第288話 大魔王の就任セレモニー
魔王会議から二日が経った今日、街は今まで以上に賑わっていた。それは魔王会議終了後、ダクリア全土に発表された新たな大魔王ルシファーの誕生と挨拶が行われると発表があったからだ。二十年ぶりの大魔王ルシファーの誕生を一目見ようと、各地から大勢の人々が押し寄せてきたのだ。
セイヤの大魔王就任式はこの日の午後から予定されており、その様子はダクリア全土で放送される予定だ。突然の知らせにもかかわらず人々がその瞬間を今か今かと待ちわびているのは、大魔王誕生とともに知らされたセイヤの血筋に関係していた。
ギラネルら魔王たちは新たな大魔王が先代大魔王であるキース=ルシファーの息子だとすでに発表しており、夜の精霊ルナとも契約を済ませているという旨も伝えている。つまり、国民達は新たなルシファーが大魔王の条件を満たしていることを知っているのだ。
二十年ぶりに現れた大魔王の正統後継者となれば、国民の期待が膨れ上がるのも無理はない。
一方で脱魔王派を掲げる一派はセイヤの存在をよく思わないために、就任式の妨害を考えていた。
「いいな、就任式が始まったら頭を狙うんだ」
「あとは同時に仕掛けるぞ」
「いくら大魔王とはいえ、他方から同時に攻撃されればひとたまりもないだろう」
「俺たちがこの国を救うんだ」
「そうだ。魔王の魔の手から救って見せる」
そこには百人ばかりの脱魔王派たちは面々が集まっていたが、その首にかけている冒険者タグはどれも低ランクのものであった。
国民の期待と脱魔王派の作戦が絡み合う中で、いよいよセイヤの大魔王就任式が幕を開ける。会場となるのは大魔王の館の七階部分に備え付けられたバルコニーだ。そこからセイヤは眼下に集まった観衆たち、映像を通してダクリア全土にいる国民たちに向かって演説を行うのだ。
「セイヤ様、時間です」
「わかった」
セイヤがギラネルに誘導されて部屋からバルコニーに出た瞬間、割れんばかりの歓声がセイヤに向かって放たれる。セイヤの姿を一目見ようと大魔王の館の門の前に集まった人の数は約三千人。その大衆の前に六人の魔王たちと一体の精霊を引き連れて姿を現したセイヤは、まさに大魔王ルシファーであった。
「大魔王様ー!」
「待ってましたー!」
「頑張ってー!」
「期待してるぞー!」
魔王たちを引き連れて現れたセイヤの姿を見た観衆たちが、セイヤに向かって好意的な歓声を向ける。観衆の中でも特に若者たちがセイヤに向かって歓声を上げている印象だ。逆に中年以上の人々はセイヤが登場する前と比べると、どこか冷めた印象である。
「なんかイメージと違うな」
「本当にキース様の息子か?」
「髪色も瞳も全然違うじゃないか」
「だが、あれは紛れもないルナ様だ」
「それにギラネル様も従っている様子」
「けどなんか違うよなー」
先代大魔王キース=ルシファーのことを知っている人々は、セイヤの容姿がキースと似ても似つかぬところに疑問を抱いている様子。確かに金髪碧眼のセイヤと白髪紅眼だったキースでは、容姿に差がありすぎて親子だと断定するのは難しいだろう。
それでも精霊ルナの存在やギラネルの態度を見る限り、偽物と否定することができないのもまた事実。戸惑いを抱きつつも彼らはセイヤのことを喜んだ。
セイヤが前に立つと、途端に歓声がやむ。それはこれから始まるセイヤの演説に耳を傾け、余計な音を立てないためだ。
そんな国民たちの態度を見たセイヤは感心するとともに、自分が彼らを守っていかなければならないと大魔王の自覚を改めて感じる。
「今日はよく集まってくれた。俺が新たに大魔王ルシファーに就任するキリスナ=セイヤだ」
五千人の観衆が集まったにもかかわらず、まるで音という概念が消えたような静寂な世界にセイヤの声が響いた。
