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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第221話 レイリアの動乱(下)

 空気が一瞬で変わった。それは例えではなく、本当に聖教会の四階を包み込む空気が変わったと二人は感じていた。


 まるで空気そのものが緊張しているようであり、普段よりも重く感じる重力、心なしか下がったのではないかと思える気温、それらすべてがシルフォーノによって引き起こされたと二人はすぐに理解できた。


 「くっ……」


 だが言葉を発しようと思っても、口が動かない。呼吸をする度に肺が震え、次第に体中の動きを鈍らせていく。それはまるで体中を硬化されているように思えた。


 そんな状況の中、レアルは魔力を操ってどうにか打開しようと試みたが、上手く魔力を操れない。いや、そもそも魔力を感じることができなかった。これまで余るほどの魔力を操ってきたレアルにとって、今日ほど魔力を感じたいと思ったことはないだろう。


 魔力を感じられないのはバジルも同じであり、どうにかして打開策を探したが、彼にこの状況を打開する策など持っていなかった。


 時が経てば経つほど、二人の呼吸が荒くなっていく。


 次第に荒くなっていく呼吸の中、彼らは改めて聖教会十三使徒の序列二位の力を思い知る。


 レアルとバジルは実力においてはシルフォーノに劣るものの、それでも二人はシルフォーノと同様にこの国を代表するような魔法師たちである。けれどもそんな魔法師たちでも序列二位を相手にすれば為す術もなく無力さを思い知らされている。


 まさに化け物、二人はシルフォーノのことを見てそう思った。そして同時に、この化け物よりも更に強い魔法師、レイリア最強の魔法師を相手にしているのであろうセイヤのことを考えて、絶望するしかなかった。


 十三使徒序列二位のシルフォーノでさえ、これほどの実力を持っているというのに、さらに彼女の上を行く十三使徒序列一位、アーサー=ワンは一体どれほどの実力を持っているのか、二人には想像することもできなかった。


 そしてそれは、アーサーを相手にセイヤが生き残っている光景を想像できなかったということでもある。


 二人はまだアーサーに会ったことはない。しかし噂を聞く限り、七賢人たちが言うことには絶対従い、相手が何者であろうとも同情や情けをかけることはせず、任務を遂行する。そして与えられた任務は絶対遂行。失敗することは絶対にない。まさに失敗しない女なのである。


 そんなアーサーが、七賢人たちに言われた、それもレイリアの未来に多大な影響を与えるであろう闇属性を有するセイヤのことを見逃すなど、あり得なかった。


 そしてそのことを知っている七賢人たちは、このタイミングを狙ってセイヤの特級魔法師任命を知らせ、中間報告という名目でシルフォーノを聖教会に呼び寄せた。


 つまり七賢人たちは、聖教会は本気でセイヤのことを消し去ろうとしていることだ。


 「「くっ……」」


 動かない体で、シルフォーノのことを睨む二人。だがそんなことをしたところで、動かない体が動けるようになるわけもなかった。


 もはやレアルとバジルにこの状況を打開する手立ては存在しない。二人の実力ではシルフォーノに太刀打ちできるどころか、彼女の呼吸を乱すこともできなかった。


 そして二人が諦めかけたその時、不意に男の声がした。そしてほぼ同時に、二人を拘束していた空気が解かれたのだ。


 「『水銛の嵐』」


 突如響いた男性の声。そしてその声と共にシルフォーノに向かって飛んで行く水の銛。シルフォーノはその銛を視認すると、すぐに防具魔法を展開した。


 「広がれ。『風の壁』」


 詠唱と共に展開された風の壁がシルフォーノのことを守る。だがシルフォーノが刹那の時間だが魔法行使に集中力を割いたため、レアルとバジルを拘束していた空気が解かれる。


 「今のは」


 バジルが水の銛のとんできた方を見ると、そこには二人の魔法師の姿があった。


 「結構ピンチみたいだな、バジル」

 「助けに来たわよ」

 「お前たち……」


 そこにいたのはバジルと同世代の魔法師であり、バジルと同じ聖教会十三使徒の称号を持つ二人。十三使徒序列十二位のワイズ=トゥエルブと、序列十三位のナナ=サーティンだった。


