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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第249話 儀式

 青龍の相手をアーサーたちに任せたセイヤたちは夜属性を求めて迷宮を進んでいた。迷宮は青龍を除き、他に魔獣の姿はなく、セイヤたちは特に戦うことはなかった。


 しかしセイヤたちの表情は歩みを進めるごとに少しずつだが確実に険しくなっていく。それは二人が高位の魔法師であり、その先から禍々しいオーラが漏れ出るのを感じていたから。


 そしてセイヤはそのオーラに覚えがあった。


 「もしかしてこれも闘気か?」


 迷宮の先から流れ出てくる禍々しいそれはアーサーやギラネルの使う闘気とどこか似ていた。それは無秩序に流れ出ているのではなく、確かな標的をもって発せられているように思われる。


 「ええ、これも闘気の一種です」

 「じゃあその主は……」

 「はい」


 そこから先は口に出さずともわかる。これほどの闘気を操る存在などそうそういない。その闘気の発生源はこの異なる世界を創りだした精霊に他ならなかった。


 「じゃあ、もう少しなのか?」

 「ですね」


 闘気の密度から言って、セイヤたちの目指す精霊はそう遠くはない場所にいることが分かる。一歩進むごとにずしりと重くなるその闘気はまさに怪物級の存在だ。セイヤも先ほどから無秩序だが闘気を垂れ流すことで精霊の闘気に対抗するが、それでも精霊の闘気は体に応える。それはまるで生物としての格が違うことを宣告されているようだ。


 闘気を肌で感じながら進むこと数分、セイヤとギラネルはついに最終目的地へと到達した。


 「セイヤ様、いよいよです」

 「ここが、か」


 セイヤの視線の先にあるのは大きな鉄でできた扉。その扉はまるでゲームに出てくるラスボスが待ち構える部屋を守る重厚な扉のように大きく、そして存在感を放っている。


 ごくりと息を飲みながらセイヤは扉に手をかけた。その動きに躊躇いはない。セイヤには戦わないという選択肢は存在しなかったから。


 「いくぞ」

 「はい」


 ギギギ、という音を立てながら扉がゆっくりと開いていく。そして視界に飛び込んできたのは広い空間。だが青龍がいた空間と比べると狭く、そして天井もかなり低い。もしそこで戦いと繰り広げるとなれば、かなり動きにくいだろう。


 しかしそんな懸念はすぐに霧散した。なぜならその部屋の中にはセイヤたち以外の生物の気配はなかったから。唯一あったのは何かを祭っているであろう立派な祠と鳥居のみ。


 「これは一体どういう……」


 予想だにしていなかった事態に困惑の色を隠せないセイヤ。けれどもセイヤの目の前にある祠が何か関係があるということだけは容易にわかる。それは祠から例の闘気が放たれていたから。


 「セイヤ様、ここは更なる扉がある部屋です」

 「更なる扉?」


 ギラネルが何を言っているのか、セイヤはすぐには理解ができない。セイヤたちのいる部屋には先ほどセイヤたちが入ってきた扉以外に扉のようなものは見受けられない。ではいったいどういう意味での扉なのか。


 「セイヤ様は覚えておりますか。精霊とどこで戦うか」

 「確か……」


 セイヤは記憶をたどりながらその答えを探す。そう言えば、精霊と戦う場所は夢だといわれていた。しかしそれがどういう意味かは分からない。


 「夢……」

 「その通りです。ここは夢の世界へと通ずる部屋なのです」

 「まさか、さらに違う世界が存在すると?」


 信じられない。セイヤは瞬間的に思った。他の世界を創るだけでも異常だというのに、まさかもう一段階存在するのか。そんなことがありえるのか。セイヤはすぐには答えを出せなかった。


 だが構わずギラネルは話を進める。


 「おっしゃる通りです。その精霊は夢の中にいます。そしてその夢の世界へ行くための装置があの祠なのです」


 そう言うとギラネルは祠に近づいていき、あるものを取り出す。それは五本の紫色に輝く水晶でできた棒のようなもの。


 「それは?」

 「夢の世界へ向かうための結界を張る魔具です」

 「魔晶石なのか?」

 「ええ、ご名答です」

 「なるほど」


 その魔晶石でできた棒を見てセイヤはこれから行われるであろう儀式の壮大さを理解した。その魔晶石の一つ一つは超高純度のものであり、もしレイリアで売却すれば、三本もあれば一生豪遊して暮らせるであろう金銭を得られそうだ。


