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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第254話 だがピンチ

 魔力を感じられない。それはセイヤにとって初めての経験であり、同時にどう対処すればいいのかわからなかった。だが魔力を感じられなくなるなど大半の魔法師が未経験の感覚であり、どうすればその問題が解決するのかを知っている魔法師などまずいないだろう。


 それは魔封石によって魔法を封じられるのとは違う感覚。魔封石の場合、魔力を封じるというよりも魔力の操作を阻害されるがために魔法を行使できなくなる。それに魔封石さえ体から離すことができれば魔法が使えるようになることからも対処法は容易に想像できた。


 しかし今回ばかりは違う。本当に魔力を微塵も感じられなくなってしまったのだ。言うなればセイヤは魔法師から非魔法師になってしまった。魔力に関するすべての器官がセイヤの体の中から消えたようだった。


 「どういうことだ……」


 自らの理解を超えた現象に戸惑いを隠せないセイヤ。今のセイヤに残されてるのはあらかじめ両手に握っていたホリンズのみ。


 そんなセイヤに対して精霊ルナが諦めろと言わんばかりに説明をした。


 「お主の魔力を消したのじゃ」

 「魔力を消しただと?」


 精霊ルナの言っていることが理解できないセイヤ。魔力を消すことは闇属性にも可能なため理解することはできる。だが闇属性が消せる魔力は魔法師の体外に放出されたものに限り、体内で錬成される魔力に干渉することは不可能なはずだ。


 「これが夜の力じゃ」


 どうやら闇属性の上位に位置する夜属性は魔法師の体内にも干渉ができるようだ。にわかには信じがたいが、身をもって体験しているため信じるしかない。たとえそれが受け入れがたい現実だとしても。


 「聖属性もだめか……」


 セイヤは聖属性で魔力を生成しようと試みたが、聖属性どころか魔力さえ感じられないために無駄足に終わる。


 「無駄じゃよ。正確に言えば、セイヤが魔法師であるという真実を消したのだから」

 「俺が魔法師である真実を消した?」


 何を言っているのだと叫びたくなったセイヤだが、叫んだところでどうにもならない。おそらく精霊ルナの言っていることは真実であり、今のセイヤは魔法師としての機能をすべて失っているのだろう。


 「それが夜属性の力なのか?」

 「そうじゃとも。夜の力が消せるのは万物。そこには自然法則さえ含まれる」

 「自然法則……なるほどな」


 セイヤは夜属性がどれほど異質で馬鹿馬鹿しい力か理解した。この世界に来た時に感じた体の軽さは重力が「重力=質量×重力加速度」という事実を消したのだろう。


 「この世界も夜属性という訳か?」

 「その通りじゃ。『異次元の世界は存在しない』という真理を消すことによって矛盾を生じさせ、結果この世界を生み出したのじゃ」

 「随分馬鹿げた力だな」

 「だから言ったじゃろ。この力は危険じゃと」


 確かに夜属性の力は危険だ。むしろそんな力が存在してはいけないとセイヤは思った。もはや夜属性は魔法の領域から抜け出しており、それは神の力といっても過言ではないだろう。一人の人間が扱っていい代物ではない。


 「でも、魔力を消しただけで俺は諦めないぞ」


 いかに夜属性が破格の力であろうとも、セイヤは素直に負けを認める気はなかった。セイヤはどうしても外の世界に帰り、アーサーたちに問いたださなければならない。


 それにこれしきのことで諦めるほどセイヤは軟じゃない。普通の魔法師なら絶望しそうなこの状況でも、セイヤは諦めなかった。それはセイヤが元落ちこぼれ魔法師だ。魔法が上手く使えない経験ならたくさんある。それが魔法が使えなくなっただけで、類似した経験など嫌というほど積んできた。


 そのおかげといったら何だが、セイヤには達人級の剣術がある。魔法が使えないなら、剣術で勝負するのみだ。


 「ふむ、往生際が悪い奴じゃ」

 「悪いが昔からこうなんでな」

 「ほんとじゃ。お主の負けず嫌いには苦労させられたものよ」


 呆れた口調の精霊ルナは先ほどと同じように小さなガラス玉を出現させ、その形を剣に変えていく。その数は三百を優に超えている。おそらく五百くらいはあるだろう。


 「安心するがよい。致命傷を受けても、その事実を消してやろう」

 「それはどうも」


 セイヤの表情には焦りの色が見える。


 (研ぎ澄ませ、集中しろ。全部撃ち落とす必要はない。致命傷だけ防いで後は回避する)


 心の中でどう対処するかを決めたセイヤは体から力を抜き、脱力の構えをする。耳を澄まし、飛んでくる一本一本の剣に意識を向ける。


 「いける」


 そこからのセイヤは圧巻だった。剣の一本一本に意識を向け、必要最低限の動きで回避していく。かすり傷程度の傷は気にしない。致命傷になりそうな攻撃は撃ち落とすのではなく、射線を変えることで回避する。そうしてセイヤは五百本の剣を全て捌き切った。


 「まさかこれほどまでとは……」


 セイヤの剣裁きを見た精霊ルナが感嘆の声を上げた。今のセイヤの動きは剣術を極めた者だからこそできる芸当であり、武術が軽視されがちなこの時代においてこれほどの剣技を習得するとは至難の業だ。ましてや魔法の補助なしでこれとは驚嘆に値する。


 「じゃが、いつまで耐えられるかのう」


 精霊ルナは再びガラス玉を出現させ、剣に変換する。その数は先ほどの倍の千本。千本の剣を見たセイヤは少しだけ焦りを見せるが、まだ対応できる範疇だった。


 先ほどと同様、セイヤは致命傷を避けるための動きを見せる。けれども今回はすべて防ぐことは叶わない。右腹部を貫かれる感覚にセイヤが苦悶の声を上げる。


 「くっ……後ろか……」


 セイヤは傷口を抑えながら大きく後方に跳躍した。直後セイヤのいた場所に四方から次々と剣が飛んできた。セイヤが右腹部に剣を受けてしまったのはそれが死角である背後から飛んで来たため。


 一方向から飛んでくるならば剣が何本あろうとも対処することはできるが、それが四方からとなると魔法の補助なしには辛いというものだ。事実セイヤは先ほどから剣を捌くことができずに回避を迫られている。


 だがその回避も上手くはいかず、何本かの剣を体に受けてしまい、地面に片膝をついた状態のセイヤ。


 「ぜぇ……ぜぇ……」

 「随分と苦しそうじゃのう、セイヤ」


 体中から血を流すセイヤを見るロナの表情は暗い。しかしロナは心を鬼にしてさらなる剣を用意した。その数は先ほどまでと比べれば少なく百本程度。けれども今のセイヤにとってみればその百本を対処するのも難しいだろう。


 「諦めるんじゃ」

 「嫌だね……」

 「どこまでも頑固な奴じゃ……お主には夜は訪れぬ」


 百本の剣がセイヤを囲い込むように展開され、精霊ルナが手を振り下ろした瞬間、それらが一斉にセイヤに向かって放たれる。


 (終わった……)


 セイヤが自らの負けを確信したその時だった。


 (まだよ。まだ終わってないわ、セイヤくん)

 (これは……)

 (さあ、今よ。今こそ私の力を使って)

 (ああ)


 セイヤは小さく呪文を唱える。魔力を感じることができないというのに、セイヤは構わずに詠唱を唱えた。


 「我、水の加護を受ける者、加護を持って拒絶する。『水結界ウォーターバリア』」


 その詠唱は水属性の詠唱。そして突然現れた青い半透明の結界がセイヤのことを百本の剣から守ったのであった。

多分明日で終わります。

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