第233話 五人の覚悟
アルーニャ家に集まる五人。そのメンバーはユア、リリィ、セレナ、アイシィ、モーナ、五人ともアルセニア魔法学園に所属する生徒であり、ともにレイリア魔法大会を戦い抜いた仲間である。けれども五人にはもう一人の仲間がいた。そして五人はそのもう一人であるセイヤを助けるために準備を始めている。
集まった時点で、全員がダクリアに行く準備を終えている。
セレナは懐に二丁の魔装銃を忍ばせ、モーナは七つの魔晶石が組み込まれた世界に一つだけの大杖を持ち、アイシィは『氷作』の魔法を保存したネックレス型の魔晶石を首からかけている。
三人は他にも荷物を準備しており、いつでも出発ができる状態だ。そしてそれはユアとリリィも同じだった。
「それでユアさん、なにかわかったの?」
ユアの部屋に集まる五人。セレナがユアに問うと、ユアは一枚の書状を取り出して全員に見せる。
「これは?」
「これは手紙……」
「手紙? 誰からのですか?」
「ヂル=ネフラ……」
「「「ヂル=ネフラ!?」」」
手紙の差出人の名を聞き、驚く三人。だが三人が口を開けて驚くのも無理はないだろう。なぜならこの場でその名を聞くとこなど考えもしなかったから。
ヂル=ネフラ。特級魔法師イフリール=ネフラの息子にして、ユアとレアルと共にレイリア魔法大会で期待をされていた新星の一人。その実力はレイリア魔法大会で示した通り、かなりのものだ。
だがユアとヂルに関わりはないはずだ。あったとしても共闘したぐらいだろう。それなのにどうして書状が届くのか、三人には理解できなかった。
「あの、どうして書状が?」
「もしかして知り合いなの?」
「違う……」
「ならどうして?」
いまいち全体が理解できない三人。そこでリリィが三人に説明をする。もちろん説明するのは大人版リリィだが。
「それはユアちゃんが先に手紙を送ったからよ」
「先に?」
「そう。私たちにセイヤくんの知らせが届いたのが今から一週間前。それから私たちはそれぞれ思い当たるところにセイヤくんの情報を求めて赴いたの。それでユアちゃんのお父さんがフレスタンにいるって情報を得て、ユアちゃんがフレスタンの坊やに調査を依頼したってわけ」
リリィ言う通り、先に手紙を出したのはユアであり、その内容はライガーの消息と現在位置。そしてその答えがさきほど書状として届けられたのだ。
「なるほど。それでそこにはなんと?」
「書かれていたのは二つ……お父さんは今ネフラ家に滞在している……」
「そしてもう一つがセイヤくんの行き先よ」
「セイヤの行き先が分かったの!?」
「うん……」
思わぬ収穫に声が大きくなってしまうセレナ。だがその反応も好きな人がずっと音信不通の上、消息不明なら仕方のない事だろう。
「それでどこに?」
「ダクリア大帝国……」
「それもダクリアの総本山、ダクリア帝国よ」
「ダクリア帝国……」
ダクリア帝国という名に言葉を失う三人。ダクリア帝国はダクリアの首都にして中心。そこは三人が経験したダクリア二区よりもさらに危険な場所だ。
しかし三人にはわからなかった。どうしてセイヤがそんなところに言っているのか。
「あの、どうしてセイヤ先輩はそんなところに?」
「一応はお使い……でも実際は暗殺……」
「それってどういう……」
「セイヤくんに課せられた表向きの任務はダクリア帝国に潜入中の聖騎士アーサー=ワンへ聖剣を届けること。でもそれはあくまでも表向きであって、当然が裏の目的がある」
「それが暗殺だと……」
「そういうこと」
余りにも予想外の言葉に三人は言葉を失うほかない。だがリリィは話を止めることなく続ける。
「そして裏の目的こそが聖騎士アーサー=ワンにセイヤくんの命を奪わせて、この国から闇属性の力を葬り去ること」
この事実はあまりにも衝撃的過ぎた。
「でもそんなことしたら民衆が許さないのでは?」
「大方暗殺が成功したら世の中には暗黒領での不慮の事故となるでしょう。そしてセイヤくんを派遣した聖教会の責任問題になったところで結局は実力のなかったセイヤくんの落ち度となる」
リリィの説明に黙り込んでしまう三人。聖教会の完璧な計画もそうであるが、それ以上にセイヤのために動いて来た聖騎士アーサー=ワンの方が三人には衝撃的過ぎた。
