第31話 夜の戦い
ライガーとの決闘をした日の夜、風呂から上がったセイヤは階段を上り、二階にある自室へと向かっていた。
ユアの家は本当に城みたいにとても広く、セイヤの部屋から風呂まで行くのに五分はかかるため、風呂に入るのも一苦労だ。
しかしセイヤはそんな苦労よりも、これから始まる新たな生活を楽しみにしていた。
「ふぅ~」
セイヤは自分の部屋の扉を開けて中に入る。部屋の中は一人で過ごすにはとても広く、ベッドと机だけしかないためか、部屋をより一層、広く感じさせた。
この部屋はライガーがセイヤに用意した部屋であり、元客室だったため、ほとんど家具が置かれていない。
セイヤはこの部屋を、これから自分風にアレンジしていくつもりだ。
「んっ?」
セイヤが自室の扉を閉めた瞬間、部屋の真ん中に置かれているベッドの中が動いた気がした。
ここはライガーがセイヤのために与えてくれた部屋であり、当然ながら一人部屋で、他に誰かがいるはずもない。
もしかしたら使用人が掃除で入るかもしれないが、まさかベッドに入るわけがない。
セイヤは警戒度を最大限にして、ベッドに近づいていき、その布団を思いっきりめくった。
するとそこにいたのは、
「ユア!?」
「あっ、セイヤ……」
なんとベッドの中には、目を擦りながらセイヤのことを見るユアがいたのだ。しかもその姿は寝間着というにはどうも扇情的だ。
黒い下着に、太ももまでかかる黒いニーソックス。白い髪と白い肌を持つユアが纏う黒い下着とニーソックスは、男を刺激しうるには十分すぎるほどのものである。
「ユア、ここは俺の部屋でユアの部屋は一つとなりだぞ」
セイヤの言う通り、ユアの部屋はセイヤの一つ隣の部屋だ。
ちなみにリリィの部屋はセイヤとは反対側のユアの隣で、これはライガーがユアが寂しがらないようにと配慮したものである。
「知っている……セイヤの部屋に遊びに来たの……」
もちろん何年もこの家に住んでいるユアが自分の部屋を間違えるわけもなく、ユアは単純にセイヤに会いに来ていたのだ。
「ならなんでそんな姿なんだ?」
「婚約者だから……?」
自分でもよく理由をわかっていないようなユアは、首をかしげながらセイヤのことを見る。セイヤは目のやり場に困り慌てて目をそらした。
「とっ、とにかく何かを着てくれ」
「なぜ?」
「なぜって……それは目のやり場に困るからだ……」
「問題ない……私はセイヤの婚約者……」
ユアはそういうと、目をそらしているセイヤに抱き着く。セイヤは自分の体に当たっている柔らかいユアの体に、頭がくるくるし始める。
初夏のため、セイヤの寝間着はもちろん薄着だ。ダリス大峡谷ではお互い裸のまま抱き着かれたことはあるが、あの時はまだ緊張感というものがあった。
しかし今はそんなものなどまったくない。
体に感じるユアの柔らかさと、セイヤのことを見上げるユアの目は、いつもの彼女よりも何倍も大人らしくさせており、セイヤは己の一部が激しく反応するのがわかった。
それはセイヤの正面から抱き着いているユアにも当然わかってしまい、ユアはセイヤの反応を確認すると、嬉しそうな顔をして言う。
「私はセイヤの婚約者……好きにしていい……」
「ユア……」
セイヤの理性はそこで消滅した。
ユアのことをベッドに押し倒し、セイヤはそのまま自分の唇をユアの唇に押し付けて、濃厚なキスを始める。
セイヤはユアのことを求め、ユアも負けないとばかりにセイヤのことを求める。互いに激しく求めあう二人。
「二人だけでお楽しみはずるいわよ」
「「!?」」
突然の声に驚く二人。声のした方向を見ると、そこにはいつのまにか腕を組みながら二人の激しい求め合いを見るリリィの姿が。
しかしセイヤはリリィがいたことよりも彼女の姿に驚く。
リリィが纏っているのはバスタオル一枚だけだ。しかも水に濡れているため、リリィのナイスバディな体に張り付くバスタオルが、彼女のことをより妖艶にさせている。
特にその豊満な胸は、今にもこぼれ落ちそうなくらいで、セイヤの目は自然とそこに行ってしまう。
「うふっ」
「んっ……」
セイヤの視線に気づいたリリィは嬉しそうに笑みを浮かべ、ユアは不機嫌そうな顔になる。そしてユアが再びセイヤの唇に自分の唇を押し当てる。
リリィはそんなユアからセイヤを奪い取り、抱きしめた。
その際、セイヤの顔がリリィの豊満な胸の中に沈むが、リリィは気にしない。
「楽しむなら三人で仲良くしましょう」
「仕方ない……」
「んん……」
リリィはセイヤの頭を自分の胸に沈めたままユアに提案する。
ユアはどうやらリリィを仲間外れにする気もないようで許可を出した。セイヤはというと、リリィの豊満な胸に沈みながら窒息し始めている。
その後何があったかは言う必要もないだろう。
レイリア王国の中にある、とある館の、とある一室。
その部屋に、初老の男性がノックと共に入り、部屋の主に報告をする。
「マスター、ライガー殿から伝言です」
「なんですか?」
初老の男性にマスターと呼ばれたのは、三十歳ほどの美しい女性であった。
「帝王が見つかったとのことです」
「そうですか」
「それでは失礼します」
初老の男性は、主に事を伝えると、一礼して静かに部屋から出ていく。
部屋の主は座っていた椅子から立ち上がり、窓の外に浮かぶ大きな島を見ながら言った。
「ついに見つかりましたのね、光と闇の帝王。早く会いたいですわ」
部屋にはそんな女性の声が響くのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。これにて一章すべてが終了になりました。
一章ではセイヤの落ちこぼれから始まり、新たな出会い、そして新たな生活を手に入れることにいなりました。
本来なら次から二章に入りたいところですが、その前に番外編を挟みたいと考えております。番外編とは、具体的に言うとセイヤが覚醒するきっかけとなった事件のもう一つのお話になる予定です。
主役はセイヤではなく、セナビア魔法学園の生徒たちと、聖教会の魔法師です。一応番外編とついていますが、番外編に出てくる方々も本編にかかわってくるので、ぜひ読んでいただけたらと思います。




