第298話 モルガーナ様登場
部屋に入ってきたのはレアル、カイルド、クリス、ジン、ラーニャ、リュカの六人だ。彼らはセナビア魔法学園の代表選手であると同時にセイヤの元級友でもある。
かつてはセイヤを敵対視していたレアルもレイリア魔法大会後はセイヤの安否を心配し、バジルとともに聖教会に対して謀反を起こした。
そしてレアルを除く人はセイヤが特級魔法師就任に裏に隠された七賢人たちの思惑からセイヤを助け出せないかと考えていたところをシルフォーノからの遣いによってこのアヴァロン島へと招かれた。
彼らはアヴァロン島で合流後、一緒に行動していたのだ。
「まさかお前らまでここにいるとはな」
「当たり前だ。まだあの時の決着がついていないからな」
「そういうことか」
あの時とは以前レイリア王国中央王国の首都ラインッツでの出来事。異端認定を受けた直後のセイヤは路地裏でレアルと一戦交えた。それ以降レアルはセイヤのことを過剰に意識し、再戦を望んでいた。そのために出場したレイリア魔法大会では奇しくもデトデリオンの横やりによって再戦はかなわず、結局戦えずじまい。
加えてレイリア魔法大会後は七賢人たちの命を受けた聖騎士アーサー=ワンによって暗殺されると聞き、慌てて増援に向かおうとしたのはつい先日のこと。
それがこうしてお互い無事に会えたことはレアルにとっても好ましいことである。一方のセイヤはレアルに会った時にお礼を言うことを決めていた。
「ありがとな」
「なんだ急に。気持ち悪い」
「俺がアーサーに狙われると知って、バジルと一緒に七賢人たちに異議を申し立てようとしたんだろ」
「なぜそれを知っている」
「シルフォーノから聞いた」
「なっ……」
そこでレアルはセイヤたちの中にシルフォーノと見慣れない美女がいることに気づく。シルフォーノはレアルたちが七賢人らに異議を申し立てようとしたときに相手をした人物なので当然そのことを知っていている。
自分の好意がセイヤに知られてしまってレアルは少し恥ずかしそうだ。しかしそこで照れていてはどうしようもないのでレアルは反撃とばかりに答える。
「べ、別にお前のためではない。俺がお前と再戦するのに、お前が先に聖騎士様にやられては寝つきが悪くなるだけだ」
焦りながら反論するレアルを見たセナビア魔法学園の面々は微笑みを浮かべる。昔からの知り合いとだけあって、レアルが本当は何を考えているのかわかっているようだ。
そんなこんなをしていると、新たな人物が部屋に現れた。
「随分たくましくなったな、セイヤ」
「ライガー」
部屋に入ってきたのは緑色の髪をした筋肉質の男で《雷神》の異名を持つ特級魔法師ライガー=アルーニャだ。セイヤが身を寄せるアルーニャ家当主にして何かとセイヤを手助けしてくれるユアの父親だ。
ライガーはセイヤのことを視界にとらえると、ほぼ同時にセイヤの近くにいたロナの姿を見つける。そして少しだけ笑みを浮かべながらセイヤにいった。
「どうやら無事に大魔王になったようだな」
「大魔王?」
ライガーの言葉にレアルをはじめとしたセナビアの面々が首をかしげる。ユアたちはセイヤが大魔王ルシファーになったことを知っていたが、彼らはまだ知らない。しかしレイリア魔法大会を通して魔王が何を意味しているのかを知っているために余計に混乱した様子だ。
「セイヤは大魔王になった……」
「ダクリアの一番偉い人だよ!」
混乱するセナビアの面々に真実を教えたのはユアとリリィ。しかし彼らがそのことを理解するには少しのタイムラグが必要だった。
数秒の間をおいてレアルが発する。
「ま、まさか大魔王というのは……」
「嘘だろ!? アンノーンが」
「で、でもダクリアのトップって」
「間違いない」
「まって理解が追い付かない」
「大魔王ってすごい人だよね?」
