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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
1章 出会いと新たな人生
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第25話 リリィ

 セイヤは体にのしかかる重さで目を覚ました。


 「ユアか?」


 そういいながら目を開けたセイヤの前には、きれいな青い髪をした幼い女の子がいた。


 ユアも年の割には十分幼いように見えるが、現在セイヤの目の前にいる幼女はもっと幼い。


 年にして大体十歳ぐらいだろうか、そんなかわいい女の子が、一糸まとわぬ姿でセイヤに馬乗りしていたのだ。


 「あっ、セイヤ!」

 「おっ、おう……」


 一糸まとわぬ青髪の美幼女はセイヤの名前を呼ぶと嬉しそうな顔をしながらセイヤに抱き着く。


 セイヤは反射的に返事をしてしまったが、自分に抱き着く美幼女がいったい誰なのか、まったくわからない。


 セイヤが自分に抱き着く全裸の美幼女に名前を聞くと、美幼女はすねたような顔をしながらも答える。


 「えっと……お前誰?」

 「忘れちゃったの? リリィだよ!」

 「だから誰だよ?」


 リリィなどという名前を知らないセイヤ。


 そもそもこんなかわいい美幼女に会っていたら、セイヤだって覚えている。ユアとはまた違った可愛さをもつ絶世の美幼女なのだから。


 「む~、リリィはウンディーネのリリィだよ? さっきまでセイヤと戦っていた! もう忘れちゃったの?」

 「なっ……」


 リリィの答えに絶句するセイヤ。


 たしかによくよく見れば少女にはあのウンディーネの面影があり、どこか似ている。だがなぜ、あのウンディーネがセイヤに好意的になっているのかわからない。


 そもそもウンディーネはセイヤが消滅させたはずだ。


 「わかった……確かにお前はウンディーネだ。で、なんで生きている? そして何の用だ? さっきまで殺しあっていたというのに?」

 「む~お前でもウンディーネでもないよ! リリィだよ! リリィ!」


 どうやらリリィは自分の名前をしっかり呼んでほしいらしい。セイヤはこのままだと話が進まないと思い、リリィと名前で呼ぶ。


 「あーわかった。で、リリィ、どういうことだ? お前の目的は何だ?」

 「んーとね、リリィはね、セイヤと契約したいの! さっきのセイヤはカッコよかったし、負けたら契約するって約束でしょ!」

 「契約? というか理由がいろいろめちゃくちゃだぞ……」


 セイヤは困ったような表情をしながらうつむく。


 なかなか面倒なことになりそうだと思って悲しくなるセイヤ。そんな時、セイヤは驚愕することになる。


 「それについては私が説明してあげるわ」

 「!?」


 突如リリィの声が変わり、セイヤはすぐに顔を上げる。


 するとそこにいたのはリリィではなく先ほどまでセイヤたちと死闘を繰り広げ、セイヤが消滅させたはずのウンディーネの姿があった。


 「なぜお前がいる?」

 「お前じゃないでしょセイヤ君。リリィ!」

 「お前がさっきの少女と一緒だというのか?」

 「んーまあね、とりあえず説明が大変だから契約のことをいい?」

 「あぁ、だがその前に何か着てくれ」


 セイヤはウンディーネから視線を外しながら言う。


 彼女はリリィと同じく、先ほどからなにも着ていない全裸だった。


 リリィはまだ幼女だったからいいものの、今セイヤの目の前にいるウンディーネはもう大人で、出るところはしっかり出ていて、セイヤは目のやり場に困っていた。


 「あら、この姿はお嫌い?」

 「頼むから何か着てくれ。じゃないと話を聞かないぞ」

 「はいはい」


 ウンディーネはどこかふざけた口調でそういうと、指を鳴らす。するとウンディーネの周りに水が集まり、あっという間に服ができてしまった。


 ウンディーネはこれでいいでしょ? とセイヤに言い、先ほどから話に出ている契約について説明を始める。


