第285話 穏健派の反撃
魔王フォーノ=マモンの就任が承諾されたことにより、現時点で魔王会議の構成者の数は六名となった。しかもその内訳は穏健派と急進派がそれぞれ三名ずつという完全に二つに割れた状態だ。この状況は前マモンであるブロードがなくなる依然と同じだが、一つだけ異なる点があるとすれば急進派が一枚岩になったということである。
それまでの急進派はレイリアに侵攻して力で屈服させることを掲げたデトデリオンとレイリアを内部から崩壊させようとしていたブロードに分かれていた。そしてアスモデウスの名を持っていた夢王は自分の利益になることばかりを選び、デトデリオンとブロードどちらかについていたわけではない。
それが現在はアスモデウスの名を持つミコラは完全にデトデリオンの部下であり、新たにマモンの手に入れたフォーノも名目上はデトデリオン派に当たる。つまりデトデリオンの意志が急進派の総意になるということである。
この状況こそがデトデリオンの目的であり、今回の会議で達成しなければならなかった最低条件だ。当初はフォーノ=マモンの誕生に手間取ると踏んでいたデトデリオンだが、ふたを開けてみればあっさりと通ってしまった。
自分の思い描いていた想像通りに事が進むとついつい欲が出てしまうのが人間。デトデリオンは三つ目の提案を出そうと再び手を上げる。
しかしデトデリオンの行動にサールナリンが待ったをかけた。
「もう一つ提案したいことがあるのだが
「デトデリオン、君ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」
「どういう意味だ?」
若干の威圧を含めたサールナリンの言葉にデトデリオンが威圧を込めて返す。デトデリオンのやり方は魔王会議における規則にのっとっているので問題はないはずだ。けれどもサールナリンが言いたいことは違う次元の話だった。
「さっきから二人も魔王を誕生させてるけどさ、その前に言うことがあるんじゃない?」
「言うことだと? 俺は規則にのっとっている。問題はない」
「別にそういう意味じゃないよ。ただ案を出す前に報告をしたらどうなのって意味だよ」
「一体何を報告しろと?」
「レイリア侵攻の件についてに決まっているでしょ」
しまった、とデトデリオンは心の中で思った。サールナリンのいうレイリア侵攻とはもちろんこの間のレイリア魔法大会におけるデトデリオン一派による襲撃だ。結果的に失敗に終わった計画だが、そのことについて他の魔王には一切報告などはをしていない。
それは自らの醜態をさらすことで相手側、つまり穏健派の魔王たちに弱みを持たれるわけにはいかなかったから。しかしなぜ穏健派の魔王たちがレイリア侵攻のことを知っているのかデトデリオンにはわからなかった。確かにあの侵攻は大それたものであったが、ダクリアの存在が公表されていないレイリア国内ではレイリアの魔法師たちによる反逆となっているはずだ。
「まさか知らないとでも思った? 残念だけど詳細まで詳しく知っているよ。そっちのミコラ=アスモデウスがレイリアに潜入して手引きしたことも」
「確かにその件についての事情説明を求めたいものだ」
「ですなあ。それにブロードの行ったフェニックス誘拐の件も説明してもらいたいものです」
次々と穏健派の魔王たちから求められる事情説明。だがブロードの件に関してはデトデリオンも無関係であり、むしろ説明をするならブロードに仕えていたフォーノだろう。けれども当然そんなことを言えないデトデリオンは言葉に詰まってしまう。
「君たち急進派は勝手にやった上に甚大な被害をもたらしているんだけど」
「本来なら責任を取ってもらいたいところだな」
フェニックス誘拐、及びレイリア侵攻によるダクリアの被害は計り知れないものである。犠牲者の数もそうだが、ダクリア二区の機能停止や魔王に対する不信感を募らせた責任は大きい。ここでデトデリオンに魔王辞任を要求することも可能だ。
