第270話 ミコラ=アスモデウス
ミコカブレラたちの仲間にならないか。もしアーサーと出会う前にその提案を受けていたなら、もしかするとセイヤは魅力的な提案を飲んでいたかもしれない。
彼ら急進派の目的が何にせよ、セイヤはレイリア最強の魔法師と謳われる聖騎士アーサー=ワンに単独で突っ込むような無謀な人間ではない。利害の一致として一時的に彼ら急進派と手を組んでいた可能性は十分にある。
しかし今のセイヤはアーサーとすでに出会い、彼らのたくらみについて聞かされている。だからセイヤがミコカブレラの提案を断るのは当然のことだった。
「悪いが断らせてもらう」
「理由を聞いても?」
断られるとは思っていなかったミコカブレラはその訳を問うた。彼にしてみればレイリア最強の魔法師であるアーサーに単騎で突っ込むのかと正気を疑いたくなる気分である。
「確かに俺の血の半分はダクリアの血だ」
「ならどうして?」
「決まっている。残りのもう半分はレイリアの血だからだ」
それこそがセイヤがミコカブレラの提案を断る理由。光と闇の二つの属性を操るセイヤはどちらの国の人間であって、どちらの国の人間でもない異端の存在。それでもお互いの国に愛着があるのは事実だ。
「まさか君はあの老人たちの言いなりになるとでも? すぐに死にますよ」
「別にそこまでは言っていない。ただレイリアを壊すのには賛成できないと言ったんだ」
「君は七賢人を許せるとでも?」
「まさか。俺の命を狙おうとする奴をどうして許せる。だがレイリアには他の人間もいる」
確かに七賢人のことを気に食わないが、なにもレイリアには七賢人しかいないわけではない。アーサーやライガーをはじめとしたセイヤに理解のある大人たち、セイヤのことを育ててくれたエドワード、他にもたくさんの仲間がいる。何より大切な婚約者であるユアだってレイリアの人間だ。
気に食わない相手以上に、気に入っている人間が多いだけのこと。
「だから俺はお前ら急進派のやり方を認めることはできない」
それがセイヤの答えだった。しかしその答えを聞いたミコカブレラの表情が一変する。今度は先ほどまでとは打って変わり、セイヤのことを警戒している様子だ。
「君の言い分はわかりました。そしてよく急進派のことを知ってますね」
「当たり前だ。急進派と穏健派のことくらい街にいれば嫌でも耳に入る」
どうやら目の前にいる少年が何も知らない子供ではないと理解したミコカブレラは改めてセイヤに警戒心を向ける。
「では魔王会議のことも?」
「ああ。お前ら急進派がマモンの椅子を狙っていることも知っている」
「これは驚きましたね。どこでその情報を? これはまだ世間に流れていない情報ですよ」
しまった、とセイヤは思った。ギラネルやダルダルに教えて貰った情報は一種の国家機密であり、当然そこには民衆に流れていないものもある。仕方がないのでセイヤは無理やり話をつづけた。
「こっちはダクリアの内情を探りに来たんだぞ? それくらい知っていて当然だ」
「そうですか。なら、先代ブロードを倒した魔法師を知っていますか?」
何かを確かめるように聞いてきたミコカブレラの表情には少しだけ焦りの色が見える。実を言うと、この時点でミコカブレラはセイヤがブロード=マモンを手にかけたのではないかと疑っていたのだ。
聖教会時代、セレナたちが捕まった時期とブロードが消えた時期が一致していたことに気づいていたミコカブレラは最初セレナたちを疑ってた。しかし直後、セレナたちを救出し、異端認定を受けた光と闇の使う魔法師が現れたことでミコカブレラの疑いの目はその魔法師に向いた。
その魔法師こそがセイヤである。
そして彼が一番懸念していたことはセイヤがマモンの椅子を狙っているのではないかということ。仮にミコカブレラの過程が正しかったとして、セイヤがその事実を主張すれば十中八九セイヤがマモンに就任する。そうなってしまった場合、魔王内における急進派が二人になってしまいデトデリオンの計画が水の泡になってしまうのだ。