 「ほら、戦う前に約束したじゃない。負けたら契約するって」

 「別に契約はしなくていい。俺たちはただダリス大峡谷から出ただけだ」


 それは戦う前にリリィがいったことだ。負けたら契約すると。


 しかしセイヤは別にリリィと契約したいわけではない。セイヤはただ、このダリス大峡谷から出ることが出来ればいいと思っており、契約する気など毛頭なかった。


 しかしことはセイヤが思っている以上に重大だった。


 「それじゃダメなのよ」

 「どういうことだ?」

 「セイヤ君と契約しないと、私、いえ、私たちは消滅してしまうの。だから私たちが生き残るためにセイヤ君と契約がしたいの。


  さっきまで殺し合っていた仲で虫がいいことを言っているのは分かっているわ。

 

  でも、お願い。私たちを助けて、セイヤ君」

 「いや、そう言われても全く分からない。わかりやすく教えてくれ」


 頭を下げるリリィにセイヤは聞いた。セイヤはそもそも妖精や精霊に関することは本でしか読んだことはなく、契約については何も知らない。


 「まずはそこからね。私たち妖精や精霊の類には、この世界で生きていくために魔力の供給源が必要なの。


  魔力の供給源はそれぞれなのだけど、共通していることは、それがないとみんな消滅してしまうということ。

 

  たとえば、私の場合はあの湖の水が魔力の供給源だったわ」

 「なるほど、それで契約となんの関係があるんだ?」


 契約との関係がよく掴めないセイヤ。


 「それは魔法師が私たちの魔力の供給源になることができるということよ。魔法師が妖精や精霊の類の魔力の供給源になるかわりに、私たちが力を貸すことを契約というの。


  契約にはそもそも二種類あって、完全な魔力供給源になる完全契約と、魔力を収めるかわりに私たちの力の一部を貸す部分契約があるわ。


  それで今回私がセイヤ君にお願いしたいのは完全契約のほうよ」


 リリィの目が真剣なことがセイヤにもわかるが、契約についてしっかり理解してない今の状態では契約することはできない。


 「それでデメリットは?」

 「デメリットは魔力の交換が定期的に必要なことかな。セイヤ君から魔力を貰って、私の魔力をセイヤ君にあげるの。その際、私たちは膨大な魔力をもらって、膨大な魔力を渡すから普通の魔法師には完全契約は不可能よ。


  でもセイヤ君には『上昇』の光属性と『消滅』の闇属性の両方があるから、セイヤ君はこの世界で唯一の妖精や精霊たちと契約できる魔法師ということになる。


  他のデメリットと言ったらは常に私と一緒にいるってことかな?」


 どこか色っぽく言うリリィ。そのリリィに対するセイヤは非情だった。


 「話は分かった。だがお前と四六時中一緒はごめんだ」

 「セイヤ君ひっどーーーい。あとリリィ!」


 どうやら大人バージョンのリリィも、自分の名前を呼ばせたいようだ。


 「セイヤ君の言うことなら、お姉さん何でも聞いて上げるわよ?」


 急にセイヤに抱き着きその豊満な胸を押し付けるリリィは、妖艶な雰囲気を纏っていてとても色っぽい。


 セイヤも男の子のため体の一部が勝手に反応してしまう。そのことに気づいたリリィがセイヤの耳元で囁く。


 「契約してくれたら何でもしてあげるわよ? エッチな、こ・と・も」

 「うっ……ところでなんでお前はそんなに契約したがるんだ? ここにいても魔力の供給は受けられるだろ?」


 これ以上反応しないために話をそらすセイヤ。


 「たしかにここに残れば時間こそかかるけど、元通りになるわ。でも私たちはもう飽きたのよ。ここも、この大峡谷も。私たちは外の世界を見てみたいの。


  でも妖精である私たちにそんなことはできなかった。長い間同じところにいるというのも退屈なものよ? だからお願い、私たちを外の世界に連れ出して」


 セイヤはリリィの話を聞き、どこか自分と重ねていた。


 かつてのセイヤは力もなく家柄もない、ただの最底辺の魔法師で、いくら変わりたいと願ったところでそんな力はセイヤになく、変わることはできずにただ環境にいるしかなかった。


