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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第225話 大魔王の館(下)

 アーサーが大魔王のいる部屋へと入ると、そこには玉座に座るギラネルと、彼の取り巻き数人がいた。


 「何者だ!?」

 「近衛兵はどうした!?」

 「どこから来た!?」


 突然部屋に姿を現したアーサーに対して警戒をする取り巻き立ち。だが次の瞬間には彼らの意識はアーサーの闘気によって飛ばされ、その場に倒れこむ。


 部屋に残ったのは玉座に座るギラネルと扉の前に立つアーサーの二人だけ。最初に口を開いたのはギラネルだった。


 「アーサー、何回言ったらわかる。来るたびに館中の意識を飛ばされたら困るんだ」

 「仕方がないだろ。むこうから襲ってくるんだから」

 「はぁ、当たり前だろ。お前は聖騎士でこっちは大魔王代理なんだから」


 会話をする二人。そこには敵対心といったものの類は存在しない。むしろ旧知の仲といったものだ。


 「せめてシルフォーノみたいにダクリア名を持ってくれれば……」

 「断る。面倒だ」

 「はぁ……」


 あってから数分で二度目のため息をつくギラネル。だが彼こそがこの国の王であり、大魔王の異名を持つ男だ。


 「それで、今日は何の用だ? まさかこの間みたいに酒を飲みに来たって言ったらさすがに怒るぞ」

 「はっはっは、そのまさかだ」


 アーサーが答えた刹那、ギラネルから物凄い量の闘気が放たれる。それに対抗し、アーサーも闘気で迎え撃つ。


 ぶつかり合う二人の闘気。二人の闘気のぶつかり合いが空気を軋ませる。


 それは扉の外にいたセイヤとダルタに感じられ、二人は闘気のぶつかり合いに息をのむ。


 「すごい……」

 「これが闘気……」


 まさに強者と強者のぶつかり合い。確かにこの力があれば魔法師としての景色が変わる。セイヤはそう思いながら二人の攻防を見ていた。


 「アーサー、少しお仕置きが必要みたいだな」

 「ふん、やれるもんならやってみろ。こっちにはこれがある」


 そう言って聖剣を見せるアーサー。


 「なるほど。聖剣の封印を解いたか」

 「ああ、来たる戦いのために鳴らしておかないといけないんでな」

 「なるほどな。ではそれに扉の外の二人は関係あるのか?」


 ギラネルが扉の外にいるセイヤとダルタに視線を向ける。


 その瞬間、セイヤとダルタにギラネルの闘気が襲い掛かる。


 「うっ……」

 「なにこれ……体が……」


 ギラネルの闘気に苦悶の表情になる二人。大魔王の本気が二人に襲い掛かる。


 「はぁはぁ……」

 「ちっ……」


 ギラネルの闘気に呼吸を乱すダルタ。セイヤはまだ大丈夫であったが、このままではダルタのみが危ない。


 セイヤはそう思い、扉の向こうに立つギラネルに向かって威圧する。


 「ほう、なかなかやるみたいだな」


 自分に向けられた威圧に感心するギラネル。だがその威圧はまだ闘気とはいいがたく、幼かった。


 「だが、甘い」


 そう言ってギラネルが闘気を強めようとする。しかしその時だった。


 「もうやめておけ」

 「アーサー?」


 闘気を強めようとしたギラネルのことをアーサーが止める。そしてアーサーが扉の外にいるセイヤたちに声をかけた。


 「そろそろ出てこい。じゃないと狩られるぞ」


 アーサーの言葉を合図に二人は部屋の中へと姿を現す。ダルタの呼吸は乱れていたが、歩けないというわけではない。それにすでにギラネルの闘気は止んでいる。


 「紹介するぜ。帝王とそのお付きのダルタだ」

 「なっ……」


 二人の登場に驚愕するギラネル。その顔は大魔王にはあるまじき顔だ。だが本人はまったく気にしてない。いや、気にする余裕がなかった。


 ギラネルの視線はセイヤにくぎ付けになっている。


 「ま、まさかあなたは……セ、セイヤ様!?」