レアルに続いてそれぞれ感想を述べていくセナビア勢だが彼らの表情は同様に信じられないという様子。しかしライガーはそんなことはお構いなしにと話を進めた。
「お前も久しいな、ルナ」
「お主は老けたのう」
「二十年も経てば当たり前だ」
「ふん。相変わらずあの姉妹の下にいるわけか」
「まあな」
ライガーに対してあまり好意的な態度を見せないロナ。しかしその理由を知っているライガーは特に咎めたりしない様子だ。
「じゃが、一応の礼は言っておこう」
「礼だと?」
「そうじゃ。セイヤを守ってくれたことじゃ」
「それなら当然さ。あの方、モルガーナ様の意向だからな」
「そうか。じゃがそれだけでもなかろう」
「さあな」
何か含みを持たせた答えのライガーにセイヤが問う。
「ライガー。そのモルガーナっていうのはここにいるのか?」
「なんだ、会いたいのか?」
「まあな」
レイリア最強の魔法師アーサーだけでなく、ダクリアのトップに君臨していたギラネル、さらには自らの両親をも従えていたモルガーナという人物にセイヤは興味があった。
それはセイヤだけでなく、ユアをはじめとしたアルセニア魔法学園の面々やセナビア魔法学園の面々も同じだ。ユアたちは数日前にアヴァロン島を訪れたものの、いまだにこのアヴァロン島の支配者であるモルガーナに会ったことはなかった。
セイヤたちの様子を見たライガーは一度息を吐く。
「確かにそろそろいいかもな。役者はそろったことだし」
ライガーがそう言うと、シルフォーノが立ち上がる。
「モルガーナ様はいつものところに?」
「ああ」
「なら行きましょうか。私も報告しなければ」
アヴァロン島へ帰還後、モルガーナに報告を済ませていないシルフォーノは一刻も早く報告を済まさなければならない。ユアたちの登場によって報告する機会を失っていたのだ。そしてロナは少しだけ機嫌が悪くなる。
「いくぞ、お前ら」
ライガーはセイヤたちを部屋から連れ出すと、モルガーナがいるとされる場所に向かった。
そこは大きな空間。言葉を発すればよく響くであろう造りをしており、これといって家具などはない。あるのは部屋の中心に置かれた大きな椅子のみ。その椅子はまるで王座のようだ。いや、それは紛れもない王座だった。
壁の上の方に取り付けられた窓から差し込む光がその王座に座る人物のことを照らす。
白い髪を伸ばし赤いドレスに身を包むその女性はどことなく気品を感じさせる。王座の横に控える初老の男性はちょうど部屋に入ってきたセイヤたち一行を見てわずかにほほ笑む。
ライガーはその部屋に入ると、敷かれた赤い絨毯の上を歩いていき、その女性の前にひざまずいた。それはシルフォーノも同じであり、その様子を見たレアルたちが困惑の表情を浮かべた。
レイリアを代表する特級魔法師と十三使徒がためらいもなく跪く相手。そこかた目の前にいる女性がとても高貴な存在だということは聞かずともわかる。
最初に跪いたのは十三使徒であるレアルだ。レアルを見てカイルドたちセナビアの面々もとりあえず跪く。そしてセレナたち生徒会組も遅れて跪いた。それだけではない、ユアも何かに導かれるように跪き、ユアの態度をみたリリィは訳もわからずただ真似をして跪いた。
リリィを除く面々はまるでそうしなければいけないような気がしたのだ。それは同調圧力というよりも無意識に体が動いたと言った方がいいだろうか。
逆にセイヤとロナだけが跪くことはなかった。だがそのことを誰も咎めようとはしない。というよりも、誰も言葉を発することができなかったのだ。
「あんたがモルガーナか」
「ええ。初めまして、帝王」
セイヤの不遜な態度に機嫌を悪くした様子はない。むしろセイヤのことを見た彼女は嬉しそうだ。
「ロナ、あいつは何者なんだ」
「あやつはモーガン・ル・フェイ・レイリア。初代レイリア王国女王陛下じゃ」
ロナの紹介を受けたモルガーナは笑みを浮かべるのだった。




