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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第257話 夜vs夜

 目の前で起きた出来事に精霊ルナは困惑の表情を浮かべ、同時に起きてしまったことにいくらかの落胆を覚えてしまう。


 「セイヤ、お主……」


 その先は言わなくてもわかっている。セイヤが夜属性を習得してしまったことを精霊ルナは理解していた。それは胸を自ら剣で貫いたはずのセイヤが無傷の姿で立ち上がったことや、その両手に真新しい双剣ホリンズをにぎっていることからもわかる。


 セイヤが夜属性を習得してしまうことは精霊ルナにとって、いやロナにとって一番回避しなければならない未来だった。もしセイヤが夜属性を習得してしまえば、いよいよセイヤは反逆の切り札として持ち上げられてしまうから。


 しかし習得してしまったものは仕方ない。今のロナにできることはセイヤを現実世界に返さず、この世界に幽閉することだ。それが愛するセイヤのためだから。


 「『纏光けいこう限界突破オーバーリミット』」


 ロナの夜属性の効果を自らの夜属性で打ち消したセイヤは光属性の魔力を使って身体能力を最大まで上昇させる。そしてセイヤとロナは数秒の間だけ睨み合った。


 「ふむ、どうやら無駄みたいなようじゃな」

 「ああ、そうみたいだな」


 何かをした二人は互いにその行為が無駄足に終わることを確認した。その数秒の間に何があったかというと、端的に言えば夜属性の事象変化のぶつけ合いだ。


 ロナはセイヤに対して「魔法が使えるという事実の消失」を行使した。だがセイヤはそれに対して「自らの魔法を阻害する力の消失」を行使した。次にロナは「自らの力を阻害するセイヤの夜属性の消失」を行使する。遅れずセイヤは「自らの力を阻害する力を阻害した自らの力をさらに阻害する力の消失」を行使した。


 つまり二人がやっていたことはただの鼬ごっこであり、互いに無意味だと悟ってその攻撃をやめたのだ。


 「やはり夜属性同士のぶつかり合いは無意味なようだな」

 「その口ぶりじゃと、何か知っているようじゃの」


 まるでセイヤが昔から夜属性について知っているかのような言葉にロナは疑問を覚える。夜属性はこの世界でも限られた人間しか使えない力であり、その力についての知識を有する者は極めて少ない。ならばセイヤはどうして夜属性の特徴や使い方を知っているのか。


 「なんて言えばいいのかわからないが、血が覚えているんだ」

 「血か、なるほどのう」


 血が覚えているとは別に血液そのものが夜属性について知っているわけではない。ただ力を手にしたときに自然と使い方が分かったのだ。


 「やはりお主の血は覚えているのじゃな」

 「まあな」


 血が覚えていたのは何も夜属性だけではない。聖属性や闇属性も血が覚えていたからこそセイヤはすぐに順応して使えるようになっていたのだ。


 それは理論的に証明することは難しいことだろう。だが現にセイヤは体験として血の記憶を有しているため、その存在を否定するのは愚行だった。


 「さて、いくぞ」

 「来るがよい」


 互いに夜属性をぶつけ合うのでは無意味だと知った二人は物理的な交戦へと移る。ロナは再びガラス玉を呼び出して剣を生成していき、セイヤは身体強化とホリンズでその剣を撃ち落としていく。


 「ふん、随分と使いこなしているようじゃ」

 「おかげさまでな」


 ロナは今まで以上にハイペースで剣を作っていくが、神速の域に達したセイヤの前ではすべてが止まっているように見えるため、いくら作り出そうともセイヤに届くことはない。また隙を伺って光属性の魔力の消失を狙うが。やはりセイヤへの有効打とはならなかった。


 しかしセイヤの方も迫りくるあまたの剣と隙をついたロナの攻撃に動きを封じられているのも事実だ。悪く言えばそれは防戦一方であった。


 二人の戦いは膠着状態を迎える。


 (どこかで突破口を見つけなければ……)


 迫りくる剣を次々と撃ち落としていきながら反撃の機会を伺うセイヤ。そこでセイヤはふとおもった。


 (もしかしてこれなら)


 突破口になりえるかもしれない一手を思いついたセイヤはすぐに行動に移った。体内で錬成する魔力は夜属性でもなければ光属性でもない、闇属性。ロナとの攻防に置いてセイヤは闇属性を一度も使っていなかった。それは夜を司る精霊に対して夜の下位互換ともいえる闇属性を使うのは愚行のように思われたから。


 しかし今の状況を考えた時、敢えて闇属性を使うことで戦況を打破できるのではないのかとセイヤは思ったのだ。幸いロナの意識はセイヤの夜属性と光属性に向いている。


 (チャンスは一回……ここだ!)


