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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
6章 ダクリア動乱編
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第280話 リベンジマッチ(中)

 何が起きたのかはセイヤは本能的に理解した。そして自らの体内に闇属性の魔力を流し込み、今の事象を引き起こした元凶を消滅させる。同時に光属性の魔力を足だけに流し込んで後方に跳躍することでサールナリンの攻撃を回避した。


 「さっきの攻撃で俺の体内に闇属性を紛れ込ませていたとはな」

 「こういう戦い方もあるんだよ」

 「勉強になるな」


 なぜセイヤの『纏光』が突然消えてしまったのかというと、それはサールナリンが先ほどのワイヤーに自らの闇属性を混ぜることで、セイヤの頬の傷から体内に闇属性の魔力を紛れ込ませたのだ。それによってセイヤの体内から光属性の魔力を消滅させたのだ。


 光属性の魔力と闇属性の魔力は互いに相殺しあうため、『纏光』を解除させることはできても、セイヤの体内の魔力までをも消すことはできなかった。


 常にサールナリンの闇属性を警戒していたセイヤだったが、流石に自分の体内まで警戒することはできなかったために見事に彼女の策にはまってしまったというわけだ。だがこれでサールナリンの策はすべて尽きたはずだ。


 「次で決め……これは……」

 「残念。気付いちゃったか」

 「いつの間に」


 セイヤは自身の周りに再びワイヤーの結界が張られていることに気づく。今度は触れる前に気づいたため、先ほどのように体内に魔力を流し込まれるということはないはずだ。しかし今回も同じように、サールナリンが結界を張るような動作を一切見せなかった。


 それはまるで自分の意識がワイヤーに向けることができなくなっているような感覚だ。一体どうすればそんなことができるのか、と思ったセイヤはそこで一つの可能性に行きつく。


 「まさかこれも闘気なのか」

 「へえ、よくわかったね」


 別にわかったわけではない。ただセイヤが有する知識の中でこのような現象を引き起こせることができる手段を消去法で消していった結果、残ったのが闘気だけだったわけである。アーサーやギラネルの闘気を見る限り、その能力は十人十色のため、相手の意識を特定のことに向けない能力があってもいいはずだ。


 「私の闘気は相手の意識を対象から背けることができるんだよ。わかりやすく言えば、相手の意識を他の目立つもの、つまり私の闘気に向けることで相手は私が意識を逸らしたかったものに気づかなくなるってわけ」


 それはいわばミスディレクションそのものだ。サールナリンは自身の闘気に相手の意識を向けることによってワイヤーの結界の展開から相手の意識を逸らすことで気づかれずに結果を張っていたのだ。その能力は一度でも気づけば脅威にはならないだろうが、気づかぬ間はかなりの脅威である。


 相手の意識を他に向ける闘気の存在をにわかには信じられなかったセイヤだが、実際に目にしているのだから否定することはできない。そこでセイヤは更なる事実に気づいた。


 「もしかして四区にいた頃もそれで正体を隠していたのか」

 「凄い洞察力だね。それも正解だよ」

 「道理で他の冒険者たちがギルド職員の正体に気づかないはずだ」


 ダクリア四区を統治する魔王サールナリン=レヴィアタンと、ダクリア四区のギルド職員サーりんは同一人物である。しかしそのことに気づいた冒険者はほとんどと言っていいほど皆無だ。それどころか二人の関係性を疑うことすらもなかった。


 常識的に考えれば魔王がギルドで働いているというのはおかしい話だが、サーりんの実力は一介のギルド職員のそれと考えるにはあまりにも異常すぎた。だというのに誰もサーりんのことを調べる者もいなければ、怪しむ者もさえいない。


 それはあまりにもおかしい話だ。ましてやダクリア四区以外の地域では四区の噂が有名だというのに、誰もその真相を調べようとはしない。いな、誰も調べることができなかったのだ。なぜならダクリア四区に入った瞬間、魔王サールナリン=レヴィアタンとしての闘気が発動され、ギルド職員サーりんに関する意識を他の者に向けられてしまったから。


 「それにしてもダクリア四区全体を闘気の発動範囲にすることなんてできるのか?」

 「別に無理な話じゃないよ。闘気それ自体の質をかなり落とせば広範囲に行けるから」

 「それだと効かない連中も出てくるんじゃないのか」

 「ああ~それは大丈夫かな。だってうち、高ランク冒険者来ないし」


 ダクリア四区には冒険者にとって不利な噂が多いために冒険者が寄り付かないのは有名な話だ。何か事情を抱えた冒険者や評判の悪い冒険者が集まっているので闘気が破られることはないのだろう。


 「さて、お話はここまでにして続けよっか」

 「いいぜ。だがもうワイヤー操作は見破ったぜ」

 「本当かな」


 セイヤの言葉にサールナリンが確かめるようにワイヤーを操作する。しかしいくら操作しようとも、ワイヤーが動くことはなかった。


 「へぇ、どうやら本当に見破ったみたいだね」


 サールナリンはワイヤーの基点となる圧縮した空気の塊の周りにセイヤの『光壁シャイニングウォール』が小さく展開されているのを目にする。


 「さっき消滅させた時に想定以上のものがあって気づいたんだ」

 「そっか、あれだけで気づくか」

 「まあ仲間に同じような魔法を得意とする魔法師がいるからな」

 「それはあってみたいかも」


 同じような魔法を使う魔法師とはモーナのことである。モーナは『風道』という魔法を得意とする魔法師であり、サールナリンも同じような魔法を使っていたのだ。


 結論から言えばサールナリンは基点となる空気の塊をそのまま作るのではなく、短いの『風道』の中に作っていたのだ。そしてすべての空気弾を覆うそれぞれの風道を地面との相対位置の固定することで空気の塊を移動させることを可能にしていた。


 『風道』は予め設定された質量の物体を通すことのできる魔法であり、圧縮した空気の塊の質量を設定することで空気の塊は地面との相対位置に影響されることなく移動することができるのだ。


 もともと空中にあった空気の筒の中を空気の塊が移動したところで筒と地面の相対位置は変わらないから。しかもワイヤーの基点となる空気の塊はそれぞれの稼働域内なら自由に移動することができるので、ただ漠然と全ての基点を動かさず、一部の機転を移動させるだけでも十分にワイヤーの距離を変更することができるのだ。


 ただのワイヤーと空気の塊による基点ではなく空気の筒を利用したその技はサールナリンが編み出したオリジナルのものだろう。一つ一つは難易度の高いものではないが、それらは同時に展開し、しかも戦闘の中で操作するのはさすがは魔王というところだ。


 しかしタネも仕掛けも分かってしまえばセイヤにとって脅威になることはない。空気の筒もその間を遮ってしまえば移動は出来なくなるし、闘気で意識を逸らされてしまうなら闘気をぶつけて防げばいい。


 対策はいくらでも考えられた。


 「でもここまでバレちゃったらお手上げだよね」

 「降参でもするか?」

 「まさか。それにセイヤくんの成長した姿を目にしてないもん」

 「それもそうだな」


 サールナリンの言葉にセイヤはゆっくりと息を吐く。


 「それじゃあ新しい力を使わせてもらうぜ」

 「どうぞどうぞ」


 次の瞬間、セイヤの碧い瞳が紅くなった。

記念すべき300話目は説明で終わってしまいました。それにしてもサールナリンにバスケやらせたら楽しそうです。

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