第278話 穏健派の話し合い
帝国北西部の住宅街をカモフラージュにし、その地下に巨大な施設を作って拠点としていた脱魔王派帝国支部の後処理を終えたセイヤとサールナリンは大魔王の館へと戻ってきていた。今回の一件で明らかなになった脱魔王派の現状は放置しておくにはあまりにも悲惨なため、帰還後セイヤはすぐにギラネルとダルダルを呼んで話し合いの場を設ける。
セイヤを迎えたギラネルとダルダルはサールナリンの存在に少し驚いた様子を見せたものの、すぐに会議室に移った。そしてセイヤが脱魔王派の拠点で見聞きした事実を伝えると、一同は重たい空気に包まれる。
「そうですか、脱魔王派のバックにはレイリアの魔法師が」
「しかもそれがただの魔法師ではなく特級魔法師というのは驚きですな」
「私的にはセイヤくんが特級魔法師になっている方が驚きだけどね」
セイヤの報告に三者三葉の反応を見せる魔王たち。彼らは魔王という地位にあるためレイリアの仕組みにも精通しているので特級魔法師がどのような存在であるかはよく理解している。
ちなみにセイヤの帰還直後、セイヤのことをセイヤくんと呼ぶサールナリンに対してギラネルが敬語を使う用にとがめたが、セイヤが気にしないといったことでそのことに関しては有耶無耶になっていた。ギラネルとしては大魔王に仕える魔王という立場を鑑みてセイヤに対して敬う態度を取るべきだと思っているのだが、最初の出会いが冒険者とギルド職員という関係性だったサールナリンにしてみれば少し抵抗があった。
それはセイヤも同じであり、一度敗れているサールナリンに敬語を使われるのは少しむずがゆいものもあるので気にしないというスタンスを取っている。
そんなやりとりがあったがあったためか、サールナリンがセイヤのことを君付けて呼ぶたびにギラネルの眉がピクリと動いていた。しかしそんな様子に気づいていない、または気づかないふりをしているサールナリンは構わずセイヤのことを君付けで呼ぶ。
「ところでセイヤくんはその特級魔法師が誰かわかっているの?」
「一応な。俺を含めて十三人しかいない中で精神干渉系の魔法を使うのは一人だけだ」
「やっぱこういう時にレイリアの魔法師がいると便利だよね」
脱魔王派を裏から支えている特級魔法師に目星がついていることはダクリア側からしたらとてもありがたいことだ。いくら魔王たちがレイリアの魔法師について知っているといっても、それは名前や立場だけであって、どのような魔法を使うかなどは把握できていない。特に特級魔法師ともなれば噂が噂を呼んで真実とかけ離れた人物像になることも多々ある。
だがレイリア側としても同じで、国を統べる聖教会上層部や特級魔法師協会の面々もダクリアの魔王たちについて知っていることはあるが、その人物がどのような魔法を使うかなどはあまり知られていない。故にセイヤがレイリアの情報を有しているのは魔王たちからしてもありがたいものであったのだ。
「それでセイヤくんはどうしたいの?」
「俺は別に脱魔王制を掲げる行為を否定する気はない。だが目的のために弱者を虐げる奴らのやり方を赦せるかと言われれば、赦すことはできない」
強者の自己中心的な思惑のために虐げられる弱者の気持ちをよく理解できるセイヤだからこそ言える言葉。最初から力を持っていて強者に虐げられた経験の魔法師が言っても説得力のない言葉だ。
「つまり脱魔王派を掃討する、でいいのかな?」
「それで問題ない。それが俺の作りたい国だ」
「素晴らしいお言葉です。セイヤ様」
「本当ですな。初めてあった時よりも随分ご立派になられたようで」
ますます大魔王ルシファーとしての風格を身に着けたセイヤに感動するギラネルと感心するダルダル。そんな二人を見て少しだけ困惑した表情を見せたサールナリンはおそらくギラネルの親バカさに呆れているのだろう。
「じゃあ具体的なプランだけど」
「それなんだが一つ聞いてほしいことがある」
