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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
6章 ダクリア動乱編
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第267話 急進派の考え

 「ただいま戻りました、デトデリオン様」

 「ご苦労だったな」


 ダクリア帝国内にある魔王ベルゼブブの別荘の一室に彼らの姿があった。ちなみに魔王の別荘とはその名の通り、魔王たちがダクリア帝国を訪れる時に使う施設であり、基本的には各区に存在する魔王の館と同じ設備が備えられている。


 魔王という地位の特性上、通常の宿泊施設を使うのはリスクが高いため、昔の魔王たちがそれぞれ建設した施設を今の魔王たちが引き継いでいると言った感じだ。


 そして魔王ベルゼブブの別荘に姿を現したのは現アスモデウスであるミコカブレラ=ディスキアン。彼は魔王アスモデウスの地位を手に入れた後もデトデリオンに対しては敬語を使い、その配下にあることを示している。本来は同じ魔王という対等な関係でなければならないのだが、まだ二人の関係性を知る人々が少ないために門題はない。


 「それで首尾は?」

 「スメルの話によると順調なようです」


 部屋の真ん中に置かれたソファーに座るデトデリオンに部下のスメルからの報告を伝えるミコカブレラ。スメルとはミコカブレラの一番弟子にしてレイリア魔法大会侵攻作戦で十三使徒序列五位のレアル=ファイブとも渡り合った実力者である。


 しかし報告を終えたミコカブレラの表情はどこか冴えない。


 「不安か?」

 「ええ、まあ。本当にこのまま脱魔王派を放置してよろしいのかと」

 「本来はダメだろうな。むしろ運動を鎮圧すべきだろう」

 「ならどうして」

 「保険だ」


 ミコカブレラがスメルから受けた報告は魔王アスモデウスが統治することになっているダクリア七区の現状についてだ。新たに魔王となったミコカブレラは自らが治めることになったダクリア七区について調べようとした。


 だがその時、上司であるデトデリオンがミコカブレラに対して一つの命令を下した。


 それはダクリア七区について仕事をしないこと。結果的に魔王アスモデウスの館が機能不全に陥っても気にせず放置することだ。


 「ですがこのまま魔王アスモデウスの館の機能不全が続けばダクリア内における急進派の勢力も弱まるのではないのでしょうか?」


 スメルからの報告には七区の冒険者たち、特に急進派の冒険者たちが仕事のまわってこない現状に不満を抱き始めているとあった。加えてそこに脱魔王派を掲げる集団が現れ、その冒険者たちを取り入ろうとしているようだ。その状況は新魔王としてはあまり好ましくないのは事実だが、デトデリオンの命令とあっては放置するしかない。


 「確かに急進派の力は弱まるだろうな」

 「でしたら」

 「なら逆に問うが、お前はこのままでいいと思うか?」


 このままでいいというのは急進派と穏健派が睨み合うダクリアの現状についてだ。彼らはすでに七つある魔王の椅子の内、ベルゼブブとアスモデウスの二つを抑え、今はマモンの椅子を狙っている。そしてその次に現在の大魔王を代理だが努めているギラネルを大魔王の椅子から引きずり降ろそうしていた。


 その計画に問題点はないと思っていたミコカブレラ。それは彼が長年レイリアに潜入していたからこその弊害かもしれない。ミコカブレラとは対照的に、デトデリオンはその計画に少しの不安要素を考えていた。


 「ギラネルを引きずり下ろすまでは問題ないかと」

 「甘いな」

 「どういう意味でしょうか?」


 ミコカブレラは知らなかった。ギラネルの恐ろしさを。デトデリオンは知っている。ギラネルの恐ろしさを。


 「大魔王ルシファーを代理でありながらも務めるギラネルは元々先代大魔王キース=ルシファーの右腕を務めていた器だ。それが二十年前、キース失踪後によって混乱の渦中にあったダクリア全土をたった三日でまとめ上げたんだ。その秀でた統率力と何者にも有無を言わせずまとめ上げた政治力は恐るべきといえよう。そんな男が何もせず大魔王ルシファーの座を明け渡すと思うか?」


 デトデリオンにとっての不安要素こそがギラネルであった。


 「奴はこちらの動きを読み、何かしらを仕掛けてくるだろう。そこには当然こちらの動きを探る必要がある」

 「我ら急進派の?」

 「そうだ。だがいくらギラネルと雖も、脱魔王派までは手が回らないはずだ」

 「まさか……」

 「そのまさかだ」


 デトデリオンの考えを察し、ミコカブレラは驚きの表情を浮かべる。


 「仮に急進派が大魔王ルシファーの奪取に失敗した場合、脱魔王派を使って魔王制度を根本から崩壊させる。そして始まるであろう戦乱の時代を制して新生ダクリアを建国するのだ」


 新生ダクリアの建国、それこそがデトデリオンの狙いだ。今までは新生ダクリアの建国への近道は大魔王に就任することであったが、それが難しくなった時には魔王制度を崩壊させればいい。デトデリオンにとってみれば魔王という肩書に拘る必要はなかったから。


 だからデトデリオンはダクリア七区に脱魔王の風潮を高めさせていたのだ。


 「おそらく穏健派も次の魔王会議で何かしらの手を打ってくるはずだ。もしこちらの動きが封じられることがあれば脱魔王派を扇動すればいい」

 「逆に穏健派が何もしてこなかった場合には?」

 「簡単なことだ。脱魔王派を一掃すればいい」


 ミコカブレラは改めてデトデリオンは恐ろしい人物だと思った。いくら目的のためとはいえ、そこまでできるものか。


 「流石に次の会議までに穏健派がギラネルに代わる大魔王を用意できるとは思えない」

 「では次の会議の目的は大魔王を空位にすると?」

 「ああ。そしてその次の会議までにベルフェゴールの椅子を奪いとればダクリアは急進派のものだ」


 急進派がここまで纏まって動くのはダクリア史上初めてのことだった。だからデトデリオンたちも少なからず慢心があった。それはギラネルら穏健派が急進派の動きをそこまで警戒していないと思っていたこと。だから彼らは次の魔王会議で驚くことになるだろう。


 新たな大魔王ルシファーの誕生に。


 だが彼らはまだ知らない。この国にキリスナ=セイヤという魔法師が入国していることに。そして彼がすでに夜属性を手に入れているなどとは微塵も考えていなかった。


 「それとマモンの迎えに行ってくれ」

 「マモンですか?」

 「ああ。もうじきダクリア帝国に着くそうだ」

 「わかりました」


 このマモンとはもちろん魔王ブロード=マモンのことではない。急進派が魔王会議のために用意した次期マモンである。


 「あいつは手ごわいと思うが、味方にできればかなりの戦力だ」

 「確かにそうですね。彼女の力があれば我々急進派は更なる高みに昇れるでしょう」

 「では任せたぞ」

 「承りました」


 新たな命を受けたミコカブレラは静かに部屋から出た。そして心の中でつぶやく。


 (恐ろしい御方だ)


 だが彼はこれからデトデリオン以上に恐ろしい存在に会うことになるのだが、そのことを彼が知る由はまだなかった。

ダルタ「......」

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