 「どうやらおわかりのようですね?」

 「ああ。これから行われるのは結界を介して完全な夢の境地に達することだな」

 「完璧です。セイヤ様には深い眠りについてもらいます」

 「そうか」


 セイヤの表情が少しだけ厳しくなる。だがセイヤがそんな表情を浮かべるのも無理はないことだ。ギラネルが言っていることを一言に言い換えるのであれば、死ねと言っているのだ。正確に言えば結界内で仮死状態に陥ろということである。


 だが仮死状態といっても、戻ってくることができなければ死んでいるのと同じこと。だからギラネルはセイヤにこの儀式を行いたくはなかった。しかしセイヤの覚悟を知っている以上、ギラネルにセイヤを止めることはできない。


 だからギラネルはセイヤに安心するよう言葉をかける。


 「ご安心ください。この結界は術者の力量がものを言う魔法です。そして私は代理ですが大魔王の名を持つ魔法師。必ずセイヤ様をお守りしてみせます」


 セイヤを安心させるためにそう言ったギラネル。考えてみれば、ギラネルがセイヤに対して自らを大魔王と名乗ったのはこれが初めてではなかっただろうか。だからこそセイヤはギラネルの言葉を聞いて安心することができた。


 「頼んだ。ギラネル」

 「はい、お任せを」


 力強く返事をしたギラネルは手に持っていた五本の魔晶石を地面へと五等星を描くように刺していく。そしてセイヤにその中心へ向かうようにと促した。


 「セイヤ様」

 「ああ」


 セイヤが魔晶石の中心に胡坐をかくように座り込むと、ギラネルが詠唱を始める。


 「夜の魂をこの世に誘う時、それは夜の世界へと引き込まれる」


 ギラネルが一節目を終えると、規則正しく配列された魔晶石を繋ぐように紫色の魔力でまずは円が描かれる。セイヤはそれを見ていよいよかと覚悟を決める。


 「夜が現れるが故に、それは夜と同化する」


 次の一節を唱え終わると、先ほどの円の少し内側に同じように紫色の魔力で描かれた。


 「祖は夜となり、己もまた夜となる」


 三節目で今度は五本の魔晶石を頂点として五等星が描かれた。これによって結界の土台となる部分は完成したといっていいだろう。


 「夜が一になるとき、その導きは出づ」


 四節目を唱え終えた直後、二つの円の間に見たことのない文字が出現し、その隙間をびっしりと埋めていく。その文字は古代文字にして結界をより強固にする補助の機能があった。


 「導きが五和の柱を繋ぐときそれは現れる」


 五節目の直後、今度は魔晶石からそれぞれ魔力の光が生じて、セイヤの頭上に向かって伸びていく。そして五つの光がぶつかった瞬間、セイヤを包み込むようなドーム状の結界が完成した。


 「セイヤ様、次でいよいよ仮死状態となります」

 「ああ、わかっている」


 その魔法は初めて見る魔法だったが、セイヤには何となくわかっていた。セイヤにもう不安などはない。あるのは強い意志と覚悟だけ。


 「セイヤ様、これだけは覚えておいてください。あの精霊は、夜を司る精霊ルナはとても強力です」

 「ルナ、それが精霊の名前なのか」


 初めて聞く名のはずだが、セイヤはなぜか懐かしさを覚えた。


 「はい。そしてここからが重要です。自分の力を信じてください」

 「自分の力を?」

 「そうです。そして向き合ってください。自分の力、自分の可能性に」


 ギラネルが何を言いたいのか、はっきりとはわからなかった。だがセイヤは構わずに頷く。


 「わかった。夜属性を必ず会得する」

 「はい、信じております」


 ギラネルはにこやかに笑みを浮かべると、最後の一節を唱えた。


 「夜は夜と邂逅する」


 その言葉を最後に、セイヤの意識は闇へと落ちていくのだった。

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