「二十年前、俺の父親であるキース=ルシファーが突如姿を消し、国民に多大な不安を与えたことを父親に代わって謝罪する。だがこれだけは信じてほしい。俺の父親はこの国を捨てたのではない、むしろ国を守るために姿を消したのだ」
観衆の誰もがセイヤの言葉に耳を傾けて息をのむ。それは映像を通して演説の内容を見ていた全土の国民も同じであった。
「だから俺は今日ここに宣言する。この国を、この国の民を二度と不安にさせない安心して暮らせる国を作ることを。だからもう一度大魔王ルシファーを信じてほしい」
セイヤの力強く放たれた言葉の直後、世界は静寂に包まれる。そしてまばらに聞こえ始めた拍手が次第に大きくなっていく。それはセイヤの大魔王就任を祝う拍手であるとともに、この国の未来に期待したもの。
長年待ち焦がれてきた正当な大魔王の誕生に人々は歓喜に包まれていく。歓喜の声が上がり始め、群衆の中に広がっていき、人々は大魔王誕生をやっと実感し始める。
しかしその時だった。
「ふざけるな!」
「俺たちは大魔王など認めない!」
「魔王は不要だ!」
「偽りの王め!」
五千人の観衆の中で突然叫びだした百人程の集団。彼らはセイヤを否定すると同時に魔法陣を展開し、一斉にセイヤに向かって魔法を行使した。彼らは事前の打ち合わせ通りに行動を起こした脱魔王派の連中だ。
突然の出来事に群衆は悲鳴を上げて逃げ出し、パニックを起こし始める。もし五千人をも超える人々が一斉にパニックを起こせば一大事では済まない。けが人も多数出るだろうが、それ以上に大魔王の責任問題に発展するだろう。ましてやその状況を映像を通して客観的に見ている人々からすれば、尚更魔王制度に疑問を持つだろう。
それこそが脱魔王派の狙いであり、今回仕掛けた目的でもあった。
逃げ惑う人の中で一人の女性がその光景を目にする。
「きゃぁぁぁ!!」
脱魔王派の魔法師たちから放たれた魔法がセイヤに着弾すると思った群衆の一人が悲鳴を上げた。色とりどりの魔法がセイヤに迫っていたのだ。魔法を知る者ならその光景がどれほど絶望的なものかは知っている。それ程に多方向から放たれた多数の魔法を一人で同時に対処するのは難しいのだ。
その女性はセイヤが死んでしまうと確信する。けれども、彼女が恐れた光景はいつになっても訪れることはなかった。
「あれ?」
次の瞬間、セイヤの金色の髪は色素が抜けて白色に、碧い瞳は血のように鮮やかな紅色に変化する。その直後、セイヤに向かって放たれた魔法たちが一斉にその姿を消すと同時に、魔法を行使した脱魔王派の魔法師から魔力が消えた。
「なにがおきた!?」
「魔法が、いや魔力が……」
「どうなっている!?」
何が起きたのか理解できなかった脱魔王派たちは再び魔法を行使しようとするが、魔力を感じることができないため何も起きない。その光景を見たセイヤがパニックに陥った群衆に改めて宣言する。
「俺は何があろうとも負けることはない。だから安心してこの国で生きてくれ」
もしその言葉を平常時に聞いたならば戯言をといって笑うかもしれない。しかし今のセイヤの力を見た直後なら、その言葉もあながち嘘ではないと思える。
すでにパニックは収まっていた。そして先ほどまでの悲鳴は歓声へと変わり、セイヤに向かって喝采の嵐が浴びせられる。しかも今回は若者よりも中年以上のキースを知る世代の方が喜んでいる印象だ。セイヤの容姿がキースと瓜二つなことを考えれば、彼らが喜ぶのも無理はないだろう。
こうして大魔王ルシファーの就任式は成功に終わり、セイヤに攻撃を試みた脱魔王派たちはギラネルによって事前に配置されていた警備兵によって捕らえられるのであった。
7章で残りの特級魔法師を全て出そうと思っているのですが……思いつかない……
7人分の新キャラとか無理ですね...




