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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
7章 レイリア王国編
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第308話 匿名係

ふざけました

 二人の朝を迎えたセイヤはそこでふと疑問に思う。普段ならこういう時には必ずユアとともにセイヤのベッドにもぐりこんでくる少女。というより幼女。場合によっては大人の女性だが、とにかくこういう時には必ずと言っていいほど参加してくるウンディーネが今日はいなかった。


 「なあユア。リリィはどうしたんだ?」


 セイヤがリリィの名前を口にした瞬間、ユアの表情がわずかに曇る。その表情を見たセイヤを一抹の不安が襲う。





 「実は……行方不明……」

 「行方不明だと?」


 突然のユアのカミングアウトに驚きの表情を浮かべるセイヤ。まさかリリィが行方不明だと誰が予想できただろうか。


 「行方不明っていうのはどういう意味だ?」

 「最近姿を見ない……でもこの島にはいるはず……」

 「ユアはリリィと同じ部屋じゃないのか?」

 「違う……でも隣の部屋……」


 隣の部屋の住人が姿を消したとなると気づくことができても、それがいつからかなのかを具体的に判断するのは難しい。ましてや最近の修業量を考えると、他の人のことを気に掛ける余裕がないのもうなずける。


 加えてリリィはなぜか個別の修業をモルガーナによって指示されていなかった。それは忘れられたというよりも、意図的に除かれたという方が適切だろう。


 もしかすろとモルガーナたちにとってリリィは邪魔な存在で、このアヴァロン島という密閉空間を使って始末されてしまったのかもしれない。


 「これは幼女誘拐事件の可能性もある。すぐに捜査本部を立てなきゃな」

 「うん……そして被害者宅にも捜査員を派遣する……」

 「だな。犯人側から身代金の要求があるかもしれない」

 「あとは位置情報を割り出す必要がある……」

 「だが俺からリリィの位置情報を把握するのは困難だ」

 「犯人側の妨害……?」

 「わからない。そもそもこのアヴァロン島自体が位置情報を掴めないんだ」


 固有世界によって作られたこの島は現実世界での位置情報を基本とする精霊契約はうまく機能しない。おそらくこのアヴァロン島の創造主であるモルガーナが契約者同士の位置情報把握に関する規則をこの世界の盛り込んでいないためだと思われる。


 つまりこの世界でセイヤはリリィの位置を把握することができない。もし把握しようとするならセイヤの聖属性でモルガーナの創った固有世界の法則に干渉することが求められるが、今のセイヤの実力ではうまくできるかわからない。


 それにモルガーナが主犯だった場合、固有世界に干渉した時点でセイヤたちがリリィの失踪に感づいたことを知らせてしまう。


 よってこの手段はとることができない。


 「なら内密に動くしかない……」

 「そういうことになるな」

 「でも人手が足りない……」


 失踪、もしくは行方不明になったリリィを探すにはそれなりの人と手間がかかる。セイヤとユアの二人で探すには圧倒的に人手不足だった。


 「どうする……?」

 「所轄に応援を要請しよう。たしかこの区域の担当者はシルフォーノたちだ」

 「でも……」


 所轄に応援を求めるといったセイヤの言葉に不安げの表情を浮かべるユア。どうやら彼女はシルフォーノたちがモルガーナの息のかかった捜査員ではないかと危惧しているようだ。


 その可能性を考えた時にやはりセイヤも躊躇せざるを得ない。


 ではどうするべきか。


 そんな時だった。


 「私たちに任せなさい」

 「お前たちは!?」


 二人の前に現れた二人の人影。彼女たちはセイヤがよく知る人物。


 「アルセニア魔法学園匿名係のセレナです」

 「同じくモーナです」


 颯爽と現れた二人はセイヤが以前とある事件で世話になった二人組。アルセニア魔法学園でも窓際部署として蔑視されつつも、一艇の支持層を持つといった異質の二人組。


 どんな権力にも屈しず、自らの正義を信じて進む二人はこの状況においても頼れる存在だ。セイヤとユアは二人に状況を説明すると、そこでモーナがユアに問う。


 「あなたは隣人にもかかわらず毎日会わなかったのですか? 二人は姉妹のように仲がいいはずだというのに全く顔を合わさないというのは妙ですね」

 「えっ……」

 「すいません。細かいことが気になるのがモーナの悪い癖で」


 モーナをすかさずフォローしたのはセレナ。長年一緒にいるためか、セレナはモーナのことをよく分かっているようだ。


 「もしかしてユアを疑っているのか?」

 「いえ、これは関係者全員に聞くもので」

 「昨日は疲れていて……」

 「そうですか」


 そこで何かを考えこむモーナ。


 「もういいか? 俺たちはリリィを探しに行かなくてはならない」

 「そうですか。では私たちも行くとしましょうか」


 そう言い残して部屋から去ろうとするモーナとセレナ。と、その時だった。モーナが振り返る。


 「最後にもう一つだけよろしいですか?」

 「何ですか……?」

 「あなたの左腕にあるそのひっかき傷。一体どうしたのでしょうか?」

 「これは昨日……料理していた時に……」

 「そうですか。ではまた」


 部屋から出たセレナとモーナはどこかへと歩きながら話をする。


 「モーナさん。彼女、怪しいですね」

 「ええ。特にあの左腕の傷は気になりますね」

 「アイシィに頼んでここら一体の防犯カメラの記録を調べさせましょうか?」

 「ええ、お願いします」


 こうして匿名係の疑いの視線はユアに向いた。






 ということもなく、ユアがつぶやく。


 「リリィは女王様のところに行った……」

 「そうか」


 リリィがいない理由を聞いたセイヤはなぜリリィがモルガーナのところに行ったのかを疑問に思いつつも、ユアに今日の予定を聞いた。


 「ユアは今日も修行か?」

 「今日は休み……」

 「そうか。ならどっか行くか?」

 「セイヤも休み……?」

 「ああ」

 「行く……」


 久しぶりにセイヤとデートができるとわかったユアは一瞬で表情を明るくする。


 「どこに行きたい? といってもレイリア国内は無理だろうが」


 特級魔法師となったセイヤがレイリア国内を混乱を起こさずに歩くのは不可能だろう。先のレイリア魔法大会侵攻事件で大活躍だったセイヤは今や国民から注目を集めている時の人。


 またセイヤが同じくレイリア魔法大会侵攻事件で活躍したユアと一緒に歩けば世間は大混乱だろう。


 そんな事情を知ってか知らずか、ユアがつぶやく。


 「ダクリア帝国に行ってみたい……」

 「ダクリア帝国に?」


 予想外の答えにセイヤがつい聞き返してしまうが、ユアは続けて答える。


 「セイヤが治める国を見てみたい……」

 「そっか。なら行くか」

 「うん……」


 こうして二人はダクリアデートをすることになるのであった。

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