「さあな。それは今も謎だろ」
「そうですか」
セイヤの答えにホッと胸をなでおろすミコカブレラ。一方のセイヤもミコカブレラの追及が終わったことに胸をなでおろした。
そして反撃とばかりにセイヤはミコカブレラに追い打ちをかける。
「そんなことを気にするよりも自分の任された区の心配をしたらどうだ?」
「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。二区に続いて、七区まで機能停止したと聞いたぞ」
「そのことですか。それなら問題はありません」
ミコカブレラの反応を見てセイヤは確信した。彼がわざとダクリア七区を混乱の渦中に陥れたと。
「その言い草だとわざとみたいだな」
「ええ、まあ」
「いったい何を考えている。やっと手に入れた魔王の座を捨てる気か?」
「さあ、どうでしょう」
意味ありげな笑みを浮かべるミコカブレラにセイヤは舌打ちしたい気分になった。先ほどの焦ったミコカブレラを見て、セイヤはその隙をつき、情報を得ようとしたセイヤ。しかしミコカブレラはいつもの余裕ありげな表情に戻ってしまい、セイヤの攻撃は防がれてしまう。
「ですか君に一ついいことを教えてあげましょう」
「いいこと?」
「はい。次のマモンについてです」
それは穏健派の面々も把握できていない情報。なぜミコカブレラがそんな情報をくれるのか真意はわからないが、その価値は高いのでセイヤは素直に聞くことにする。
「次のマモンは女性です」
「それのどこがいいことなんだ」
「あら、私はてっきり君が無類の女好きだと思って教えたのですが」
「お前は一体俺を何だと思っているんだ」
「レイリア魔法大会のスクリーンで思いっきりハーレムを晒した女好きと」
どうやらミコカブレラはレイリア魔法大会の開幕前の選手紹介でセイヤの見せた例の光景を言っているのだろう。確かにあれだけ見ればセイヤを無類の女好きと勘違いしても無理はない、が、勿論それはミコカブレラの冗談である。
「実際は君にヒントを出したんですよ」
「求めてもいないのにか?」
「はい。もし君が任務を続けるなら、その心意気を称えてヒントを出したいと思ったのです」
「随分な気まぐれだな」
「でも役に立ったでしょう?」
「さあな」
これ以上は言いませんよというミコカブレラの言葉にセイヤは苦笑いを浮かべる。だが次のマモンが女性だということを知れただけでも上々だろう。
「さて、私はその彼女を迎えに行かなければならないので、そろそろお暇しましょう」
「別についていかないから安心しろ」
「そうですか。では生きてまた会えることを期待しておきましょう」
そう言い残してセイヤの隣から立ち去ろうとしたミコカブレラだが、はっと気づいたように付け足す。
「そうそう。それと私の名前はミコカブレラ=ディスキアン改め、ミコラ=アスモデウスです。以後、間違えないように」
その言葉を最後にミコカブレラ改め、ミコラは一瞬にして姿を消す。ミコラのことを見送ったセイヤは再び街に向かって繰り出そうとするのだった。
しかし、再び街の散策を始めようとしたセイヤの前に一人の男が立ちふさがる。いや、一人じゃなかった。いつの間にかセイヤのことを取り囲むように三十人ほどの人がセイヤを逃がさんとばかりに険しい表情を羽化場ている。
セイヤはその男たちに見覚えがあった。彼らはつい先ほどまで演説を行っていた脱魔王派の冒険者たちだ。そして演説をしていた男がセイヤのことを睨みながら言う
「おい兄ちゃん、てめぇ、魔王ミコラ=アスモデウスと知り合いなのか?」
どうやらセイヤとミコラの最後のやり取りを聞いていたようだ。
なんかレベルアップして三十分くらいで一話書けるようになったから一日二話投稿行けるんじゃね!? と勘違いした高巻は明日も二話投稿しちゃいます(多分明日で平常運転に戻ります)




