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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
6章 ダクリア動乱編
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第263話 スカルズ

 セイヤの姿はダクリア帝国の中心部にあった。七つの区を統べる首都だけあって、その町の人口や発展度は他の区と比べても格段に優れている。しかも魔王会議が近いとあってか、街には屋台などが出ていていつも以上に賑わっているようだ。


 「魔王会議には魔王とその側近、他にも有名な冒険者たちが集まるのじゃ。その有名処を一目見ようと遠方から来る者もおり、そやつらを標的にした商人たちがこぞって店を出すのじゃ」


 セイヤの隣で案内するように説明するのは夜を司る精霊ルナという名を持ち、セイヤのお姉さん的存在であるロナ。二人は本日分の勉強を終えて街に繰り出していたのだ。


 「冒険者たちも集まるのか?」

 「そうとも。冒険者たちは各魔王たちに雇われた傭兵として警護に当たるのじゃ」

 「警護? ああ、この好機に魔王になろうとする奴らのことか」


 なぜ警備が必要なのかと疑問に思ったセイヤであったが、すぐに自らで答えを出す。つい先日、魔王の一人であった夢王がミコカブレラの手によって殺害され、アスモデウスの名を奪われたばかりだった。


 確かに普段は各区に点在する魔王たちが一か所に集まる機会は魔王の座を狙う者たちにとってはこれ以上のない好機だろう。それに魔王たちの庭ともいえるそれぞれの自治区で事を起こすより、ダクリア帝国で入念に準備したほうが戦える機会が多いというものだ。


 といっても、大抵の場合は失敗に終わるのだが。


 「ならどうしてアスモデウスは死んだんだ? 警護はいなかったのか?」

 「詳しくは知らないが、おそらく囮作戦を使ったのじゃろう」

 「囮作戦?」


 聞き慣れない単語に訝しげな表情を浮かべるセイヤ。


 「魔王の中には複数の集団に分かれて移動する奴もおる。そうすることで敵の目を欺き、素早く目的地に着くのじゃ。じゃがまあ、アスモデウスの場合は連れている女子おなごの数を見れば、それが本隊かは容易にわかるがのう」


 ロナの言う通り、アスモデウスのように複数のグループで移動する魔王もいる。良く言えば敵の戦力を分散できるが、逆に悪く言えば自らの戦力も分散してしまうのが囮作戦。しかし魔王自身の実力を考えれば、囮作戦の方が安全という考え方もある。事実ダルダルは一人で移動していたのだから。


 「魔王も大変なんだな」

 「大魔王になる奴が何を言っている」


 人混みの中で仲睦まじく話すその姿はまるで姉弟のようだった。そして誰も二人の正体が次期大魔王と夜の精霊ルナだとは気づいていない。だからだろうか、それは起きてしまった。


 「おいおい坊主、かわいい姉ちゃん連れてるなあ」

 「ひゅ~う、いけずだね」

 「やっべ、乳でか!」

 「こりゃ楽しめそうじゃねーか」


 セイヤとロナを囲むように四人の男たちが姿を現す。彼はセイヤの隣にいるロナのことを嘗め回すように見ながらニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべる。その身なりからして彼らは冒険者のようだ。だが魔王たちが雇うような有名な冒険者ではなく、むしろ小物。それでもそれなりに力がありそうだ。


 「おい見ろよ、あいつらスカルズじゃねえか」

 「あのBランク冒険者たちか」

 「最近力をつけて来た五人組だよな」

 「この帝都で一旗揚げようって魂胆だろ」

 「逆にあの少年は見たことないが、冒険者か?」


 スカルズと呼ばれる冒険者たちが大通りの真ん中でセイヤたちに絡んできたおかげで、セイヤたちは通行人たちの注目の的になってしまう。けれども誰もセイヤたちの見方をしようとする者はいない。そこにいる人々は遠目からその様子をうかがうだけだった。


 「坊主、冒険者か? ランクは?」


 スカルズの一人がセイヤに対して高圧的な態度で話しかける。セイヤは一瞬「ランクなんてあったか?」と考えたが、すぐに自分がDランク冒険者だということを思い出す。


 (そう言えばダルタと一緒に試験受けたな……)


