第226話 夜属性を求めて
大魔王キース=ルシファー。その名はダクリアで知らぬ者はいない先代大魔王そして二十年前に姿を消した男だ。
「俺の父親が魔王……」
「セイヤのパパってそんな有名人だったの!?」
ギラネルに知らされた事実に驚きを隠せないセイヤとダルタ。だが自分の父親が一国の王だったと言われれば驚くのも当然だろう。
「そうです。あなたの御父上、キース様は私の上司であり、私が尊敬する御方。しかし二十年前にこの国から忽然と姿を消したのです」
「そして生まれたのが帝王というわけだ」
衝撃の事実ながらも、セイヤは心の底でその事実を受け入れていた。心のどこかで、自分の父親の正体に気づいていたのかもしれない。
「やっぱりそうなのか……」
無意識に出た言葉。その言葉を聞き、アーサーとギラネルは話を続ける。
「キース様が消息を絶って以降、この国を安定させるために私が大魔王代理として王座につきました。しかし私がいくら善政をしようとも、所詮は偽りの王。私は待っていたのです。キース様の息子、そう、セイヤ様を」
ギラネルは今でも信じている。ダクリア大帝国の真の王はセイヤだと。
「来たる魔王会議で私は大魔王の座から退きます。そしてセイヤ様を次期大魔王に推薦したい所存です」
ギラネルの考えはセイヤの大魔王襲名。だがそこにはまだ問題が存在した。
「それはいいが、帝王はまだ夜の力を手に入れていない」
「なに? それは本当ですか、セイヤ様」
「ああ」
ギラネルに問われ、正直に答えるセイヤ。
大魔王には夜属性の魔法が必要だ。逆に言えば、夜属性あってこその大魔王となる。
「そこでだ、ギラネル。帝王に夜属性を教えてくれ」
「ふむ……」
アーサーの要求に考え込むギラネル。なぜなら夜の力を手に入れるにはそれ相応のリスクがあったから。
「セイヤ様、最初に言っておきます。私は夜属性を使えません。なので、私には夜属性を教えることはできない。ただ、夜属性を会得する手段なら知っております」
ギラネルの説明にセイヤの表情が引き締まる。
「しかし夜属性はその絶大な力の反面、会得にはかなりのリスクが伴います。先代のキース様でさえ三日三晩のぶっ通しの修業を経て会得しました。はっきり言って、かなり危険な賭けです」
ギラネルの言う通り、夜属性にはリスクが伴う。まさにハイリスクハイリターンの賭け。
今のままでもセイヤは十分強い。レイリアに変えれば特級魔法師としての地位もあるうえ、異端の力と呼ばれる闇属性も使える魔法師だ。
けれどもそれでは足りない。セイヤが真に守りたいものを守るには力不足だ。セイヤが守りたいものを守るには特級魔法師レベルの力では足りない。それこそ大魔王クラスの力が必要になる。
確かに高リスクかもしれない。それでも、セイヤには守り通したいものがある。抱かれセイヤは決めた。自分が何をしたいのか。
「たとえ、たとえ高リスクでも……夜の力が欲しい」
「ふん」
セイヤの答えに、アーサーが嬉しそうに笑う。
「そうですか」
ギラネルもセイヤの覚悟を感じ取る。
「なら、お教えしましょう。夜の力を手に入れる手段を」
ギラネルはそういうと席を立ち、あるものを持ってくる。そしてそれをテーブルの上に広げた。
「地図?」
ダルタの言う通り、それは地図だ。しかしかなり広範囲のものでダクリア大帝国が小さく見える。
「これはこの大陸の地図です」
「大陸の?」
「はい。ここがレイリアで、ここがダクリア帝国です」
ギラネルが指さしたのは地図の左半分。つまり二つの地点と同じくらいの距離、大陸は伸びていることになる。
「この地図は世界に三枚しかありません。なので秘蔵というわけです」
地図についての説明を終えたギラネルはさっそく本題に入る。
「それで夜属性ですが、ダクリアから西にしばらく行ったところに大きな山があります」
そう言ってギラネルが指さしたのはダクリアからかなり離れた場所にある大きな山。地図で見ても巨大なところから実物はかなり大きいのだろう。
「この山には夜属性を司る精霊がいて、その精霊を倒して初めて夜属性を手に入れられるのです」
「精霊……」
思いもよらぬところで精霊という単語を聞き驚くセイヤ。まさか再び精霊と剣を交えることになるとは誰が予想しただろうか。
「ここの精霊は夢に入り込む精霊で、実際に戦うのは夢の中となります。キース様も三日間眠りっぱなしでこの精霊と戦い、やっとの末で夜属性を手に入れました」
夢の中での戦い。それがどんなものかわからないが、夜属性の手がかりを見つけて安心するセイヤ。
「ここに行けば夜の力が」
「はい。ですが……」
「かなりきついぞ」
アーサーの言葉にギラネルの表情も厳しくなる。
「帝王は一度精霊と戦っているみたいだが、その時とは格が違う。こっちの精霊は言葉が通じないものも多いからな。たとえ通じたとしても会話してくれるとは限らない」
「その通りです。私どもはキース様について行ったものの、実際には精霊と会っていません。精霊にあったのはキース様一人だけ。どう戦うのかなどは未知数です」
各国の実力者たちが言うのだ。相当きついのだろう。しかしだからと言って、セイヤが夜属性の力を諦めるはずがなかった。
「それでも俺は夜属性が欲しい」
セイヤの覚悟に満ちた瞳。その瞳を見てしまったらもう止めることはできない。二人はそう思った。
「はぁ、仕方ないな。ギラネル」
「そうだな。わかりました、セイヤ様」
ギラネルはそう言って席を立つ。
「今から準備してきます。しばらくお待ちください」
ギラネルが部屋から出て行き、残された三人。そこでアーサーが正面に座るダルタに問う。
「お前は行くか?」
「え?」
いきなり話を振られたダルタは何のことか理解していなかったが、すぐに察する。
「あ、当たり前です。セイヤの世話は私がするんですから」
「危険だぞ?」
「覚悟の上です」
ダルタの目を見て、アーサーが笑う。
「ふん、そうか」
こうして夜属性を求める旅は四人で行くことになるのだった。




