第302話 それぞれに課された修行
モルガーナたちとともに戦うことを決めたセイヤたちだが、問題はまだまだ山積みだった。その中でも特に深刻なのがセイヤたちの実力である。
確かにここにいる面々の実力はレイリア王国内でもかなりのものだ。しかし十三使徒や特級魔法師、さらには魔王をはじめとする各国でも優秀な魔法師たちによって構成されているモルガーナたちの組織において彼らの実力はまだまだ物足りない。
特級魔法師の地位を持つセイヤやすでに十三使徒のレアルは組織内でもやっていけるほどの実力はある。だが他のメンバーでは力不足で決戦にとても参加できるほどではない。そこでモルガーナはヂルやバジルといった他の面々も王座に呼んだ。
またセイヤに関する事情やモルガーナの正体についてはすでに全員が知っている状態だ。バジルはセイヤの生い立ちに驚いていたが、それはまた別に機会に語ることにしよう。
新たに王座に呼ばれたのは十三使徒のバジル=エイト、ワイズ=トゥエルブ、ナナ=サーティーン。特級魔法師のイフリール=ネフラとその息子であるヂルだ。
現在アヴァロン島にいる主要メンバーが集まった中でモルガーナが口を開く。
「この世界の始まりともいえる創造主ノアは聖属性と夜属性も手にする特異な存在であり、我らの宿敵です」
ノアについて改めて説明を加えたモルガーナ。彼女はノアの恐ろしさを知っているからこそ、このままでは物足りないとよく理解している。
「そしてノアはすでに動き出しています。彼は聖戦と名付けた次の戦いで人類を滅ぼすつもりでしょう。ですが私たちはその聖戦において黙って蹂躙されるつもりはありません」
モルガーナの覚悟にライガーがうなずく。
「確かにノアは強敵です。しかし私たちにはノアに唯一対抗しうることのできる存在、聖夜の帝王がいます。彼は人類の希望にして世界を導く存在。そんな彼のために集まった若き魔法師たちにまずは感謝の意を示しましょう」
レイリア王国初代女王陛下からの言葉に自然と頭を下げてしまう面々。やはり身体はモルガーナが女王だとわかっているようだ。
民を奮い立たせるが如きモルガーナの話だが、彼女はそこでようやく本題へと入った。
「ですがあなたたちの力はまだ未発達。そこであなたたちには更なる飛躍をしてもらう必要があります」
「なるほどな」
「どうやら帝王はわかっているようですね」
自分が力不足だということを自覚しているセイヤはモルガーナの言葉をよく理解する。
「しかし飛躍といってもその過程は人それぞれ。なので今回は私から個別に飛躍のきっかけとなる機会を提供したいと思います」
そういうとモルガーナは一人一人を見据えて飛躍のきっかけとなる手段を伝えていく。
「まずはレアル=ファイブ。あなたは確かに強力な魔法師です。しかしまだ青い。ですから聖騎士アーサーが帰還後、隣のラピス島でアーサーとともに修行に励んでいただきます」
「俺が聖騎士アーサー=ワンと……」
思いもよらぬ指示に驚くレアルだが、レイリア王国において圧倒的な魔力を有するレアルを指導できる人材など限られている。その中で同じ光属性を使うアーサーはレアルにとって最適な指南役であろう。
次に指名されたのはセレナだ。
「セレナ=フェニックス。あなたには四神の巫女になってもらうため、レイリア王国より南東に位置するとある島に向かってください」
「四神の巫女ですか?」
「そうです。四神の巫女とはこの世界の頂点に君臨する者に使える巫女のこと。つまりこの場合は帝王キリスナになります」
「わかりました、頑張ります」
セイヤに仕えると聞いて舞い上がってしまい、詳細を聞かなかったセレナ。後にそのことを後悔することになるのだが、今はまだ先の話だ・
次の指名されたのはモーナ。彼女もまたセレナと同様の役割だった。
「あなたもまた四神の巫女になるため、北方にある地底湖に向かっていただきます。その場所とあなたの実力を鑑みてシルフォーノを同行させましょう」
「わかりました」
シルフォーノが同行すると聞いて安心したモーナ。十三使徒序列二位が一緒なら怖いものなんてない。
次にモルガーナが指名したのはユアだ。
「ユア=アルーニャ。あなたはすでに白虎を討伐したことで四神の巫女になる資格を有しています。あとはその力を覚醒させるだけなのでラピス島で修行に励んでいただきましょう。そうですね、相手はひとまずライガーに任せましょう」
「白虎……」
白虎とはダリス大峡谷にいた雷獣のことである。まさかその名をここで聞くと思っていなかったユアは雷獣との戦闘を思い出し、少しの間だけその出来事を懐かしむ。
そうこうしているうちにモルガーナはアイシィの方にやってくる。この流れで自分も四神の巫女になるのかと考えていたアイシィに下された命は意外なものだった。
「あなたは他の方とは違い、特別な力を有する機会を持っています。ですのでダクリアに魔王ギラネル=サタンにあなたのことを任せたいと思います」
「魔王……」
魔王という単語に本能的に嫌悪感を抱いてしまうアイシィ。しかし魔王が関わったダクリア二区の一件で一度命を落としていると考えると、そのような反応をしてしまうのも無理はない。
そんなアイシィを元気づけようとセイヤが言った。
「大丈夫だ。ギラネルは忠実な奴だし、きっとアイシィの力になってくれる」
「セイヤ先輩が言うなら」
こうしてアイシィの指導役も決まった。
次にモルガーナが視線を送ったのはセナビア魔法学園の面々だ。この中では彼らが一番戦闘経験が浅く、ノアとの決戦において前線に立てるか怪しいところだ。
そこでモルガーナは一つ下のレベルの提案をした。
「あなた方には闇属性との戦いになれることから始めていただきます。ですので魔王ダルダル=ベルフェゴールに一任することにしましょう」
魔王を相手にすれば彼らも闇属性になれるはずだ。実戦経験こそが一番の成長の道なので誰も文句は言わない。
「さてヂル=ネフラ。あなたは父親であるイフリール=ネフラとともに修行に励んでいただきます。あなたの戦い方はレイリア魔法大会で見せていただきましたが、まだ甘い。精度を高めない限り、ノアとの決戦では命を落とすでしょう」
モルガーナの言葉にヂルは何も言い返せなかった。それは無意識にヂルも自覚していたことだから。更なる力を求めていたヂルは基本が雑になってしまっているところがあり、まずはそこから直す必要があったのだ。
「次にバジル=エイト、ワイズ=トゥエルブ、ナナ=サーティーン。あなた方はすでに立派な魔法師です。自分がどうすれば強くなれるか、私が言わなくてもわかっているでしょう。なのであなた方に一任します」
モルガーナの言葉にうなずく三人。
最後に言葉を向けられたのはセイヤだ。
「帝王。あなたは聖属性を使えるようですが、まだ実力の一端も出せてない様子」
「わかっている。だが」
「教えを乞う人物がいないのでしょう?」
セイヤの反論を先回りするモルガーナ。その表情はどこか自信満々だ。
「ですから私が直々にあなたの修業を請け負いましょう。そして夜属性に関してはルナに任せます」
「あんたが聖属性を?」
「そういえばまだ申し上げていませんでしたね。私はこう見えても聖属性を使うノアの息子の妻にして、彼の背中を任された魔法師なのですよ」
衝撃の事実にセイヤたちは言葉を失う。だが同時にこれ以上、セイヤの修業にもってこいの人材はいなかった。
こうしてノアとの決戦に向けてそれぞれは動き出すのであった。




