第279話 リベンジマッチ(上)
大魔王の館の中には闘技場と呼ばれる巨大な空間が備え付けられている。そこでは主に魔王たちによる決闘や大魔王の夜属性の修業などといった甚大な被害が予想されであろうことを行うスペースとして作られている。
セイヤとサールナリンはその闘技場に降りてきて決闘の準備を始めた。言うまでもなく親バカなギラネルと二人の戦いに興味のあるダルダルも闘技場に降りてきている。
「セイヤ様、少しサールナリンにお灸をすえてください。手加減の必要はありません」
「あ、ああ」
セイヤの顔に迫るギラネルは真剣な表情をしていて、その迫力にセイヤは押されてしまうが、リベンジする気が満々のセイヤに最初から手加減する気などは毛頭なかった。
「準備はいいですか?」
「大丈夫だ」
「私も問題ないよ」
審判役を引く受けてくれたのはダルダルだ。ギラネルではセイヤに判定が傾くであろうと誰もが思っていたので当然の判断と言えよう。
「ルールは特になし。本気のぶつかり合いをして結構。ですが施設は壊さないように」
「わかった」
「了解」
「それでは始め」
ダルダルの合図とともに、セイヤは光属性の魔力を全身に流し込み身体能力を上昇させる。それは前回の戦いでは使うことのできなかった魔法だが、すでに互いの正体を知っているために出し惜しみする必要はない。
身体能力を上昇させたセイヤに対し、サールナリンは疾風のごとくセイヤに向かって突進を試みる。しかしその攻撃はセイヤが跳躍して回避したために中断されてしまう。この時点で互いに複数回の闇属性を行使しているが、お互いの闇属性によって消滅させられている。
突進を中断したサールナリンはその場で上空に向けて緑色の魔法陣を展開すると圧縮した空気弾をセイヤに向かって撃ち出した。
「その攻撃は一度見ている。『光壁』」
「そう言えばそうだったね」
脱魔王派の施設で同じ攻撃を見ていたセイヤは光の壁を展開して空気弾を防いだ。そして展開した光の壁の魔力を空気弾のように圧縮して光弾を作り出し、地面に向かって撃ち出す。
「意外と器用なことができるんだね。でも無意味だよ。『疾風破』」
サールナリンの右手に展開された緑色の魔法陣から突風が引き荒れると、セイヤの撃ち出した光弾を全て薙ぎ払い、その直後に闇属性を行使して消滅させる。これによってセイヤの魔力の再利用を防いだのだ。
しかしすでにセイヤは次の手を打っていた。空中に新たに光の壁を展開させ、それを足場として蹴りだすことでサールナリンに迫るセイヤ。その両手にはすでに双剣ホリンズが握られていた。
「かかったね」
「!?」
ホリンズを両手にサールナリンへと迫ったセイヤは悪寒に襲われ、慌てて空中に光の壁を展開して着地すると、自分の頬に手を振れた。すると手には真っ赤な鮮血がついており、自分の頬が何かによって斬られたことを理解するセイヤ。その何かはすぐにわかった。
「ワイヤーか。それもかなり細い」
「正解。今セイヤくんの周りには無数のワイヤーの結界ができているよ」
「なるほど。圧縮した空気と地面をそれぞれ相対固定することでワイヤーの基点となっているのか」
「よくわかったね」
「同じような技を前にも見たことがあるからな」
サールナリンの使ったワイヤーの結界は基本的に狭い空間でこそ威力を発揮する攻撃だ。それは狭いがゆえにワイヤーの基点となる物体が多いからである。しかし闘技場のような開けた広い空間では基点となるものが存在しないためにワイヤーの結界を張るのは難しい。
そこで彼女は圧縮した空気弾と同じ原理で空気の塊を作り、互いの相対位置を風属性の硬化で作用で固定化するとともに、それをさらに地面との相対位置を固定することで何もない空間にワイヤーの結界を作り出したのだ。
その技術はレイリアの魔法大会で魔王デトデリオン=ベルゼブブの見せた空中歩行と同じである。あの技も自らの足元と地面の相対位置を風属性で絶えず固定することで空を歩いているように見せていたのだ。
デトデリオンの魔法を見ていたからこそわかったものの、サールナリンの戦い方はセイヤがこれまで戦ってきた魔法師の誰よりも特徴的だ。それは力を誇示する戦い方ではなく、いかに相手を効率的に仕留めるか。
「これが白金等級の冒険者の実力か」
「わかっちゃうか」
「この前とは戦い方が明らかに違うからな」
「まあそうだろうね」
この前、つまりダクリア四区の冒険者試験で戦った時のサールナリンは言ってしまえば正直に力比べをする戦い方だった。それは相手の攻撃を封じしてねじ伏せようとする戦いだ。一方、今のサールナリンの戦い方はいかに相手の隙をついて仕留めるかを追い求めているように思える。
つまり戦い方が根本的に違ったのだ。といっても、それはセイヤにも当てはまることである。
「セイヤくんこそ光属性を使った魔法が得意なんだね」
「一番慣れているからな」
潜入するためにダクリア四区にいたセイヤは大っぴらに光属性を使うことができなかったため、サールナリンとの戦いでも随分と力を制限されていた。そう考えると、今の戦いは両者の本当の力をぶつけ合う戦いともいえる。
「それで、このワイヤーからどうやって抜け出すのかな」
「抜け出すことは簡単だ。問題はいつワイヤーが使われたかだ」
セイヤの懸念事項はワイヤーの位置ではなく使用されたタイミングだ。ワイヤー自体はホリンズで切るなり、闇属性で消滅させるなり、対抗策はいろいろある。だが肝心の使用されたタイミングが分からないのは命とりともいえる。
もし同じように気づかぬ間に使用されたら今度は首が飛ぶかもしれない。そうならないためにも経過する必要があった。
「いい着眼点だね。でもそんなじっとしていていいの?」
「ちっ、そういうことか」
先ほどまで数センチ先にあったワイヤーが数ミリのところまで迫っていることに気づいたセイヤはとっさに『闇波』を使ってワイヤーを消滅させた。どうやらサールナリンのワイヤーは基点となる空気の塊を移動させることでワイヤーの角度や長さを調整できるらしい。
だがどうやって基点を移動させているのか。相対位置を固定化された基点は硬化を解かない限り移動することはできない。だが仮に解いた場合、それに対応する相対位置の固定が難しくなってしまい連鎖的に崩れ去ってしまうだろう。
一体どうやって基点となる空気の塊を相対位置の固定を解かずに移動させているのか、セイヤにはわからなかった。しかしわからないからと言って立ち止まっていたら、再びワイヤーの結界を展開されてしまうだけである。それなら攻撃をするしかない。
「『限界突破』」
セイヤは視界から色の無くすと、モノクロの神速の世界に入る。この域に達すればいくらサールナリンといえども反応できるはずはない。
両手のホリンズを握りしめ、神速の速さでサールナリンに迫るセイヤ。それに対してサールナリンは自身に風を纏わせて高速移動を試みるが、風と神速では後者の方が断然速かった。
「しまった」
「終わりだ」
セイヤの声がサールナリンにとどいたかはわからない。だがセイヤは自らの勝利を確信した、その時だった。
「なーんてね」
「これは!?」
次の瞬間、セイヤの身体が神速の世界から現実世界に戻ってきてしまう。それは突然セイヤの身体能力を上昇させていた光属性の魔力が消えてしまったためである。
そして現実世界に戻ってきたセイヤに対してサールナリンが風を纏った拳を振り下ろした。
今日一日で5話書いたのでストックありありです。このままだと調子に乗っちゃいます。




