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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
6章 ダクリア動乱編
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第259話 色欲の魔王

 レイリア王国のはるか東、暗黒領を挟んだその場所にダクリア大帝国はあった。壁を使って暗黒領の中に一つの大国を形成したレイリア王国とは違い、ダクリア大帝国は首都であるダクリア帝国とその首都を支えるように七つの特区が暗黒領に点在している。


 各区にはそれぞれその区の統治を任された魔王の称号を持つものが存在し、その魔王たちをを束ねる存在がルシファーの名を持つ大魔王である。しかし十年以上前に当時の大魔王キース=ルシファーが姿を消して以降はキースの右腕であったギラネル=サタンが大魔王代理としてこの国を治めてきた。


 けれどもその統治を不満に思う輩たちがいたのも事実。彼らは俗に言う急進派と呼ばれる一派であり、ギラネルら穏健派とは違ってレイリアとの全面交戦を望んでいた。そしてその急進派の中心にいたのが強欲の魔王の異名を持つブロード=マモンと暴食の魔王の異名を持つデトデリオン=ベルゼブブであった。


 彼らは急進派のトップはひそかにレイリア侵攻を計画しており、ダクリアの現状に不満を持っていた若者たちがブロードとデトデリオンのことを支持していた。一方、ギラネルらを中心とする穏健派はレイリアへの過度な干渉を好まず、主に安定を好む知識人たちの支持を集めている。


 急進派に属する魔王と穏健派に属する魔王はちょうど三人ずつであり、両者は平衡を保っていたが、それもとある事件によって崩れてしまう。それがダクリア二区を統治していた魔王ブロード=マモンの死亡。彼の死がもたらした影響は多大であり、勢力の縮小を恐れた同じく急進派の魔王デトデリオン=ベルゼブブが成果を求めてレイリアに侵攻したというのが一般的な認識だ。


 しかし彼らの侵攻はレイリアの若き魔法師たちによって阻まれてしまい、それをきっかけに急進派は更なる衰退を余儀なくされた。


 そんな現状を打破しようと動き出したのが急進派の若き魔法師たち。彼らは空いたマモンの席を狙いつつ、もう一つの席を狙っていた。それが大魔王ルシファーの椅子。


 大魔王ルシファーの椅子さえ手に入れてしまえばダクリアを手にしたのと同義であり、急進派が威信を取り戻すことのできる最後の一手だった。幸いにして今はギラネルが兼任しているため、まずは彼をその椅子から降ろすことができれば急進派にもまだチャンスがある。


 そのためにミコカブレラ=ディスキアンは動き出した。


 「ミコ、あれか」

 「みたいだな。行くぞスメル」

 「ああ」


 ミコカブレラとその一番弟子にあたるスメルの姿はダクリア帝国から暗黒領に出て少しの距離にあった。その視線の先に映るのは百人を超す人々の行列。その内の半分が水着のように薄い服しか纏わない女性たちであり、その中心の一人用の籠の中に二人の目当ての人物がいた。


 その男は「夢王むおう」の異名を持つ色欲の魔王。彼の下にいる五十人近い女性たちは彼の奴隷や妾であった。だがその光景は夢王にとって日常的なものであり、夢王を知るものが見たら驚きはしない。


 彼らは来たる魔王会議のためにダクリア帝国に向かっている途中だった。


 行列に近付くように歩いて行くミコカブレラとスメル。当然ながら夢王の護衛たちが近づく存在を見て警戒するが、その二人の正体を見るとすぐに警戒を解く。それは彼らが自分たちと同じ急進派だということを知っていたから。


