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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第258話 大魔王ルシファー

 夜属性を会得したセイヤはロナと完全契約を結び、現実世界へと帰還した。


 「セイヤ様、よくぞご無事で」


 セイヤの帰還を喜ぶギラネル。その後ろには青龍との戦闘を終えたアーサーとダルタの姿もある。セイヤはただ無言でアーサーと見つめると、彼女の方から口を開いた。


 「わかっている。だが、少し待ってくれ。時期が来たら必ず話す」

 「ああ、わかった」


 その言葉には強い覚悟が感じられたので、セイヤはとりあえずその場では何も追求しなかった。するとそんなセイヤにダルタが駆け寄ってきて嬉しそうに青龍との戦いを語り始める。


 「セイヤ聞いて! 私の魔法であの怪物を倒したんだよ!」


 青龍戦を語るダルタの表情はとてもうれしそうで、その表情から彼女がとてつもないことをやり抜いたのだろうということが誰にでもわかる。セイヤはダルタの話を微笑みながら聞き入った。


 そしてダルタの話が終わったタイミングで、今度はギラネルがセイヤにもとにやってくる。


 「セイヤ様、少しよろしいでしょうか?」

 「なんだ?」


 その真剣な眼差しからギラネルの話が重大なものだと理解するセイヤ。ダルタもその空気を敏感に察し、一歩引いてギラネルにセイヤを譲る。


 「まずは夜属性の会得おめでとうございます。セイヤ様なら精霊ルナとの契約まで済ませると確信していました」

 「結構大変だったがな」

 「でしょうね」


 ルナのことを視界の端に入れながら苦笑いを浮かべるギラネル。どうやらギラネルにはルナに関して苦い思い出があるようだ。


 「それで話って?」

 「はい。単刀直入に言いますと、大魔王ルシファーの名を返上させていただきます」

 「それは俺がその名を引き継ぐということか?」


 ギラネルの話はセイヤにも予想できたことだ。夜属性が大魔王ルシファーの象徴的力なら、その力を会得した時点でセイヤが大魔王ルシファーとなる。


 「その通りです。私は従来のサタンの名に戻り、セイヤ様が実質的な大魔王ルシファーとなります。あとは今度の魔王たちが集まる魔王会議で正式にセイヤ様に引き継いで名実ともにセイヤ様が大魔王ルシファーです」

 「そうか」


 魔王たちと聞いてセイヤは様々な出来事を思い出す。ダクリア二区のブロード=マモンをはじめ、セイヤはこれまで数々の魔王にあってきた。中には対立した者もいたが、それらの王になるのは疲れそうだ。しかしその名から逃げることはできない。それがセイヤの役目だから。


 「ギラネル、これからも俺のことを頼む」

 「御意。誠心誠意努めさせていただきます」


 こうしてセイヤは大魔王ルシファーの名を手に入れた。


 そんな光景を遠目から見る二人は聖騎士アーサーと夜を司る精霊ルナ。二人はセイヤのことを見ながら、言葉を交えていた。


 「久しぶりだな、ルナ。それとも今はロナ?」

 「お主にロナと呼ばれる筋合いはない、聖騎士」

 「ふん、相変わらずつれない奴だ」

 「当たり前じゃ。お主がセイヤにやらせようとしていることに賛同はできない」


 二人の間に険悪な空気が流れている。


 「それが世界のためだ」

 「世界? 笑わせる出ない。お主らの復讐のためじゃろ」

 「そう言われると手厳しいな」

 「言っておくが、妾はお主ら姉妹を許さぬ」

 「わかっているさ」


 二人はそれ以降、言葉を交わすことはなかった。二人の間には他人が入れないような険悪な空気が漂うだけであった。








 場所は変わりアクエリスタンにあるとある共同墓地。すでに闇に包まれた深夜の墓地に一つの人影があった。その人影の正体は齢十歳程度の少年。時間と場所を考えると、その場に子供がいるのは異質だった。辺りに子供の両親の姿はない。


 「これか」


 その子供は一つの墓石の前に立つと、紫色の魔法陣を展開し、墓石の下の土を一瞬で消滅させる。そして魔法で土の中から棺を取り出すと、二つの魔法陣を展開させる。一つは白く輝く魔法陣。もう一つは黒色の魔法陣。