 遠い昔のように思える出来事だが、実際にはつい最近のこと。冒険者になってから濃密な経験ばかり積んでいたので忘れかけてしまうのも無理はない。


 「おい、てめぇ、カズくんが聞いてるんだよ!」

 「無視すんじゃねーぞ!」

 「あ、ランクだったな。一応Dだ」

 「「「「ぶっ、ぶははははははっ」」」」


 セイヤのランクを聞き、一斉に笑い出すスカルズ。どうやら彼らにとってセイヤがDランク冒険者だという事実が面白いらしい。


 「Dランクって、お前もしかして一旗揚げに来た田舎者か?」

 「お子ちゃまは家に帰ってママの乳でも吸ってな!」

 「ここはてめぇみてえなのが来る場所じゃねーぞ!」

 「そうだ、そうだ!」


 田舎者。たしかにレイリア出身のセイヤはダクリアの人間にとっては田舎者なのかもしれない。しかし彼らがそのことを知っているとも思えないので、ただの悪口だろうとセイヤは思う。


 「まあ、そうかもな」


 どこか似たような経験が多々あるセイヤは特に怒りを露わにすることなく雑に流す。この手の輩は相手にするだけ無駄だということをよく知っている。


 「行くか、ロナ」

 「そうじゃのう」


 二人はスカルズたちを放置してそのまま進もうとしたが、前方にいた二人がセイヤたちの進行方向を塞ぐように立ちふさがる。そして後方にいた一人がロナの腕を掴もうとする。だがその手が届くことはなかった。


 「触るでない、下衆が」


 男の手がロナに触れるはるか前に、ロナの凍てつくような視線と心の底からの嫌悪感を含んだ声がその男の動きを止めた。ロナは特に魔法や闘気を使ったつもりはないが、その男は無意識にロナと自分の圧倒的な差を感じてしまったのだろう。ガタガタと震えだし、そのまま膝から崩れ落ちてしまう。


 「てめぇ、何をした!」

 「失せるのじゃ」


 もう一人の男がロナに詰め寄ろうとしたが、やはり言葉を吐き捨てるだけで、その男もガタガタと震えだしてしまう。しかしなぜかその男の顔は喜々としてはぁはぁと言っているようにも思えたが、ロナは見なかったことにする。


 ロナによって何かをされたと理解した前方の冒険者たちはセイヤにナイフを突き立てて脅そうとする。それは最早ナンパというよりは潰れたメンツを取り戻そうとしているようだ。おそらく彼らはロナよりもセイヤの方が弱いと思ったのだろう。


 だがそれこそが彼らの間違いだった。


 「「なっ……」」


 次の瞬間、握っていたナイフが一瞬にして消滅したことに男たちが言葉を失う。それはナイフが消えたことよりも、どこから闇属性の魔法が行使されたのかという驚き。彼らは慌てて辺りを見渡すが、誰一人として魔法を使った痕跡はない。


 彼らは魔法が詠唱ないし行使できることは知っていた。しかし魔法陣の展開までも省略できることは知らなかった。魔法陣を展開せずに魔法を行使できるのは一部の強力な魔法師たちだけであり、彼らが出会ってきた魔法師たちとは格が違うから。ましてや目の前にいるDランク冒険者にそんなことができるとは微塵も思っていない。


 「貴様、どこかに仲間がいるのか!」

 「卑怯だぞ!」


 どの口が言う。その場にいる誰もがそう思ったが、やはりこの揉め事に口を出す人はいなかった。


 「仕方ないか」

 「「!?」」


 セイヤが困ったようにつぶやいた直後、先ほどまでピーピー騒いでいた二人の意識が飛ぶ。もちろんセイヤの闘気によるものだ。といっても、闘気と呼べるほどの代物かと言われれば、そうではないのかもしれないが。


 こうしてこの日、民衆の間でBランク冒険者たちを何もせずに倒した謎のDランク冒険者とSっ気のある美女の噂が立つのであった。

今回の「おい、てんめぇ聞いているのか、あ〜ん?」みたいな人が個人的に気に入ったので、また出てきて欲しいなと思いました。

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