聖騎士アーサー=ワン。その名をレイリアで知らぬ者はいないほどの有名人であり、レイリア最強の魔法師として十三使徒のトップに君臨する女。命令は絶対遂行で成功率は百パーセント。その聖剣の前では誰もがひれ伏す伝説の魔法師。
などなど、その逸話はあまた。聖騎士が相手ではいくらセイヤでも分が悪い。
三人の顔に絶望の色が見える。そんな三人に対し、ユアが言う。
「無理をする必要はない……」
それは三人を思っての言葉。相手が相手だ。強制できることでもないし、ここで逃げても誰も文句は言わない。
「ユアさんは行くの?」
「もちろん……」
「どうして? 相手はあの聖騎士だよ?」
「セイヤが好きだから……」
「そんな……」
ユアに問うたのはセレナ。セレナは別に聖騎士が怖いわけではない。確かに少しは怖いが、それでもセイヤのためを思えば立ち向かうことができる。でも心の中では行きたくないという思いが芽生えていた。なぜならセイヤの遺体など見たくなかったから。
あの聖騎士が相手だ。もしかしたらすでにセイヤはやられているかもしれない。セレナはセイヤの亡骸など見に行きたくはない。訃報など聞きたくもない。それならこのまま離れてどこかで生きていると思っていた方がいい。
好きだからこそ、セレナはそう思った。だがユアは違う。ユアはセイヤの生存を信じて助けに行こうとしている。そこでリリィがあることを教える。
「セイヤくんはね、別に任務を受けなくてもよかったの。でも受けなかったら十三使徒や特級魔法師たちがアルーニャ家に襲い掛かるだろうって脅されたらしいわ。別に私もユアちゃんも、それに雷神も戦っていいと思ったわ。でもセイヤくんはその道を選ばなかった。戦えば他の人にも迷惑がかかるから。それに私たちを危険な目に合わせないために」
どこか悲し気に語るリリィ。彼女もまた、セイヤの生存を信じる者だった。
「それにセイヤくんはまだ生きている。契約が続いてるからね」
その言葉を聞き、セレナもやっと理解した。
「そっか、そういう男よね、あいつは。それにこの程度でくたばるような魔法師じゃないわ」
「そうですね、セイヤ先輩はいつもかっこよくて強い先輩です」
「聖騎士が相手でも案外勝っちゃうかもしれませんね」
三人の顔に少しだけ笑顔が戻る。
「そう……」
「そうよ」
今まで見てきたセイヤはどんなピンチでも覆してきたヒーロー。負けるはずがない。
「私、行くわ!」
「私も」
「私もです」
セイヤ救出に向かう覚悟を決めた三人。
「そう。なら暗黒領に車を準備しているわ」
「いつでも行ける……」
五人の覚悟は決まっている。最後の仲間を助ける、それが五人の覚悟だ。
「行こう……」
「待っててね」
「ええ」
「はい」
「行きましょう」
五人はそれぞれの荷物を持ち、家の外へ出る。五人の顔には今まで以上の覚悟が見える。
だがその時だった。
「すいません。少し待っていただけても?」
五人の前に現れた一人の女性。その女性を、五人は知っていた。
「あなたは……」
「初めまして。聖教会十三使徒所属、序列十三位のナナと申します。これを渡しに来ました」
そう言ってナナは五人に一通を封筒を渡した。
お久しぶりです。いつも読んでいただきありがとうございます。二週間ほど更新が止まってしまい、申し訳ありませんでした。ですが、これもこれからの物語をより一層面白くするために行ったことです。
端的に言うと、この二週間で一章をすべて書き直しました。大まかなストーリーは変わりませんが、戦い方や、敵の出現ポイント、戦闘の中身等が変わっています。あと無駄な話を切り捨てました。
これで何が変わるかというと、これから先の物語では、一章で張った伏線を次々と回収していくため、できれば読者様にもう一度読んでほしいと考えました。しかし同じ話を、それも無駄のある話では飽きると思い、ストーリーの再編と無駄の削除を行った次第であります。
結果的には伏線だけを残した物語となっております。ですがその反面、今の物語と多少の矛盾が生じてしまうため、今回は新たに投稿を始めました。それが下記の物語です。
http://ncode.syosetu.com/n2769dw/
こちらを呼んでいただければ、物語も数倍面白くなるはずです。
それでは今後とも落ちこぼれをよろしくお願いします。




