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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
6章 ダクリア動乱編
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第268話 平穏な日々は唐突に終わる

 ダルダルによる今日の勉強会を終えたセイヤは一人でダクリアの街に繰り出していた。本当は勉強後に部屋で休もうと考えていたセイヤだったが、ダルダルから街を見ることでダクリアに対する理解がより深まるというアドバイスを受けたこともあって急遽予定を変更した。


 ちなみにロナのことも誘ったセイヤだが、ロナは何やらやらなければならないことがあるといって自分の世界に消えてしまった。なのでセイヤはダクリアに来て初めて一人で街を見て歩く。


 「なんていうか、平和だな」


 辺りを見渡しながらつい呟いてしまうセイヤ。だがつい先日までキレル山脈での冒険をしていたセイヤにしてみれば、レイリア魔法大会以来の休暇に平和ボケしてしまうのも無理はないだろう。


 とはいえダクリアの新体制を決める魔王会議が目前に迫っているため、束の間の休暇になりそうだが。魔王会議に関しては現在ギラネルが必死に手回しをしているので、セイヤは特に何かをしなければならないということはない。


 改めて辺りを見渡すセイヤ。


 周りには仲良く手を繋ぐ家族連れや腕を組みながら仲睦まじく歩くカップル、他にも冒険から帰ってきたばかりの冒険者や路上でパフォーマンスを行うピエロなど様々な光景が広がっている。


 大通りに出ると辺り一面が出店によって覆われており、子供たちだけでなく大人たちも楽しそうに過ごしていた。魔王会議を前に盛り上がるその光景はセイヤがかつて経験したアクアマリン前夜祭に劣らないほどにぎわっている。


 あの時はミスコンでいろいろあったが、今日のセイヤは独り身のため特に問題が起こることはないだろう。そんなことを考えていると、あるものがセイヤの目に入る。


 「あれは……」


 セイヤの視界に入ってきたのは街の中心にある大きな噴水。その立派な造りに目を奪われるのも当然だが、それ以上にセイヤにとっては思い出深い場所である。


 「懐かしいな、あそこでアーサーの正体を知ったんだっけな」


 そこはセイヤが聖騎士アーサー=ワンのと初めて会った場所だ。初めてあった場所はその前日に夕食を食べた場所であったため、厳密には初めてあった場所とは言えないかもしれないが、その少女の正体がレイリア最強の魔法師である聖騎士アーサー=ワンと知った場所に変わりはない。


 もっと筋肉質の威圧感満載の魔法師を期待していたセイヤにとってみれば、外見が十三歳ほどのアーサーに正体には驚いたものだ。だがその実力は噂の通りで、キレル山脈攻略の際には大いに助けてもらった。


 今となっては遠い昔のことに感じるその出会いも、実際はつい最近の出来事である。けれどもキレル山脈での経験が濃密だった分、出会いが昔のように感じてしまうのも無理はない。


 であった頃の記憶に懐かしさを感じながらセイヤは噴水広場の方へと近づいていく。


 「ん?」


 するとセイヤは噴水広場の近くに小さな人だかりを見つけた。噴水広場にはアイスクリームやクレープ、綿あめなどを売る数軒の屋台や、大道芸をして子供たちの眼差しを集める奇妙な格好をした集団、他にも楽器を片手に歌を披露する男性たちがいたが、その中で一か所だけ異質なエリアがあった。


 言うなれば、楽しい空間の中に生まれたひずみのような空間。


 セイヤが気になって近付いてみると、どうやら噴水を背に一人の男が演説をしているようだ。そして周りにいる人々はその男の言葉に熱心に耳を傾けている様子。そしてその内容はその場の雰囲気とは一線を画すものであった。


 「なるほど、ダルダルが言っていたことはこういうことか」


 演説する男を見た途端、セイヤはダルダルが意図していたことを理解する。驚いたことに男の演説の内容は魔王制度の廃止を訴えるものだったのだから。


 それはちょうどセイヤがダルダルから習ったばかりのホットな話題だ。


 「このダクリアに魔王は必要ない! どうして魔王がいるのか、それは点在する各区を結び付け、円滑な交流をするためだ! しかし、現状はどうだろうか! すでに二区の機能が失われ、ここ数日で七区までもが機能停止した! これは魔王たちの脆弱性に起因するものであり、もはや我々には魔王は必要ないのだ!」


 民衆に向かって訴えかける男は冒険者だろうか。その男の言葉に耳を傾ける人の数は三十人程度。魔王会議を目前に控え、お祭りムードの街の中でそのような演説をしているためか、辺りと比べるとまだ小規模な集団だ。


 しかし、もしも他の区がダクリア二区や七区と同じように魔王制が機能停止するなどという事態に陥れば、彼らのような脱魔王を掲げる運動が更に加熱し、他の集団と遜色ないほどの大規模な集団になるかもしれない。セイヤはそんなことを考えつつ、演説をする男の話に耳を傾ける。


 「今こそ我らは新しい時代を迎える時だ! 冒険者による新しい時代の幕開けだ!」


 冒険者の男は必死に訴え続け、その話を聞く人々は納得するように頷く。気付かれないように演説を聞く集団に視線を移すと、その身なりから彼らも冒険者だということが分かる。しかもその傷ついた装備を見る限り、彼らは羽振りの良い高ランク冒険者ではなく、むしろ仕事内容に不満を持つ低ランク冒険者のようだ。


 彼らは必死に脱魔王制を訴えるが、周りの人々は視線を向けるどころか、気にかける様子も見せない。それはまるで彼らのことが見えていないかのようだ。しかしそれは当然といえば当然のことかもしれない。この国の首都であるダクリア帝国に住む人々は魔王制度の恩恵を受けている階級であり、彼らにとってみれば魔王制度はなくてはならない存在。


 魔王制度を否定する低ランク冒険者たちは彼らにとっては路頭の石ころと大差ないのだ。これこそがダクリアの現実であり、ダルダルがセイヤに見せたかったもの。


 これが首都ではなくて他の辺境の区なら違っていただろうが、魔王制度のおひざ元である首都で脱魔王制を訴えるのは無謀といえる行為だった。


 「彼らは本気のようですが、場所が悪いですね」


 脱魔王制を訴える冒険者たちの集団の最後尾で話を聞いていたセイヤに、一人の男が話しかけてきた。


 「お久しぶりですね」

 「お前は……」


 突然話しかけれたセイヤが振り向くと、隣には一人の男が立っていた。その男の姿を認識した瞬間、セイヤはとっさにホリンズを召喚して戦闘モードになろうとしてしまうが、なんとか堪える。こんな街中で剣を振り回すほどセイヤは馬鹿ではない。


 それに相手側にも戦意は感じられなかったため、セイヤはすぐに戦闘の意思をなくす。もし相手側に戦闘の意思があれば、いくら無警戒だったからといってもセイヤがここまで接近を許すことはなかっただろう。ましてや相手はあのミコカブレラなのだから。


 セイヤの隣に立っていた男は先日アスモデウスの名を継承したミコカブレラ=ディスキアンであった。

頑張ってストックを作るも、すぐ調子に乗って1日2話投稿するからストックがたまらない、この現象をなんと言うのだろうか......

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