第275話 大魔王の初仕事
魔王サールナリン=レヴィアタン。その名前はダクリアで知らぬ者はいないほど有名な名前であるが、その姿を見たことがあるという人間は意外と少ない。その理由としては魔王サールナリン=レヴィアタンは基本的に表舞台に出てくることはなく、魔王としての雑ものほとんどを部下に任せているからだ。
だからだろうか、魔王サールナリン=レヴィアタンについての噂は様々あった。
曰く、その魔王は見るものを震え上がらせるほどの威圧感を持つ大男である。曰く、その魔王は一日に十人分の食料を食らい、魔獣までをも食す異人である。曰く、その魔王の通った後は塵一つ残らない無情の王である。曰く、その魔王が気に入らなかったものは一瞬で壊される。
数々のうわさが立つ中で一つだけ共通していることがあった。それは魔王サールナリン=レヴィアタンは元々白金等級の冒険者であったと。冒険者としてその高みに昇った白金等級のサールナリンは先代魔王レヴィアタンを打ち破ったことで魔王の地位を手に入れた。そしてそれ以降、冒険者としての活動のすべてをやめた、と。
冒険者たちの中では白金等級冒険者は伝説の存在であり、ダクリアの歴史においても数えるほどしかいなかった。だから脱魔王派の冒険者たちも最初は信じることができなかった。
「ま、まさか白金等級冒険者がいるなんて」
「偽物に決まっている」
「そ、そうだ。魔王がこんなところにいるはずがない」
「信じないからな!」
口々にサールナリンのことを否定しようとする冒険者たちだが、彼らは本能的に彼女が本物の白金等級冒険であり、魔王サールナリン=レヴィアタンだということはわかっていた。しかし身体ではわかっていても、頭が理解することを拒んでいたのだ。
彼ら脱魔王派の冒険者たちは、脱魔王制を掲げる割には魔王との戦闘など経験したことがなかった。自分より弱い相手にしか手を出してこなかった彼らにとって、魔王と戦うことなど考えられなかったのだ。
「もしかして脱魔王制を掲げているのに、魔王たちの正体を把握してないの?」
「みたいだぞ。さっきもアスモデウスの顔さえわかっていなかった」
「脱魔王派が聞いてあきれるね。そんなんでよく脱魔王なんて言えるよ」
脱魔王派たちの乏しい情報に呆れを通り越して何も言うことのできないサールナリン。次期大魔王ルシファーになるセイヤを連行したのだから、どれほどのものかと期待していたサールナリンにとっては落胆するほかない。
「じゃあこいつら、セイヤくんの正体も知らないわけ?」
「おそらくな。アスモデウスの情報を聞くために連れて来たみたいだ」
「ほんと呆れるね。自分たちが何を相手にしているかくらい知っておくべきなのに」
セイヤとサールナリンの会話に何も言うことのできない脱魔王派の冒険者たち。それよりも彼らはなぜ二人が対等に話をしているのか理解できなかった。
ダクリアの歴史においても数えるほどしかいない白金等級冒険者であり、今は魔王レヴィアタンの名を持つサールナリンに対し、セイヤはどこの馬の骨とも知れぬDランク冒険者だ。普通に考えればセイヤはサールナリンに対して敬語を使わなければおかしいのだが、セイヤは使おうとする様子は全くない。それどころかサールナリンもセイヤに敬うような態度を求めない。
二人は一体どういう関係性なのかと疑問に思う冒険者たち。
「か、仮に貴様が本物の魔王だったとして、そっちの雑魚をどうして助ける?」
「そっちの雑魚? ほんと君たちって馬鹿だよね」
「なんだとぉ?」
「いや、だって魔王に向かって雑魚って」
「魔王?」
今彼女は何と言っただろうか? 魔王? 一体誰が? そこにいるDランク冒険者が? 何の冗談を言う。Dランク冒険者の魔王なんて聞いたこともなければ、存在するはずもない。仮に存在したとしてもすぐにほかの強者に淘汰されてその命を落とすだろう。
サールナリンの言葉に脱魔王派の冒険者たちが一斉に声を上げて笑う。
「そ、そいつが魔王なんて」
「あ、ありえねぇよ」
「やべえ、腹がいてぇ」
「めっちゃ面白い冗談だろ」
「どうやったらDランク冒険者が魔王になれるんだろ」
「パパのコネでも無理だろ」
口々にセイヤのことを嘲笑う冒険者たち。そんな冒険者たちを軽蔑の眼差しで見つめるサールナリンがセイヤに言った。
