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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第253話 そして戦う

 ロナから語られた真実にセイヤは言葉を失う。それは理解が追い付かないのが半分、アーサーたちが世界を滅ぼそうとしていることにたいする驚きが半分だ。まさか聖騎士と呼ばれるアーサーが世界を滅ぼそうなどとしていると言われて誰が信じられようか。


 しかしロナが嘘をついているようには思えない。となると、彼女が言っていることは本当なのだろうか。


 「言ったじゃろう。奴らはお主を利用していると」

 「……」


 ロナの言葉に何も言い返せないセイヤ。それは言い返せないというよりも、言葉が出なかったと表現する方が正しいだろう。


 先ほどまで一緒に行動していた人間が実は自分を利用していたなどと言われれば、耳を疑うに違いない。仮にそれが真実だとしても、受け入れるには抵抗がある。だからセイヤは受け入れるのを拒んでしまう。


 「おいおい冗談はやめてくれ」

 「冗談ではない。奴らは元々そういう人種じゃ」

 「じゃあギラネルもか?」

 「そうじゃのう。あやつの場合は自分の仕える影を追っているだけじゃ」

 「じゃあダルタも?」

 「聖教会の使用人か? どんな命を受けているかわからんのう」


 次々と否定されていき、疑心暗鬼になるセイヤ。それでもロナは話をつづけた。


 「それにライガーもお主を利用する一人じゃ」

 「ライガーも?」

 「そうじゃ。奴はアーサーたちと特に関わりが深い」

 「やめろ……」


 セイヤはロナの言葉を封じるように声を発する。それは次にどのような事実を言われるか予想がついたから。だがロナは構わずに続ける。


 「その娘であるユアも本当はどういう目的があるのかわからんぞ」

 「やめろって言ってるだろ!」


 その言葉をロナの口からききたくはなかった。他の人でさえ言われれば不快だというのに、姉のような存在であるロナに言われることはそれ以上に不快感があった。


 だがロナは止めなかった。


 「セイヤ、現実は優しくはないのじゃ。必ず何かしらの思惑が働いておる」

 「やめろ……」


 聞きたくないとばかりに耳を塞ぐセイヤ。


 「だからこそ、お主の両親は消えた」


 ロナが悲しそうに言葉を放つが、耳を塞いでいるセイヤには届かない。なぜロナがそんなことを言うのかわからないセイヤは自分がどのような感情を抱いているのか理解できない。


 それはドロドロした何か。そんな感情がセイヤのことを飲み込もうとしてくる。


 「やめろ、来るな」


 自分のことを蝕む何かをセイヤは必死に抑え込む。それが何か、心の底ではセイヤもわかっている。世界に対する破壊衝動だ。魔王の力が精霊ルナと出会ったことでより一層高まっている。


 破壊衝動に苦しむセイヤを助けようとロナは手を伸ばすが、セイヤはその手を振り払った。


 「触るな!」

 「飲まれるな、セイヤ」


 触れることを拒絶されたロナは優しく言葉をかける。その直後、セイヤの破壊衝動が一瞬で和らぐ。


 「何をした」

 「夜の力でお主の力を抑え込んだのじゃ」


 ロナは自らの夜の力でセイヤの魔王の力を抑え込むことでセイヤの苦痛を和らげたのだ。これによってセイヤは少しだけ落ち着くことができた。


 そして冷静になることができたセイヤはロナに向かって言う。


 「俺は、俺は自分が信じたいと思う人を信じたい」


 それはセイヤの本音だった。なぜ自分がここまで感情を揺さぶられ、不安定になったのかといえば、ロナがセイヤの信じたいと思う人を拒絶したから。ユアだけではない。ライガーやアーサーたちもセイヤは信頼していた。自分が利用されているのもロナの勘違いならいいと思った。


