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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第248話 青龍との戦い(下)

 目の前で落下中のアーサーを見てダルタは言葉を失う。レイリア最強の名を持つ魔法師であり、聖騎士と呼ばれるアーサー。その実力はここ最近行動を共にしたにもかかわらず、まったくもって底が知れない。


 だからダルタはアーサーが問題なく青龍を仕留めるだろうと確信していた。事実アーサーは青龍に対して有利に戦いを進めていたはずだ。それがなぜこのような状況になったのか、ダルタには想像できなかった。


 しかし傍観続けるわけにもいかない。もしアーサーがこのまま地面にぶつかれば、頭を強く打ち付けて最悪の場合死に至るかもしれない。そうならないため、ダルタはすぐに魔法を行使した。


 「我、水の加護を受ける者、安息を求む。『水粘スライム』」


 詠唱の直後、アーサーの落下する先に大きな青い魔方陣が展開されると、そこに現れたのは大きな大きな水の塊。出現した衝撃でプルンプルンと揺れている。


 「うっ……」


 その大きなスライムは落下するアーサーの衝撃を全て受け止め、アーサーがそのままスライムに包み込まれながら地面へと横たえられた。ダルタはすぐにアーサーの下へと駆け寄ると、必死に呼びかけた。


 「聖騎士様、大丈夫ですか!?」

 「悪い、ダルタ。助かった」


 ダルタの必死の呼びかけに掠れた声で答えるアーサー。特に外傷らしい外傷が見当たらないため、なぜアーサーがこれほどまで弱っているのかわからず困惑するダルタ。


 「いったい何があったのですか?」


 先ほどまで有利に戦っていたはずのアーサーに何があったのかという疑問もさることながら、それ以上にレイリア最強の名を持つ魔法師の苦戦する姿にダルタは驚きを隠せなかった。


 「わからん。突然魔力が消えた感じだ」

 「魔力が消えた?」


 そんなことがあるのか、ダルタが疑問に思う。だがアーサーがそう言うのであれば、それは事実なのだろう。しかしそうなると、どうやってあの青龍を倒せばいいのかわからなくなる。あの巨体に強固な鱗を魔法抜きで人間がどうにかできるとは思えない。


 「ど、どうしますか?」


 ダルタの言葉は遠回しに撤退するかと言いたげだ。だが魔法が使えないとなれば、そういう選択を選ぶのも無理はないのだろう。魔法が使えない魔法師などただの人間に変わりない。


 しかしアーサーの出した答えは違った。


 「いや、このまま戦う」

 「でも!?」


 魔法が使えないのにどうやって戦うのだ。まさか聖剣エクスカリバーで青龍に斬りかかるとでもいうのか? そんなことはいくら聖騎士でも無謀だ。ならどうするのか。ダルタにはその答えがわからない。


 「おそらくだが、あいつは自らを中心にして一定量域内の魔力を沈静化で封じている」

 「沈静化で?」


 そんなことが可能なのかという疑問がダルタの中で生まれる。それはダルタが沈静化の効果を持つ水属性の操作に長けているからこそ生まれた疑問だ。事実、沈静化の効果でそのようなことができるという話は聞いたことがない。それに沈静化で魔力が封じられるなどと考えたこともなかった。


 だが目の前にいる魔獣のスケールを考えれば、もしかしたらあり得るのかもしれない。ダルタはそんな可能性を考えるとともに、どうすれば対処できるのかを考える。


 この場合だと、沈静化に対抗するには火属性の活性化を用いるのが得策だろう。しかし残念なことにこの場に火属性を使える魔法師はいない。ならどうするか。そこでアーサーから衝撃の提案を受ける。


 「ダルタ、お前が仕留めろ」

 「私ですか!?」


 思いもよらぬ提案に突拍子もない声を上げてしまうダルタ。だがレイリア最強の名を持つ魔法師がいるにもかかわらず、自分がやれと言われれば驚くのも無理はない。それに水属性に同じ水属性をぶつけたところで、結果はより純度の高い水属性が勝つと決まっている。そして今回で言えば、それは青龍の方だった。


