの表情を浮かべた。だがセイヤという名がダクリアにとってどのような名前かを考えれば、女店主の反応は理解できる。


 女店主に正体がばれないようにセイヤは素っ気なく答えた。


 「ああ」

 「これはたまげたね。まさか新しい大魔王様と同じ名前なんて」

 「まあな」

 「一瞬本物かと思ったけど、お兄ちゃんからはそんなオーラは見えないね」

 「当たり前だ。大魔王がこんなところを護衛なしで歩くはずもないだろ」

 「それもそうだね」


 セイヤの言葉に笑顔で頷く女店主。大魔王就任式でのテロ行為を考えれば大魔王が護衛もつけずに人込みを歩くはずもなかった。それにセイヤの見た目が就任式でのセイヤとかけ離れているため本物と思っているはずもない。


 セイヤと女店主の会話を聞いていたユアはクスッと笑う。


 「ほい、お兄ちゃんには大魔王のリンゴ飴ね」

 「いや、まだそれにするとは」

 「大魔王様と同じ名前なんだから、大魔王のリンゴ飴を食べなきゃいかんよ」

 「は、はぁ……」


 よく分からない理論とともに黒いリンゴ飴を戸惑いつつも受け取ったセイヤ。そしてすぐにユアの分の緑色のリンゴも渡される。


 「はい、これはお嬢ちゃんね」

 「ありがと……」

 「二人でいくらだ?」

 「いーよ、いーよ。タダで」


 お金を払おうとするセイヤに対して、ただでいいという女店主。しかし物を買ったのだからお金を払わないと気が済まないセイヤは何とか払おうとする。


 しかし女店主は頑なに受け取ろうとはしない。


 「大魔王様と同じ名前のお兄ちゃんからお金を受け取るなんてできないよ。それにお熱いお二人さんを見ていいものを思い出せたから、そのお礼よ」


 なんとも信じがたい理由でリンゴ飴をタダにしてくれた女店主にセイヤは困った表情を浮かべる。


 「だが俺は大魔王ではないし……」

 「なーに、若いんだから気にしなくていいのよ。あたしが勝手にお兄ちゃんを大魔王だと思って祝儀を送ったと思ってくれればいいよ」

 「は、はぁ……」

 「まあ悪いと思うならまた買いに来てよ。その時はきっちりお金をもらうからさ」


 女店主に圧に負けてつい受け取ってしまったセイヤは最後にもう一度お礼を言って店を去った。女店主は仲良く手をつなぎながら去っていくセイヤとユアを微笑みながら見つめる。


 「若いっていいねぇ」


 リンゴ飴を口にしながら街の散策を続ける二人。


 「おいしい……」


 柑橘系のフルーツを中心に作られた緑色のリンゴ飴を食べるユアの顔は幸せそのもの。一方の黒いリンゴ飴を食べるセイヤはまだ少しだけ気が済まない様子。


 「セイヤ……どうしたの……?」

 「いや、本当に貰ってよかったのかなって思ってな」

 「セイヤは少しいい人すぎ……」

 「そうか?」

 「もし気が済まなないなら……また来よ……」

 「そうだな」


 ユアに言われて納得するセイヤ。感謝の気持ちを表現するにはまたあの女店主の店を訪ねるしかない。そう改めて思うのだった。


 そしてふとユアがつぶやく。


 「でもセイヤは嘘つき……」

 「確かにそうだな」

 「でも、そんなところも好き……」


 満面の笑みをセイヤに向けるユア。セイヤは改めて今日はダクリアに来てよかったなと思うのであった。

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