番外編Ⅰ 第2話 セナビア魔法学園から(中)
実践訓練が終わると、帰り際に生徒は全員一度教室に集まることになっていた。
教室では四つの席を除いて、すでにすべて埋まっており、みな帰りの準備を済ませて担任であるラミアのことを待っている。
すると、教室の扉が開かれて担任のラミアが入ってきて、教壇に立つと教室中を見まわしながら言う。
「サバイバルご苦労だった、これにて今日は終了だ。ところでザック、ホア、シュラ、セイヤがいないな。誰か知っている者はいるか?」
「「「「「……」」」」」
ラミアの問いかけに教室中が静かになる。
ある者は興味なさげ、またある者は目をそらしている。実は教室にいる生徒やラミアは、現在ここにいないセイヤたちの居場所こそ知らないものの、何をしているかは全員薄々わかっていた。
それは制裁という名の一方的な暴力、クラス中の生徒がそのことを知っていたが、誰もラミアに報告しないし、止めようともしない。
それはアンノーンであるセイヤにかかわることは、この学園であまりいいことではなく、無理して関わるより無関心を貫き通したほうが最善だからだ。
実はザックたちのセイヤに対する一方的な暴力は教師陣の中でも問題になっている。
しかし暴行の現場を抑えることができず、証拠もないため、注意しようにも注意できない。もしセイヤがやりすぎだと訴えてくれれば、厳重注意をすることも可能だが、セイヤは決して訴えることがないため、教師陣は動こうにも動けなかった。
だからラミアもここでは何も言うことはできない。
「そうか、まあいい。サバイバルで勝ったものはこれからも向上するように、負けた者は次に勝てるように頑張れ。以上だ、解散」
ラミアがそう言ってセイヤたちのクラスの一日は終わった。
翌日もまた、セナビア魔法学園の一日が始まりを告げるチャイムが鳴り、教室には生徒たちが集まっていた。
今日も全員にいるかと思ったが、昨日の帰り際と同じく空席が四つあった。もちろんセイヤとザック達三人の席である。
クラスメイト達は四つの空席に対して特に気にせず、担任のラミアが来るのを待っていた。
少しすると教室のドアが開き、ラミアが入ってきたが、ラミアの顔はどこか疲れていて、いつものような鋭さがない。
教室にいる生徒たちはいつもと違うラミアのことを不思議に思いながら、彼女の話を聞く。ラミアはそんな生徒たちに対して、口重たそうに連絡を始めた。
「おはよう、皆に聞いてほしいことがある。落ち着いて聞いてくれ。昨日、このクラスのザック=ルニアス、ホア=ティール、シュラ=ナインズ、キリスナ=セイヤの四名が何者かに拉致され、現在も行方不明だ」
「「「「「えっ……」」」」」
生徒たちは、ラミアが何を言っているのかを理解できないという表情を浮かべて、固まっている。
しかし昨日まで同じ教室にいたクラスメイトの失踪と言われれば、そうなって今の反応も当然だ。
魔法師を標的とする人攫いについては聞かされていたが、身近な人が被害になっていなかったため、彼らはどこか楽観的にとらえていた。
さらにラミアは固まっている生徒たちに追い打ちをかけることを言う。
「四名を拉致した犯人たちは、いまだ身代金等の要求もしてこなければ、拉致したとも知らせてこないそうだ」
その発言を聞き、クラスメイト達は絶望の表情を浮かべる。それもそのはず、魔法師を拉致する理由として一番多いのは身代金だ。
魔法師を拉致するには、それ相応のリスクが伴うが、その分、身代金の金額は上がるため、未熟な訓練生が標的になることが多い。
そして二番目に多い理由は固有魔法を目的としたものだ。中級魔法師一族以上を拉致した場合、その魔法師一族の固有魔法の解析をして、解析されたデータと人質を一緒に渡すと身代金は三倍程になる。
どちらも金目当ての犯行が多い。
どちらにしても、攫ったということを知らせる必要があるのだが、犯人はそんな知らせを送っては来なかった。
そうなると、人体実験か単に衝動で殺されたと考えるしかない。
ラミアは四人が拉致されたと言っているが、それは確固たる情報ではなく、最悪の場合、四人はすでに帰らぬ人となっていてもおかしくないのだ。
例え人体実験のためだとしても、四人が生きて帰ってくる可能性はほとんどない。
「一応教会に連絡したが、みんなも気を付けるように。この件に関しては一応聖教会も動き出しているから犯人はすぐに捕まると思うが、くれぐれも無理をせず、危なかったら逃げるように。
それと今日の午後は授業がなくなった。そのため学園に残るのも禁止だ。帰る時はなるべく大人数で帰るように、あとジン、今から職員室に来るように、以上」
そう言い残してラミアはジンを連れて教室を出て行った。クラスメイトはどこか心非ず、と言ったような感じで、座学の授業に臨むのであった。