 ロナが新たにガラスの玉を顕現させたタイミングでセイヤは『闇滅』を行使した。その魔法はギラネルが使っていた魔法であり、『闇波』に闘気を乗せることでその威力を増大させる魔法。実を言うと、セイヤは夜属性を習得したと同時に闘気のある程度のコントロールができるようになっていた。


 かつてアーサーがセイヤに夜属性を会得する頃には闘気も習得できると言っていたが、もしかしたら恐怖心に打ち勝つことだ闘気の習得に鍵だったのかもしれない。セイヤはそんなことを考えつつ、その一手でロナのガラス球を一斉に消滅させた。


 「なんじゃと!?」


 まさかセイヤが闇属性を使うと思っていなかったロナは不意を突かれてしまう。そして神速の域に達しているセイヤの間でその隙は命とりだった。


 次の瞬間、ロナの眼前にはセイヤの姿が映り、その首にはホリンズが突き付けられている。


 「終わりだ、ロナ」

 「くっ……」


 自らの負けが確実だと判断したロナは無駄な抵抗をやめた。先ほどまでのセイヤが相手なら自らの死をなかったことにすることもできるが、夜属性を会得したセイヤが相手だとその事象変換をも防がれてしまう。


 勝負は決した。勝者はセイヤだ。


 「強くなったのう、セイヤ」

 「ああ」


 互いにもう武器は持っていない。すでに両者とも戦意はなかった。


 「これで俺は現実世界に帰れるんだろ?」

 「わかっておることを聞くな。お主が夜の力を手に入れた時点で妾の負けのようなものじゃ」

 「まあな」


 それは偽りのない事実だ。セイヤがロナの夜属性を打ち消すことができるならば、ロナの夜属性で作られたこの世界もなかったことにできる。


 「なぜ勝負をつづけた? 何が目的じゃ?」


 ロナの質問は妥当なものだった。最後の攻防はセイヤにとってみれば必要のないものであり、自らの夜属性でこの世界をなかったことにすれば現実世界に戻れたのだ。それでもセイヤが戦った理由は一つだけ。自らの力をロナの誇示したかったからだ。


 「ロナ、俺と契約してくれ。それも完全契約を」

 「本気か?」

 「ああ。夜属性を使えば完全契約のリスクを消失できるだろ?」

 「お主、気づいておったか」

 「当たり前だ」


 幼少期のセイヤの傍にロナがいたことを考えた時に疑問だったのがどうしてロナはセイヤの近くにいれたのか。通常、精霊の類は祠となるものに結びつけられ、完全契約を除きそこを離れることはできない。ならセイヤの近くにロナがいれたのはキースが完全契約をしたから。


 しかし聖属性を持たないキースが完全契約した場合、魔力欠乏症に陥るリスクがある。そこで考えられたのが夜属性による完全契約のリスクの消失だ。それならすべての辻妻が合う。


 「ロナにはこれからも俺の傍にいて欲しい」

 「それはプロポーズかのう?」

 「そうとも取れるが、違うってわかっているだろ」

 「まあのう。お主にはアルーニャ家の娘がおるから仕方がない」

 「ならいじめないでくれ」


 降参とばかりに手を上げるセイヤ。そんなセイヤに対してロナが真剣な声音で告げる。


 「これからお主を待っているのは荊の道じゃ。覚悟はできているのか?」

 「もちろんだ」


 具体的には何があるのか知らない。しかし障害物があれば力でねじ伏せるしかないだろう。


 「ふむ、わかったのじゃ。契約に応じよう」

 「ありがとな」

 「それはこっちのセリフじゃ」


 こうしてセイヤは新たにロナこと、夜の精霊ルナと完全契約を結んだのであった。

 これにて五章の大まかなところは終了し、残すはエピローグ的な話を一話(もしかしたら二話)となりました。


 この五章が始まったのが2016年の7月26日という遠い昔で懐かしいです(とても長かった……)。さて2年前にも言ったように5章からは二部となり、これまでの設定やら伏線やらを回収しつつ、新展開を迎えるというものでしたが、個人的にはうまくまとまったと思ってます。特に5章は1章の伏線をメインに回収したつもりです。そう言う意味では二部の1章として上手くできたと思います。


 そしていよいよ出て来たルナ(別名ロナ)はこの作品でい最初に名前が出たヒロインだったりします。ちなみになぜロナということなった名前を付けたのかというと、当時の高巻はルナの名を出して「ルナ=月=夜=セイヤのヤは夜で聖夜になる? そう言えば光属性の上位互換は聖属性なのに闇属性の上位互換がない……そうか夜属性か!」という推測を恐れたためでした。今になって考えれば、そこまで考える人はいないと思います。


 ここまで書いて思ったのは、この作品のメインヒロインって誰なんだろうという感想。もはや空気にもなっていないのではと思いました。そんなことを考えつつ、5章のラストをこれから書いてきます。次の更新は3日以内にできたらと思います。


      (1日3話投稿している人の体力ってどうなっているのと思った)高巻より。


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