 「むっ、無理です。私の魔力じゃ沈静化されてしまいます……」

 「大丈夫だ。お前は自分の力を信じろ」

 「でも……」

 「それにあたしが援護する。そう簡単にあいつの沈静化を発動させたりはしない」


 確かにアーサーの援護があればできるかもしれない。アーサーの得意とする光属性の効果は上昇。ダルタの水属性に光属性を掛け合わせることで青龍の沈静化を抑え込むことができる。しかしそれとは別にもう一つ問題があった。


 「ですが私にはあの鱗を貫通できるような魔法は……」


 もう一つの問題。それは例え魔法が行使できたとしても、青龍の硬い鱗を貫き仕留められるような魔法はダルタにはなかった。


 「それは本当か? 微塵の可能性もないのか?」

 「そ、それは……」


 厳しい声音で詰問されたダルタは返答に困る。ダルタが使える魔法の中で一番強力な魔法は両親の敵を討つために生み出した『霧剣地獄ー千刺ー』だが、それでは攻撃力が足りるか微妙なところ。


 「どうなんだ?」

 「えっと、今の私の実力だと五分五分です」

 「なるほど。それはダルタの魔力だけで、って意味か?」

 「えっ?」


 アーサーの言葉の意味がいまいち理解できないダルタ。そこでアーサーが説明を付け足す。


 「今、この空間にはかなりの水が飛び散っている。これらを使うことはできないか?」


 そこでダルタは辺りを見渡す。確かに辺り一面には青龍との戦闘で飛び散った水がかなり見受けられる。つまりアーサーはその水を使えないかと聞いて来たのだ。


 「これなら……」

 「いけるのか?」

 「はい、多分。ですが、やったことがないので成功するか……」


 未知のことなので不安になるダルタ。しかしそんな不安をかき消す言葉をアーサーが掛ける。


 「ダルタ、お前ならできるはずだ。それに帝王に、セイヤに託されたんだろ?」

 「あっ」


 そうだ。そうだった。自分はセイヤに任されたんだ。一体どれほど自分は迷うのだろう。ダルタはそう思った。迷うのは止めたんだ。やるしかない。


 「できるな?」

 「はい!」


 ダルタの言葉にわずかな笑みを浮かべてアーサーはすぐに行動に移った。


 「動きを止めるから一撃で仕留めろ。光の王女の加護を持って宣告する。『光の輪(ライトニング・リング)』」


 アーサーが詠唱を終えると、光の魔力が綱状になったものが現れて青龍の大きな体に纏わりつき、その身体を締め付けていく。そしてすぐにダルタが魔法を行使する。


 「我が魂を霧の巫女に奉納する、故に霧の巫女は我に見返りをかしづけ、ここに相恵の契約。『霧剣地獄‐万刺ー』」


 詠唱が終わった刹那、その空間内にあった全ての水分が空中に舞い、次々と剣を形作っていく。そしてそこにダルタの魔力によって生まれた剣も加わり、その空間は一瞬にして無数の剣によって包まれた。万を超える剣の中心にいるのは青龍。


 「これで終わり」


 その言葉を最後に、青龍の意識はこの世界から消えた。そして残ったのは無数の傷跡を残した巨大な龍の亡骸と乾燥した空気。だが次の瞬間にはその亡骸が溶けて水となり、乾燥した空気を潤していく。


 「できた……」

 「よくやった」


 満足そうな表情を浮かべるダルタに労いの言葉をかけるアーサー。その言葉は本当にうれしそうだ。


 (こっちはうまくいったぜ)


 心の中でそう呟いたアーサーの顔は本当に満足そうだ。なぜなら今回の戦いでの真の目的はダルタに青龍を仕留めさせること。だからアーサーはわざと傷ついた振りまでしてこの状況を作り出した。青龍が魔法を封じたというのは全くの嘘であり、アーサーの魔法が急に解けたのは自ら魔法をキャンセルしたから。


 そこまでしてアーサーがダルタにこだわった理由は一つ。


 (これでキレルの古代魔法はダルタのものだ)


 アーサーは心の中でそう呟いたのであった。

次からセイヤです。

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