 それはリリィも同じだ。彼女たちは外に出たいと願ってもこの湖から離れることはできず、ずっとここにいるしかない。


 考えるセイヤにリリィが気になることを言う。


 「それに私と契約して一番得するのはセイヤ君よ」

 「どういうことだ?」

 「あの黒い力、まだ完全には制御できてないでしょ?」

 「なぜそれを……」


 リリィの言う黒い力とは先ほどセイヤが豹変した時の力だ。


 最初はユアを助けたいという一心だったセイヤだが、その心は次第に破壊への快楽へと変わっていき、海神ネプチューンを倒したあたりから意識こそあったものの、肉体の支配権はなかった。


 それはまるで自分の体を誰かが動かしているのを、ただ見ているようであった。


 「あの力は危険だわ。説明すると今のセイヤ君の心の中には二つの人格があるの。そして今はセイヤ君が肉体の支配権を握っているけど、あの姿になったらその立場が逆転するわ。


  それは私たちと似ていることで、どうにもできないことよ。でも私と契約すればセイヤ君の心の中に私の人格が増えて二対一になり、あの状態でももう一つの人格を抑えつけることができる」


 リリィの言葉は道理を得ている気がしたが、信用をすることはできない。


 「だがリリィが味方するとは限らないだろ?」

 「ええ、確かに私がもう一つの人格に協力したら今のセイヤ君でも肉体の支配権を失う。でも私は絶対に裏切らない、一度亡くなったようなこの命はもうセイヤ君のためにしか使わないわ。本当よ、信じて」


 リリィの目から感じられる意思は本物だ。おそらくセイヤのことを裏切ることは絶対にないだろう。そして、もしそうならば、この契約はセイヤにとってメリットが大きい。


 力がなければユアのことは守れない、だが強すぎる力は己を壊しかけない危険なものだった。


 もしあの力を自由に使えるようになるのなら、セイヤにとってもありがたい話だ。


 「わかった、リリィと契約しよう」

 「本当? ありがとうセイヤ君、二人にはひどいことしちゃったけどごめんね」

 「あれは自分を守るために仕方なく、だろ?」

 「それでもよ」

 「そうか、それでどうやって契約するんだ?」

 「それはあの子に聞いて。どうやら時間切れみたい」

 「なに?」


 次の瞬間、セイヤの目の前にいたはずの妖艶な雰囲気を纏ったリリィは姿を消して、再び美幼女のリリィが姿を現す。


 どうやら二人は本当に一つの肉体を共有しているらしい。


 「セイヤ!」

 「おう、それで契約はどうやるんだ?」


 元気いっぱいな美幼女リリィに抱き着かれたセイヤは困った顔でリリィに聞く。セイヤは一刻も早く契約をしたかった。


 安全だとわかってはいるものの、もしかしたら肉体を奪われるかもしれないという不安が、どうしてもセイヤを焦らせてしまう。


 「うんとね~、目を瞑って魔力を体の外に流して! あとはリリィがやるから!」

 「わかった」


 セイヤはリリィに言われた通り、目を瞑り魔力を体外にゆっくりと放出していく。黄色と紫の魔力に包まれていくセイヤは心の中で思う。


 (これでユアを守る力が手に入る)


 自分が体外に放出した魔力が自分の意思とは関係なく動き始めるのをセイヤは感じた。おそらくリリィがセイヤの魔力を操作しているのであろう。


 (もうこれでユアを失わずに……んっ)


 セイヤは不意に唇に感じた柔らかい感触に違和感を覚える。どこか甘い味がするその感覚は、とても心地のいいように思えた。


 しかしそんな時だった。


 「セイヤ……」


 セイヤが慌てて目を開くと、視界に悲しそうなユアの姿が映った。


 幼女大好き……

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