 だからセイヤは自分の本音をぶつける。だがロナの顔は暗い。


 「残念じゃが、聖騎士は確実にお主にとって悪い存在じゃ」

 「どうしてそこまで言える?」

 「あ奴さえいなければセイヤが苦しむことはなかったからじゃ」


 ロナの表情を見る限り、嘘を言っているようには見えない。だがセイヤはそれでも自分の目で確かめたいと思った。


 「例えそうだとしても、それは自分で確かめる」

 「残念じゃが、それはできない」

 「どうしてだ?」

 「簡単じゃよ。妾がこの世界から逃がさないからじゃ」


 途端にロナの纏う闘気がセイヤに向けられた。それは先ほどまでのセイヤを包み込んでくれるような優しい雰囲気とはまるで別人。忘れかけていたが、ロナは、精霊ルナは異なる世界を創りだしてしまうほどの上位の存在だ。その気になればセイヤをこの世界に閉じ込めることも容易だろう。


 「戦わなきゃいけないってわけか」


 心の底では姉のような存在であるロナと戦いたくないと思うセイヤ。しかしそれ以上にアーサーたちにロナの言葉の真偽を確かめたいと思っているのも事実。


 一方、ロナは弟のように愛するセイヤを不毛な戦いに巻き込みたくはない。そのためにはこの世界に留めなければならない。愛しているからこそ、力ずくで求めなければならないのだ。


 再び戦いの火ぶたが切って落とされるのは必至だった。


 もう両者に言葉は必要ない。語り合うのは戦いの中で十分だ。戦いを通して自らの思いを相手に伝えるしかない。


 「いくぞ」

 「来るがよい、セイヤ。少しお灸をすえてやろう」


 地面を思いっきり蹴ったセイヤは両手に握るホリンズでロナに斬りかかる。しかしその速度は最初の攻防に比べるとかなり遅い。いまだに光属性の魔力を感じることのできないセイヤは身体能力だけで精霊ルナに斬りかかろうとする。けれども相手は精霊、その刃は届くことはない。


 「顕現せよ、『世界の源』」


 その言葉の直後、精霊ルナの後方には無数の小さなガラスの球体が出現する。その球体は魔力の光を帯びると一瞬にして、その姿を球体から一本の剣に変える。空中に浮かぶ三百本の剣。加えてそれらはどれも業物のような存在感を放っている。


 (なんだあれは!?)


 セイヤは空中に出現した剣を見ると突進を止めて距離を取った。このまま突進を続けたところで串刺しになるのは必至だ。なら攻撃よりも防御に専念するしかない。


 (どうする……回避は難しい……)


 光属性の魔力が使えない以上、身体強化による回避は不可能だ。そうなると闇属性で三百本の剣を消滅させるかと考えたが、すぐにその選択肢を捨てる。相手は闇属性の上位の夜属性を使う精霊だ。闇属性など意味をなさないに決まっている。


 (なら聖属性か)


 セイヤが選んだのは聖属性。精霊ルナの剣に対して、セイヤは同等の剣を同数生成した。この時セイヤは聖属性で盾を生成するかと考えたが、剣の一本一本が業物級だということを考えると防ぐより撃ち落とした方が安全という結論に至った。


 精霊ルナが撃ち出した剣に対して、セイヤも生成した剣で迎撃する。剣と剣がぶつかり合い、甲高い音が響くと同時に剣は粉砕したり、どこかへ飛んで行ったりする。そうしてセイヤは三百本の剣の迎撃に成功した。


 セイヤの迎撃を見た精霊ルナは少しだけ驚いた表情を浮かべる。


 「まさか聖属性を会得しているとは。じゃが、まだ不完全のようじゃ」


 そして精霊ルナがセイヤに向けてある言葉を放つ。


 「その魔力、消えるのじゃ」


 変化は唐突に訪れた。突然膝から力が抜けてしまったセイヤはその場に倒れこんでしまう。


 「なにをした……」


 セイヤの顔に浮かぶのは焦り。それは今何が起きたのかを理解できなかったのもあるが、それ以上に驚きなのが自分の身体に起きた変化だった。


 何とセイヤの身体から魔力が消えたのだ。それは光属性の魔力が感じられなくなったのと同じように、セイヤの身体から魔力がすべて抜け落ちた。


 もっと正確に言うのであれば、魔力に関するすべての感覚が消えたようであった。

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