「ん、なに?」
「新しいマモンについてだ」
新しいマモンの存在はいまだにはっきりしていないが、新たしく魔王になったミコラ=アスモデウスの口からその候補について重要な情報を得たセイヤはそのことを魔王たちに伝える。
「実は新たしいアスモデウスに街であってな」
「アスモデウスに? お怪我はありませんでしかた?」
「大丈夫だ。向こうは俺が特級魔法師の任務できていると勘違いしていた」
「それはよかったです」
ミコラとの接触を聞いた瞬間、焦った表情を浮かべたギラネルはやはり親バカなのかもしれない。
「それでミコラが俺に言ったんだ」
「ミコラ、ですか?」
「悪い。ミコカブレラ=ディスキアンはアスモデウス襲名の際にミコラと名を変えたらしい」
「そうでしかた」
聞きなれない名前に首をかしげたダルダルがセイヤの説明に納得する。どうやらその反応を見る限り急進派の情報収集はあまり芳しくないようだ。
「今からマモンになる彼女を迎えに行くと」
「彼女……つまり急進派の用意するマモンは女性ですか」
「おそらく。悪い、だがそれ以上は聞き出せなかった」
「いえ、十分な情報です。性別が分かればこちらで用意した候補から随分絞れます」
「その通りです。それに女となれば魔王になれるほどの実力者は限られてくるはず」
ダルダルの言う通り、冒険者という職業が大部分を占めるダクリアにおいて高ランク冒険者になる割合は男性の方が多い。女性にも優秀な冒険者はいるのだが、そのほとんどが結婚などで引退し、その後は子育てに集中する。そのため女性となれば自ずと候補は絞られてくるのだ。
「でも私のところにはそんな情報は入ってきてないよ」
「ギルドにか? ならその候補は急進派に属する一族の者か」
各地のギルドにコネクションを持つサールナリンにはあまたの冒険者の情報が入ってくる。もし冒険者から魔王になる存在がいるとすれば、当然ながら噂になるはずだ。その噂がないということはおそらく彼女というのは冒険者ではないのだろう。
「見つけられそうか?」
「とりあえず帝国の入国履歴を見て絞るというのがいいでしょう」
「そうですな」
「そうだね」
こうしてセイヤを加えた穏健派の魔王たちの会議は幕を閉じる。そして各々が解散しようとしたその時、サールナリンがセイヤのことを呼び止めた。
「あ、セイヤくん」
「どうした?」
「今から時間ある?」
突然の質問に意図を測りかねるセイヤだが、時間はあるので素直に答える。
「問題はないが」
「そっか。じゃあ今から決闘しない?」
「おいサールナリン、貴様!」
サールナリンのセイヤに対するぶしつけな申し出を咎めるギラネル。なぜならその申し出は捉えようによっては大魔王の椅子をかけて戦えとも取れるから。だがもちろんサールナリンにそんなつもりはない。
「前からどれだけ成長したか気になるし。それに、私は自分より弱い存在に仕えたいとは思わないな」
あからさまな挑発だが、セイヤにとっては思ってもみなかった提案である。ダクリア四区で冒険者になる際、サールナリンに敗北を認めたセイヤにとってはリベンジのチャンスだ。
あの時の自分からどれだけ成長できたのか気になるのも事実。だからセイヤはその提案を快く受けた。
「俺もリベンジしたいと思っていたところだ」
「そっか、それはよかった」
「セイヤ様ぁ……」
「ほほっ、これは面白そうですね」
こうしてセイヤのリベンジマッチが幕を開けるのであった。
新年あけましておめでとうございます。今年も一年よろしくお願い致します。
ということで年が明けました。なので勝手に今年の目標を掲げたいと思います。今年の目標はズバリ
「ストックを溜める」
です。意味はそのままで、今まで書いてはすぐに投稿をしていたのですが、それをやめてストックできるようにしたいと思います。ちなみに有言実行、すでに三話分のストックができました。この調子でストックしていきたいと思います。