 セイヤの顔を見て驚きの色を隠せないギラネル。


 「そうだ。こいつが帝王、キリスナ=セイヤだ」

 「なっ……」


 ギラネルはふらふらとした足取りでセイヤに近づく。そして次の刹那、片足をつき、頭を地面にこすりつける。


 「数々の無礼、申し訳ありませんでした。私、代理でルシファーをやらせてもらっていますギラネル=サタンと申します。ご帰還をお待ちしておりました。セイヤ様」


 突然のことに驚くギラネル。だがそれ以上に驚いているのはセイヤだろう。


 セイヤはアーサーに助けを求めるような視線を送るが、アーサーはニヤリと笑みを浮かべるだけで何も言わない。


 「よくぞ、よくぞご無事で……」


 戸惑うセイヤに関係なく忠誠心を見せるギラネル。そしてさらに戸惑うセイヤ。


 そんな二人に見かねたアーサーがやっと口を開く。


 「ギラネル。帝王が困っているぞ」

 「おいアーサー、なんだその口の利き方は? こちらにいらっしゃるのはセイヤ様だぞ」

 「だからお前ひとりで突っ走るな。帝王は事情を知らないんだから」

 「なに!?」


 アーサーに言われて初めてセイヤの顔を見るギラネル。そしてセイヤの戸惑う顔を見て、やっと事情を理解した。


 「これは失礼いたしました。まずはお茶でも、誰か、お茶を……」


 ギラネルはそう言って部下にお茶を運ばせようとするが、いかんせんギラネルの部下たちは皆アーサーによって眠らされている。


 「そうだった。それではセイヤ様、まずはこちらへどうぞ」


 ギラネルはセイヤたちを連れると、談話室の方へと案内する。


 談話室は落ち着いた雰囲気の部屋であり、セイヤとアーサーが席に着くと、ギラネルが紅茶を入れようとした。


 しかしそこで負けていられないのが使用人のダルタ。


 ダルタは立ち上がると、ギラネルに変わるように要求した。


 「あ、あの……お茶なら私が……」


 どうやら先ほどの闘気が聞いているようで、ギラネルに対してどこか逃げ腰なダルタ。だが彼女のメイド魂がお茶を入れたいと叫んでいた。


 「いえいえ、ここは私にお任せください。なにせここは我が家なのですから」

 「いえ、私がやります。私はセイヤの使用人です」

 「いえいえ、お気になさらず。使用人といえどもあなたは客人。もてなす義務が」

 「で、でもそれじゃあ使用人のアイデンティティが……」


 両者譲らぬお茶入れ戦争。一方は聖教会の使用人、もう一方はダクリア大帝国を治める大魔王。こんな光景を見たら誰もが腰を抜かすだろう。


 大魔王がお茶を入れたがるのもそうだが、そんな大魔王に対抗する使用人のダルタ。まさにこれは忠誠心とメイド魂のぶつかりあい。


 しかしそんなことに時間を費やしている暇のないアーサーが呆れながらに言う。


 「おい帝王、紅茶でいいな?」

 「あ、ああ。すまない」


 茶葉を取り合う二人をおいてアーサーがセイヤに紅茶を入れて差し出す。大魔王が紅茶を入れたがるのもさながら、聖騎士が誰かに紅茶を入れるのも珍しい光景。


 「はぁ、お前らも早く席につけ」

 「なに!? アーサー貴様……」

 「ああああああああ、私の仕事が!」


 セイヤの前に置かれた紅茶を見て驚愕する二人。そんな二人にアーサーは座るように命じる。


 そして数分後、それぞれの前に紅茶を追いて座った四人。ちなみに順番はセイヤの隣にダルタ、正面にギラネル、ギラネルの隣にアーサーだ。


 「さて、さっきの続きだが。ギラネル、わかりやすく説明してやれ」

 「ああ」


 ギラネルはうなずくと、セイヤの方を見る。そしてゆっくりと口を開き、真実を伝える。


 「いきなりこう言われるのも驚くでしょうが、冷静に聞いてください」


 ゴクリ、セイヤが息をのむ。


 「セイヤ様、あなたの御父上、キース様はこの国の先代大魔王であるキース=ルシファー様です」


 それは初めてセイヤが自分の親について知った瞬間であった。


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