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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第247話 青龍との戦い(中)

 五体の身体を水で構成された小龍の相手を任されたダルタは詠唱を唱えながら小龍たちを見据える。上空にいる青龍には一切の注意を払っていない。先ほどのアーサーの魔法を見れば、彼女にとって青龍の相手はさほど苦にはならないことはわかっている。


 だからダルタは目の前の敵に集中した。


 「我、霧の加護を受ける者、霧の巫女に注ぐ。『霧裂むれつ』」


 ダルタが詠唱を唱え終わった直後、ダルタの右手に展開された青い魔方陣から霧の斬撃が一斉に放たれて小龍に襲い掛かる。


 体を水で構成されている小龍は硬い鱗を持つ青龍は異なり、その防御力は低く容易にダルタの攻撃が通った。


 「よし」


 自分の攻撃が成功し、その胴体を切り裂いたと確信したダルタはそのままアーサーの援護に向かおうと思ったが、その動きを封じられてしまう。


 ダルタの前に現れたのは霧の斬撃で切り裂いたはずの小龍。


 「うそ!?」


 目の前に現れた小龍を見て、ダルタはすぐにほかの小龍に視線を移する。するとダルタの視界に入ってきた光景は切り裂いた傷口から水が伸びていき、再び体を構成していく小龍。どうやらこの小龍には再生能力があるのだと確信したダルタ。


 「なにこれ、めんどくさい」


 小龍の再生能力を知ったダルタの第一線はどこか間の抜けた声だった。その姿はついさっきまで巨大な青龍に怯えていた少女とは似ても似つかない。だが相手の差を考えれば、その反応の違いも当然だろう。


 このキレル山脈の主として君臨していた青龍とは違い、小龍たちは小型の魔獣。確かに青龍の召喚した魔獣でありその実力も強力だが、青龍と比べてしまえば大したことはない。


 それにこれまでアーサーやギラネル、そしてセイヤと行動を共にしていたから強くないように見えたが、一般的な基準で測ればダルタの魔法師としての実力はそれなりのものである。だから小龍相手のダルタには余裕があった。


 「我、霧の加護を受ける者、霧の巫女に注ぐ。『霧裂むれつ』」


 再び霧の斬撃で小龍の胴体を切断するダルタ。小龍の方も今度はやられまいと防御を行おうとしたが、ダルタの無駄のない攻撃の前では遅れてしまい、その胴体をすっぱりと二つに斬られてしまう。けれども、当然ながら今回も再生してもの姿に戻る。


 そして小龍はそのままダルタに向かってブレスを放つ。それは上空でアーサーと戦う青龍と同じような攻撃方法だ。


 「我、水の加護を受ける者、加護を持って拒絶する。『水結界ウォーターバリア』」


 ダルタは自分を中心とする結界を行使し、青龍の攻撃を防ぐ。小龍のブレスはダルタの行使した青い半透明の結界にぶつかるとそのまま飛び散ってしまった。だが小龍は構わずに結界に向かってブレスを撃ち続けた。


 「う~ん。再生までの時間を考えると連続攻撃は無駄か」


 結界の中で小龍の殲滅方法を考えるダルタ。小龍の途切れることのないブレスの嵐の中にも関わらず、ダルタは冷静だった。ダルタの行使した『水結界ウォーターバリア』水属性の中級魔法だが、その強度は下手な魔法師が行使する上級魔法師に匹敵するほどだ。そのため小龍の攻撃にもある程度は耐えることができる。


 「我、水の加護を受ける者、加護を持って拒絶する。『水結界ウォーターバリア』」


 ダルタは保険として結界の内側にさらにもう一枚の結界を行使した。これでしばらくは考える時間を取れそうだ。


 そしてチラリと上を見たダルタ。その視界にはちょうど青龍の巨大な体を光の縄で締め上げているアーサーの姿があった。


 「私はこっちに集中しなきゃ」


 一瞬だけ上に向いてしまった意識を慌てて引き戻したダルタは目の前で自分にブレスを放ってくる小龍たちの身体を細かく観察する。


 「核みたいなものもないか」


 この手の魔獣には核が存在し、それを破壊すれば再生も止まるということを以前聖教会の本で読んだことがあるダルタは核を探すが見つからない。小龍の身体はすべてが純度の高い水で構成されており、核どころか瞳なども存在しない。


 「完全な水。ということはそれぞれに自我はない?」


 小龍の身体を事細かに観察してダルタはそう結論付けた。核どころか、水以外の不純物が何もないのなら各個体に自我がないと考える方が妥当だろう。加えてそれなら再生能力にも説明がつく。


 「つまり水を操っているだけ。でも何が?」


 小龍の正体を理解したダルタだったが、その水たちを操る大本がわからない。仮に上にいる青龍だとするならば、ここで撃てる手はアーサーが青龍を仕留めるまで攻撃を防ぐか、攻撃し続けるかのどちらかだろう。だが青龍が苦戦しているにもかかわらず、小龍の動きには一切の変化は見られない。


 そこから導き出される結論は一つだった。


 「この空間内に核がある」


 辺りを見渡すダルタ。だがそのようなものは視認できない。そもそもそんなものが存在していたならば戦う前から認識できるはずだ。


 「見えないなら、感じ取るまで。我、水の加護を受ける者、風の加護と共に顕現せよ。『濃錯霧』」


 ダルタが詠唱を唱えた直後、ダルタが行使した結界を中心として周囲に高濃度の霧が出現する。その霧には殺傷性はなく、本来は相手の視野を奪う魔法。しかし小龍たちに瞳はないため、まったくの無意味だ。


 だがこれでよかった。


 ダルタが作り出した霧はダルタの魔力によってできている。それは言い換えれば、霧の包み込む空間はダルタの認識が及ぶ範囲ということだ。そしてその空間内にたとえ不可視でも何かが存在すれば、ダルタは探知することができる。


 「見つけた」


 ダルタは自らが作り出した空間内に不自然な何かを見つける。それは石ころのような小さな球体の何か。それが全部で五つ空中を漂っている。


 「これが核」


 その球体が小龍たちを操る核だと確信したダルタは続けて魔法を行使した。


 「我、水の加護を受ける者、巫女と剣薙ぎの魂を顕現する。『雨針』」


 ダルタは行使した魔法は水で作った無数の針を撃ち出す魔法。だがダルタは今回の『雨針』はいつものとは違う。使う水は霧としてすでに空中に散っている水だ。それは新たに魔法陣を展開して核に気づかれないため。


 もしかしたら核には魔法陣を感知するなどと言う能力はないのかもしれないが、念には念を入れておいて損はない。空中に飛び散っていた無数の水の粒が集まりながら針を形作っていく。そして霧が薄くなったその瞬間、ダルタに向かってブレスを放っていた小龍たちが一斉にその体を爆発する。


 霧が完全に晴れた頃には小龍たちの身体はただの水へと戻っていた。


 「これでよし!」


 小龍たちを処理したダルタが再び上空に視線を向ける。おそらく今頃はもう片が付いているだろう考えるダルタ。だがダルタの予想は思わぬ形で裏切られた。


 「嘘!?」


 その瞳に映ったのは上空から落下してくるアーサーの姿だった。

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