 「どうしたんだ、お二人さん」

 「やあ、ちょっとアスモデウス様にお話があって」

 「うちの夢王にか?」

 「そうだ。ベルゼブブ様からの伝言でどうしても直接伝えなければならないんだ」


 ミコカブレラの説明を聞き、護衛の男は夢王のところに確認に行く。すると男はすぐに戻ってきて、二人を行列の中心へと導いた。


 「許可が出たぞ」

 「感謝する」


 護衛の男に連れられて二人は夢王が入っている籠の前まで通される。


 「アスモデウス様、私はベルゼブブ様より命を受けて来ましたミコと申します」

 「同じくスメルです」


 二人が名を名乗ると、籠が少しだけ開き、中から声がする。


 「入れ」

 「「はい」」


 普通に考えれば、一人用の籠に男二人が入るという行為は少々理解しがたいものだが、ミコカブレラたちは躊躇う様子もなく籠の中に入って行く。いな、吸い込まれていった。


 籠に吸い込まれた二人の眼前に広がるのは寝室のような空間。中心に大きなベッドが一つ置いてあり、その上には一糸まとわぬ女性が数人と、その真ん中に筋肉質の白いひげを生やした大男が居座っていた。その男こそがダクリア七区を統治するアスモデウスの名を持つ夢王だ。


 「これは失礼。お戯れ中でしたか?」

 「まあな」


 お互いに敬意はない。夢王からミコカブレラたちに敬意がないのは当然といえば当然だが、ミコカブレラたちが夢王に敬意を表さないのは彼らが所属するのがデトデリオン一派であるから。同じ急進派といっても、それはただの同盟関係みたいなものであり、特に敬意を払う必要はなかった。


 夢王はベッドの上にいた女性たちに服を被せて籠の外に出すと、自らも服を着て二人の前に立った。そして手に持つ装置をいじると、それまで寝室だったその空間が一瞬にして会議室のような部屋へと姿を変えた。


 「それが故ブロード=マモン様の発明品の一つ。空間歪曲装置及び瞬間模様替え装置ですか」

 「よく知っているな。あいつのおかげで俺も移動中退屈せずに済むものだ」


 世間話程度にブロード=マモンの発明品を話題にしたミコカブレラだったが、彼の興味はその装置に微塵も向いていなかった。それもそのはずだ。彼らの目的は今目の前にいる夢王の抹殺なのだから。


 といっても、会ってすぐに殺そうという訳ではない。彼らにもいろいろと準備が必要だ。目の前にいるのは紛れもない魔王の一人であり、彼らが無策で突っ込んだところで返り討ちになるのが関の山。


 だからミコカブレラはまず持ってきたある装置を起動させた。


 「それは?」


 ミコカブレラの使う装置に興味を示す夢王。なぜならその装置が夢王の持つ装置とどこか似通っているところがあったから。もっと言うのであれば、製作者が一緒のように思えたから。


 その問いに対するミコカブレラの答えは夢王の予想の範囲内だ。


 「これはブロード=マモン様の発明品で通信遮断機です」

 「盗み聞きを恐れてか?」

 「はい」

 「なるほど。それで、そっちのがやっているのは?」


 そう言って顎でスメルの方を向ける夢王。その視線の先ではスメルが何やら大型の装置を準備している。


 「ああ、あれは通信映写機です」

 「通信?」


 通信を遮断する装置を使っているのに通信映写機を使ってどうするのだといいたげな夢王だが、その前にスメルが疑問を解消した。


 「こちらは調整済みで影響を受けません」

 「なるほど、そういうことか」


 装置の仕組みを理解するとともに、二人が何をしようとしているのかを理解した夢王は近くにあった椅子に腰かける。


 「それで俺はベルゼブブと話せばいいのか?」

 「その通りです」


 ここまで準備されれば、彼らが何をしようとしているのか聞かずともわかった。この時期に同じ急進派の魔王の部下たちが訪れ、通信を阻害した空間での話し合いなど、来たる魔王会議についてしかない。


 夢王は黙ってその装置の組み立てが終わるのを待つ。





 「繋がります」


 スメルのその言葉と共に、大きな装置が動き出す。そして装置の中に姿を現したのは魔王デトデリオン=ベルゼブブ。


 「これはどうも、夢王」

 「久しぶりだな、ベルゼブブ」


 こうして二人の魔王の話し合いが始まった。

六章が始まります。

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