けれどもギラネルら穏健派の魔王たちはデトデリオンに辞任などは望んでいない。それは形がどうあれ、結果的に彼らの王であるセイヤの成長に繋がったからだ。
だからここで穏健派が求めたのは急進派に自重しろという意味である。
「俺に魔王をやめろと?」
「さすがにそれは言い過ぎではないでしょうか?」
デトデリオンを擁護するミコラだが、彼もまたレイリア侵攻における当事者なので責任を果たすように求められてしまうこともある。
「なにもそこまでは言っていない」
「ではどうしろと?」
「次から動くときは魔王会議を通してくれ」
「そんなことでいいのか?」
ギラネルの要求があまりにも軽いので逆に聞き返してしまうデトデリオン。これまでの穏健派はなら首を飛ばしてきてもおかしくないのだが、それで済むならデトデリオンとしてもありがたい。
そして同時にこれは穏健派が急進派に貸しを作ったことにもなる。しかも急進派が一枚岩になった今、急進派を率いるデトデリオンに貸しを作れたのは穏健派にとっても大きい。当然そのことをデトデリオンも理解している。だから今回の会議でギラネルを大魔王の椅子から降ろすことは自重することに決めた。
「わかった。では俺たち急進派から以上だ」
「そうか。なら次は我ら穏健派から一つ提案を出そう」
「提案ですか?」
提案を出そうとするギラネルに問いかけたのはミコラ。デトデリオンは自重して何も言ってこない。
「我々穏健派は話し合って一つの決定を下した」
「これからのダクリアのためにね」
「必要な処置ですな」
穏健派が何かを企んでいることはデトデリオンたちにも分かったが、ここで何かを言えるほど彼らの立場はよくはない。
「私は今日この瞬間をもって大魔王ルシファーの席から降りようと思う」
「なに!?」
つい声を上げてしまったのはデトデリオン。まさか穏健派から大魔王ルシファーの席を空席にするとは予想もできなかったので彼が驚くのも無理はない。それは急進派のミコラも同じで先ほどから開いた口がふさがっていない様子だ。唯一、鎧兜の下で笑みを浮かべたのはフォーノだが、その表情を目にすることができた者はいない。
「どういうつもりだ、ギラネル?」
「そのままの意味だ。今の私では大魔王ルシファーとサタンを兼任するには力不足である」
「それならサタンを空席にすればいいだろう」
穏健派と急進派で分かれているデトデリオンだが、彼はギラネルの実力を評価している。だからギラネルが自ら大魔王ルシファーの座を捨てようとするのに納得ができなかった。
「何度も言ってるが、私は大魔王代理だ。ルシファーの器ではない」
「ならルシファーはどうするというのだ? またダクリアを混乱の渦中に陥れる気か?」
自らの計画の斜め上をいくギラネルの出方に冷静さを失うデトデリオン。おそらく彼は自分の計画通りに物事が進まないと気が済まないタイプなのだろう。
そしてもちろんのことだがギラネルにダクリアを混乱の渦に巻き込むつもりはない。
「それに関してはすでに新たな大魔王を手配している」
「実力は本物だわ」
「血筋も問題ないですな」
口々に新たな大魔王の存在を匂わす穏健派の魔王たち。デトデリオンはそんな彼らを見て最悪の結果を予想した。
「まさか大魔王キースが戻ってきたのか?」
「いや、そうではない」
「でもあながち間違ってないですな」
「まあ百聞は一見に如かずでしょ」
サールナリンがそう言って月光の間の扉に手をかける。そしてギラネルとダルダルが席を立ち、扉の方に向かって跪き、サールナリンがゆっくりと扉を開ける。
「この方が我らの新しい王です」
「「なっ……」」
開かれた扉の先にいた人物の姿を見てデトデリオンとミコラは驚愕の表情を浮かべる。そしてフォーノことシルフォーノは兜をとると、ギラネルたちと同じようにその人物に向かって跪くのであった。
昨日無事に6章が全て書き終わったので7章は「レイリア分裂編」、「レイリア帰還編」、「レイリア王国編」、「あの方出てきますよ編」のどれかになります。ですが何も決まってないので更新速度は遅くなると思います。




