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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第246話 青龍との戦い(上)

 アーサーの言葉によって自らの目的を再認識することができたダルタは怖気づくことなく上空に君臨する青龍を見据えて魔法を行使する。


 「我、水の加護を受ける者、風の加護と共に顕現せよ。『濃錯霧』」


 ダルタが詠唱を唱えた直後、青龍を中心として上空に高濃度の霧が出現する。その霧に殺傷性はないものの、青龍の視界を奪うには十分だ。


 「我、水の加護を受ける者、巫女と剣薙ぎの魂を顕現する。『雨針』」


 続けて魔法を行使するダルタ。今度は青龍の顔付近に青い魔方陣を展開し、その顔面を目がけて水でできた針の嵐をぶつける。しかし青龍の鱗はとても固く、ダメージが通っているようには見えない。それでもダルタは攻撃を続けた。


 すると青龍の動きが少しだけ鈍くなる。


 「動きは止めました!」

 「上出来だ」


 ダルタは別に最初から青龍を仕留めようなど微塵も思っていない。ダルタが行使した魔法はどちらも青龍にとっては小石をぶつけられた程度の痛みでしかない。だがそんな小石でも使い方を考えれば動きを止めることぐらいはできた。


 濃い霧によって青龍の視界を奪ったダルタは続けて水の針で青龍の鼻を集中攻撃した。それにより目ぼしいダメージを与えることはできなかったが、水属性の沈静化によって青龍の嗅覚を鈍らせることに成功する。


 それこそがダルタの目的だ。ダルタの隣にはレイリア最強の名を持つ魔法師がいるのだから、最初から最後まで一人でやる必要はない。


 「さて、次はアタシの番か」


 聖剣エクスカリバーを地面に刺し、左手で右腕を支えるようにして青龍に向けるアーサー。


 「光の王女の加護を持って宣告する。主は光の妨げ、主は世の争乱。よってここでレイリアの名のもとにその罪を罰とする。『光の牢(ライトニングプリズン)』」


 次の瞬間、上空を包みこむ濃霧の中に複数の黄色い魔方陣が唐突に生じる。そしてその魔方陣を結ぶように光が放たれ、あっという間に全ての魔法陣が繋がる。


 魔法陣たちが一つの構造物として成立すると同時に響く青龍の咆哮。その咆哮が苦しみにあえぐものだというのは霧が晴れると同時に理解できた。


 「すごい……」


 ダルタはそれを見て感嘆する。アーサーの唱えた詠唱はこれまでに聞いたことがないものだし、その魔法も知らない。ただわかるのはその魔法が目の前で青龍を苦しめているということだけ。


 魔方陣同士をつなぐ数々の光は青龍の硬い鱗を貫いており、その動きを止めている。それはまるで光の牢屋に拘束されているようであった。


 だが青龍をこれくらいではやられない。


 「ちっ、まだか」


 アーサーがそう呟いた直後、青龍が怒りの咆哮と共に魔法陣を複数個展開する。それはこれまで上空に展開していた魔方陣とは違い、アーサーたちのいる地面に展開された。そして現れたのは体が水でできた小さな龍。だがその個体一つ一つから放たれる存在感がそこらの魔獣とは違うことは二人にもわかった。


 青龍が召喚した水の小龍の数は全部で五体。


 「ダルタ、こいつらは任せていい?」

 「はい、大丈夫です!」

 「なら頼んだ」


 小龍たちをダルタに任せ、アーサーは跳躍と小さな『光壁シャイニングウォール』を駆使して一気に上空までと駆け上がる。


 「光の王女の加護を持って宣告する。『光槍ライトニングスピア』」


 青龍に向かって再び光の槍を放つアーサー。光の牢によって動きを止められている青龍にその攻撃を防ぐ手立てはない。


 光の槍が青龍の体に次々と刺さっていく。それと共に悲痛の咆哮をあげる青龍。だがアーサーは構わずに攻撃を続ける。


 「光の王女の加護を持って宣告する。『光の輪(ライトニング・リング)』」


 アーサーが新たに詠唱を唱えると、今度は光の魔力が綱状になったものが現れ、青龍の大きな体に纏わりついていく。そしてそれは徐々に青龍の身体を締め付けていく。


 青龍は声を上げながらその拘束から抜けようとするが、牢によって体を貫かれ、光の槍が刺さったままのため上手く身動きが取れずにどんどんと締め付けられている。その姿を見る限り、もはや青龍に勝ち目はない。もしこの状況を見たならば、アーサーの勝利だと誰もが確信しただろう。


 しかしアーサーはまだ攻撃の手を緩めない。


 「光の王女の加護を持って宣告する。汝の命をレイリアに捧げよ。『光の女王クイーン・オブ・レイリア』」


 それは信じられない光景だった。なぜなら突然、青龍の背後に一人の巨大な女性の上半身が現れたから。その体や服はすべて光で構成されているが、服装からして高貴な人物だということはわかる。その光の女王は青龍の頭と尾を包み込むように手を広げると、その手をゆっくりと中の方へ閉じていく。


 光の女王の手がまるで青龍を頭と尾からつぶそうとする中で、青龍が今までにないほどの苦痛の叫びをあげるが、光の女王は気にすることなく青龍のことをつぶそうとする。


 青龍はつぶされまいとばかりに体を唸らせながら必死にその手から逃れようと試みる。その際、身体を貫く牢が傷口を広げ、光の縄が更に体を締め付けるが、青龍は気しなかった。というよりも、それくらいのことは青龍にとってはどうでもよかった。


 生まれて初めて自分よりも巨大な存在につぶされる恐怖に青龍は必死にあがく。その姿には先ほどまでの威圧感はまったくなく、どこか小物のようにも見える。


 「足掻くだけ無駄だ」


 必死の抵抗を見せる青龍に同情の眼差しを向けるアーサー。レイリア最強の名を持つ魔法師の前では青龍でさえそこらの魔獣と変わらない。


 青龍は光の女王の手に向けて水のブレスを放つが、その水は手に当たると散ってしまう。それならばと今度は尻尾に魔力を纏わせて目一杯振って光の女王の手をどかそうとするが、やはり効果はいま一つのようだ。


 絶体絶命の青龍。もう青龍に残された攻撃手段はない。正確に言えば青龍にはまだ様々な攻撃手段はあるものの、この状況を打破するものはなかった。


 まさに詰みだ。


 しかしその時は不意に訪れた。なんと先ほどまで青龍をつぶそうとした光の女王の手が、その本体が突然姿を消したのだ。それだけではない。青龍の身体を貫いていた光の牢も、青龍に刺さっていた光の槍も、青龍の身体を締め上げようとしていた光の縄も、すべてが一瞬にして姿を消したのだ。


 何が起こったのか、青龍にはわからなかった。


 だが驚きはそれだけではない。先ほどまで優位に立っていたアーサーの纏う鎧がいつの間にか傷つき、アーサーは苦悶の表情を浮かべながら落下していったのだ。


 一体何が起きたのか、青龍には理解ができなかった。


 「嘘!?」


 下でちょうど魔獣を倒し終えたダルタも落下するアーサーを見て驚愕の声を上げるのであった。

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