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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第242話 扉

 ダクリア地方に近い暗黒領にそびえ立つキレル山脈。その連なる山脈の谷間部分の奥深い場所にセイヤたち一行の姿はあった。


 キレル山脈の探索を始めてからすでにかなりの時間が経っているため、セイヤたちはかなり奥地まで来ることができた。アーサーとギラネルの轟音をともなう攻撃によってキレル山脈の主を目覚めさせて以降は魔獣の襲撃もぱったりとなくなったため、その後はここまで特に問題なく攻略できた。


 そして今、セイヤたちの目の前には大きな穴があった。


 「やっと見つけたぜ」

 「ああ、これで第一段階はクリアだな」


 その穴を見てひと段落といった雰囲気のアーサーとギラネル。しかしその穴が何かわからないセイヤとダルタにとってみれば二人の言葉を理解するのは難しかった。


 その穴は山脈の岩肌に削られた洞窟のような真新しい穴。けれども洞窟というには奥行きがかなり短く、的確に表現するのであれば岩肌にクレーターができたような感じだ。だがそれはただのクレーターというにはあまりにも人為的過ぎた。


 岩肌にできたクレーターの周辺にその真新しいクレーターを作り出したと思われるような岩などは見当たらない。そのため一体どうやってこのクレーターが生まれたのか、という疑問がセイヤたちの頭の中に浮かぶ。加えてそのクレーターはちょうど身長の高い人間がすっぽりはまるくらいの高さで、横幅も標準的な人間が横に二人並んでちょうどくらい。


 楕円状に生まれたそのクレーターはまるで人間のために作られたようだった。このキレル山脈には人間が寄り付かないというのに。しかもそんなキレル山脈の奥地の奥地にあるそのクレーターはどこか簡単に人に見つからないようにという意図も感じられる。


 といっても、普通の魔法師はまずこのキレル山脈を訪れようと思わないのだが。人のいない魔獣の巣窟など誰が好き好んで訪れるだろうか。新たな力である夜属性を求めるセイヤたちでさえかなりの消耗を強いられてここまで来たというのに、普通の魔法師が訪れようなんてまず思わない。


 レイリア最強の名を持つアーサーとダクリアで大魔王代理という位を持つ二人を持ってしても際限なく現れる魔獣たちに苦戦を免れることはできなかった。もしこのキレル山脈を苦略しようとするなら、アーサーとギラネルと同等以上の力を持つ魔法師たちが必要になるだろう。まあ、そんな魔法師が他にいればの話だが。


 だからこそ、ここまで厳重なキレル山脈の奥地にあるそのクレーターは異質で不気味だった。


 「あの、これは一体なんなのでしょうか?」


 その見るからに不気味なクレーターを前に、ダルタがアーサーとギラネルに尋ねる。その顔はどこか不安そうで、なにか恐ろしいものが現れるのではとビクビクしているようだ。するとダルタの有様を見たアーサーがそれまで右手に握っていた聖剣エクスカリバーを腰にしまいながら答える。


 「これはここの主のいる世界に通じる扉だ」

 「世界に通じる扉、ですか?」

 「ああ」


 アーサーの答えにいまいち理解できていないダルタ。だがセイヤも彼女と同じようにアーサーの言っていることがよく理解できなかった。その言い方ではまるでここの主が他の世界に存在しているようではないか、と思うセイヤ。だがセイヤの考えたことは紛れもない事実だった。


 的確な要旨しか得ず、説明不足なアーサーの答えにギラネルが説明を加える。


 「ここの主と呼ばれる精霊はこの世界とは違う次元の世界に住んでいるんです」

 「違う次元の世界?」

 「ええ。もっと正確に言うのであれば、ここの主が作り出した世界です」

 「えっと、それはつまり……」


 ギラネルの説明を聞いてもなお理解できないダルタだったが、ダルタとは対照的にセイヤはどこか納得した表情を見せる。そして同時にその表情が少しだけ強張った。


 セイヤの変化の機微に気づいたアーサーがすかさず口を開く。


 「ま、百聞は一見に如かずっていうやつだ。いくぞ」


 アーサーそう言ってクレーターに向かって歩みを進める。もし正常な人間がアーサーの行為を見たならば「いったいこの人は何をしているのだ」と思ったに違いない。なにしろ常識的に考えて、壁に向かって歩いたところで待ち受けている結果は鼻をぶつけて押し返される結末だけ。壁をすり抜けて他の世界に行くなど童話の中の話にしか思えない。


 だから次の瞬間、目の前で起きた光景にダルタは驚く。


 「嘘!? 消えた!?」


 クレーターに向かって歩き出したアーサーは岩肌に押し返されるどころか、まるでクレーターに飲み込まれるようにしてその姿を消した。それは幼い頃に読む童話のような光景であり、同時にある事実をセイヤに確信させる。


 「やはり偽装の魔法か」

 「正解です。セイヤ様の言う通り、このクレーターは偽装が施された姿。本来の姿は時空の裂け目となっております」

 「なるほど。ここの主は随分とでたらめな力を持っているんだな」


 予想していた事実に軽口をたたくセイヤだったが、やはりその表情はどこか硬い。


 世界を構築する力。それが一体どれほど膨大な魔力を要し、維持するのにどれほどの技術力を必要とするのかセイヤには見当もつかない。しかしそれでも言えることは、セイヤがこれから戦うことになっている相手は今までの相手とは存在としての規模が違うということだろう。


 客観的に見て、セイヤがこれまで戦ってきた相手たちはかなりの実力者だ。おそらくそこらの優秀な若手魔法師たちと比べてみてもその差は歴然であり、同時にセイヤの潜り抜けて来た修羅場の数も密度も違う。


 だがそんな経験を有するセイヤでさえ今回ばかりは顔を強張せずにはいられなかった。何しろ今まで世界を構築するほどの相手とは戦ったことがない。


 一体どれほどの実力なのだろう。


 そんな疑問がセイヤの頭の中で浮かぶ。そんなセイヤを見たギラネルは一瞬、今なら引き返せるということをセイヤ向けて発しようとしてしまう。だが言葉が出る直前でなんとか思いとどまり、その言葉を押し戻した。


 そして優しい声音でセイヤに言う。


 「では、私たちも行きましょうか」

 「そうだな」


 そう言い残してクレーターの中に消えて行くギラネルとセイヤ。


 「ちょっと待ってよ!」


 一拍おき、急に時間が動き出したかのようにダルタが叫びながらクレーターの中へと入って行く。こうして四人の姿はキレル山脈から消えた。

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