「セイヤくん、冒険者になった時の点数って何点だっけ」
「点数? 確か五十三点だったような」
「正解」
記憶をたどって思い出したその点数は自分でもひどいと思うセイヤだが、魔獣の名前を知らなかったことを考えれば頑張った方だろう。
しかしそのことを知らない脱魔王派の冒険者たちはセイヤの点数を聞いてさらに笑った。
「五十三って」
「どうやったらそんな点数を取れるんだろ」
「そんな雑魚が魔王な訳ないわ」
「魔王になる前に死ぬって」
今も笑う冒険者たちに向かってサールナリンが困ったように言う。
「本当に君たちって馬鹿」
「なんだと?」
「セイヤくんの点数の内訳を教えてあげるよ。筆記三点、実技五十点。ちなみに登録したギルドは四区のギルドで試験官はこの私。おわかり?」
サールナリンの説明を聞いた瞬間、先ほどまでセイヤのことを嘲笑っていた彼らが一瞬にして黙り込んでしまう。
「おい、いまなんて」
「ダクリア四区?」
「しかも相手が白金等級の魔王?」
「それで実技満点って……」
ダクリア四区のギルドには魔物がいるという噂は有名な話だ。特に冒険者を目指す若者たちは決してダクリア四区で冒険者になろうとはしない。なぜなら四区の合格条件はダクリア内でも一番難しく、受けに行く者はよっぽのど自信家か、ただの馬鹿である。
それほど有名な四区で実技の満点など信じられなかった。しかし彼らはその事実を信じるに値する証拠をその目で見ているはずだ。たった一人で拷問室から抜け出し、警報が鳴る中で一人一人を無力化してここまで来たセイヤの実力を。
それは普通のDランク冒険者には到底できることではない。Bランク冒険者であっても難しいだろう。その時点で彼らはセイヤの異常さに気づくべきだった。
「お、お前は一体何者なんだ……」
「俺はキリスナ=セイヤ。Dランク冒険者の雑魚だ」
たっぷりと皮肉を込めた言い回しで答えるセイヤにサールナリンはわずかに笑みを浮かべた。そして彼女の口からセイヤの正体が明かされる。
「それと、セイヤくんは次の大魔王だよ。私たち魔王のトップに君臨する、ね」
「大魔王だと……」
その言葉に冒険者たちは言葉を失う。いや、思考が停止したと言った方が妥当かもしれない。まさか自分が相手にしているのが実は魔王と大魔王だと言われれば誰だって考えるのをやめたくなる。
そしてそれは結果として現れた。
「さて終わりにしようか」
「被害者は傷つけないでくれよ」
「了解、大魔王様」
二人は残った脱魔王派の冒険者たちに向き合うと、再び攻撃を始めた。こうしてこの日、セイヤの大魔王としての最初の仕事として、脱魔王派帝国支部の壊滅が完了するのであった。
その後、彼らはサールナリンが事前に手配していたギラネルの部下たちによって連行され、被害者は病院へと搬送されて、今回の一件は幕を閉じる。しかし、このことが後にさらなる厄介事を引き起こすことを、セイヤたちはまだ知る由もなかった。
実を言うと、今回な話を書くのは2回目なんです。
事の発端は毎日2話投稿を始めたことです。元々2話書く気はなかったのですが、連載再開後、昔の感覚が戻ってきて同じ時間で6000字程度の話が書けるようになり、それを分割して2話にしていました。
そして今日も同じように書いていて、8割ほど終わった所だったでしょうか。誤字を見つけて1文字を消そうとしたその瞬間、あら不思議。画面が変わりました! 「あ、やった」と思いました。
案の定、1時間の努力は霧散してました。いや、もう萎え萎えの萎えすぎて30秒ほどフリーズしました。
こういう時にストックがあれば、その日は書くのをやめていいのでしょうが、後先考えずに2話投稿を繰り返してたおかげでストックなんてありません。
自分の愚行を恨みながら書き直しました。しかし一度書いたものをもう一度書くのは精神的に辛いもので、途中で挫折した結果、元々6000字近くあった話が3000字に減りました。
具体的には「大魔王だと!?」の後に戦闘シーンがあったのですが、だめです。もう書けません。実質一日で3話書いた後にもう1話分は無理です。なので思い切ってカットしました。そんな深夜1時の悲しい話でした。
どうすればこんな事故を防げるのか、誰か教えてください。次同じことが起きたら書くのをやめる自信があります。辛すぎるよ、夜にあんなのは......寝ます