 魔法陣が棺の中に消えて行くと、棺がガタっと揺れた。それはまるで中の死体が動いたみたいに。


 その時だった。


 「そこで何をしている」


 子供に向かってかけられた声の主は、子供から少し離れたところにいた。その男は茶色い髪をした筋肉質の男で、手には大剣が握られている。見るからに屈強なその男は夜の強盗には見えない。だが同時に子供を保護しに来たような両親にも見えなかった。


 「やあ、君は魔法師だね」

 「そういうお前は化け物だな」

 「化け物とは心外だね。特級魔法師《霊鳥》のクラザスさん」

 「俺のことを知っているのか」

 「もちろんだとも。君はこの国でも有名人だからね」


 特級魔法師を相手にしているというのに微塵の恐れも感じさせないその子供は余裕の表情で会話を続ける。


 「あと、君も初めましてだね。十三使徒序列三位のガゼル=サードさん」


 その子供の視線はグラザスのはるか後方に向いていた。


 (まさか気づいたっていうのか?)

 (みたいだな)


 念話石を通してクラザスと会話しているのは十三使徒序列三位の魔法師ガゼル。彼らは聖教会よりレイリアにおける危険分子の存在の対処を任されていた魔法師だ。(※第222話後半参照)


 「そんな三キル先から狙撃を狙っても意味ないと思うんだけどな」

 「お前には向こうが見えているというのか?」


 にわかには信じがたい言葉に戸惑いを隠せないグラザス。だがその子供は屈託のない笑みで答えた。


 「もちろん。魔法を駆使した狙撃は最近の流行だからね」

 「それで三キル先まで警戒するとは十分な化け物だな」

 「まあ、君たちみたいな脆弱な存在からしたらそうかもしれないね」


 その言葉に二人は怒りを覚えたりはしない。レイリアを代表する魔法師であっても、その子供の前では何もすることができないということを知っていたから。


 「それと一つ聞きたいんだけど、君たちは何を企んでいるの?」

 「ふん、答えると思うか?」

 「まあそうだよね。拷問するって手段もあるけど、今は止めておこうかな」


 その言葉から、自分はいつでも拷問できると言っているのは明白だった。クラザスの額には脂汗が浮かぶ。


 「君たちが何をしているかは知らないけど、僕を楽しませてくれるなら大歓迎だよ。でも気をつけてね。暇つぶしにもならなかったら、君たちをまとめて消し去るから」


 屈託のない笑みから放たれる恐ろしい言葉。


 「まあ今日はあいさつ程度だから僕はこれでお暇しようかな。目当てのものも手に入れたし」


 そう言い残して子供は地面に展開した無色の魔法陣の中へと消えて行く。墓の中から取り出した棺も一緒にだ。そして訪れる静寂。


 クラザスは念話石に魔力を流し込むと、すぐに確認をした。


 (反応はあるか?)

 (駄目だ。完全に消えた)

 (そうか)


 その言葉に落胆の色はない。むしろ安心したように聞こえる。


 (すぐに帰還するぞ。あの方に知らせなければ)

 (そうだな。決戦は近いと)


 念話を終えると、クラザスは棺を抜かれた墓石を見た。そこに書かれていた名前はレオナルド。その名前はかつてアルセニア魔法学園の学園長を務めていた男の名前であった。

これで5章は終わりになります。次から6章 ダクリア動乱編となる予定です。あらすじとしては、


セイヤが夜属性を会得すると時を同じくして、とあるニュースがダクリアを駆け巡る。それはアスモデウスの名を持つ色欲の魔王の訃報。色欲の魔王を手にかけた男の名はミコカブレラ=ディスキアン。かつて聖教会に所属していたレアルの教育係であり、レイリア魔法大会にダクリアの軍勢を手引きした張本人だ。


ミコカブレラの所属する急進派の目的はギラネルら穏健派からダクリアの主導権を奪い取り、新生ダクリア帝国の建国し、再びレイリアへの侵攻をすることであった。


蠢く急進派の野望の中でセイヤの大魔王ルシファーとしての初仕事が始まる。



的な感じです。6章からはまたのんびりいきたいと思います。

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