 二人はバジルたちを守るように二人の前に立つと、手短に用件を伝える。


 「どうせあの少年を助けに行くんだろ」

 「ここは私たちが引き止めるから早く行って」

 「どういうことだ」


 突然の出来事に困惑するバジル。ワイズとナナはバジルと同じ聖教会に所属するだが、今のバジルたちの立場は聖教会に反乱する立場である。にもかかわらず、二人がバジルたちに協力すると言っている。つまりそれは彼らも聖教会に反乱するのと同義であった。


 もちろんワイズたちもそのことはわかっている。そしてそのことを承知の上で、行動に移ったのだ。


 「俺らには詳しい事情はわからない。でもあの少年はレイリアを救った英雄だ。聖教会の事情だけで消すことなどあってはならない」

 「そうよ。私たちは私たちの正義のためにやっているの。だから早く行って」

 「お前ら……」


 ワイズとナナはそう言い残すと、武器をもってシルフォーノに襲い掛かる。だがシルフォーノも右手に握る倶利伽羅剣で二人の攻撃を防ぐ。


 「早く行け! そんなに時間は稼げない」

 「お願い。あの少年を助けて」


 シルフォーノのことを必死に押さえつける二人。そんな二人を見て、バジルは迷う。このまま進むべきか否か。だがレアルがバジルに言う。


 「行くぞ。あの二人の覚悟を無駄にする気か」


 先ほどまでシルフォーノを前に無力さを晒していたとは思えないほど強気な表情でバジルに言葉をかけたレアル。その顔を見て、バジルも覚悟を決めた。


 「わかった。二人ともすまない」

 「先に行く」

 「任せたぞ」

 「絶対に聞きて連れ戻してね」

 「「ああ」」


 レアルとバジルはシルフォーノの横を駆け抜けると、すぐに四階から姿を消した。そして二人の姿が見えなくなったことを確認すると、ワイズはシルフォーノのことを睨みながら問う。


 「どういうつもりですか?」

 「どういうとは?」

 「なぜあの二人を行かせたかです」


 ワイズが言いたいのは、なぜシルフォーノが二人のことを見逃したかのかということである。


 ワイズの実力がシルフォーノに遠く及ばないことは先ほどの攻防でわかっている。ワイズが先ほど行使した魔法はワイズの編み出した上級魔法であるが、シルフォーノはその魔法を初級魔法で防いだ。このことから二人の実力差は歴然である。


 そして二人の実力差を考えるなら、いくらナナがいたとしても自分の横を通ったレアルたちに何もできないはずはない。それにワイズの魔法を防いだ時点で先ほどのように空気を操ればバジルよりも序列の低い二人も抑えつけることは容易だ。


 しかしシルフォーノはそうしなかった。


 それはつまり、シルフォーノは最初からレアルたちのことを見逃す気でいたということだ。だが十三使徒の序列二位であるシルフォーノがなぜそんなことをするのか、ワイズにはわからなかった。


 「さあ、たまたま魔法が出なかったからかしら。それに十三使徒を同時に四人も相手にするのは私にもきつい」

 「だから二人を見逃したと?」

 「そういうことにしておいて」

 「「!?」」


 シルフォーノがそう言ってわずかに笑みを浮かべた瞬間、再び空気が変わる。そして二人に何かが纏わり付き、抑えつける。


 「悪いけど、これ以上は無駄よ」


 シルフォーノがそう言って二人の拘束を解く。この時点でバジルたちを逃がせたワイズたちに、もうシルフォーノに対立する目的はない。だから二人は武器を収めた。


 「もうやる気はないのね?」

 「はい」

 「そう、でも罰は受けてもらうわよ」

 「はい……」


 上司に逆らって剣を突き立てたのだ。当然と言えば当然だろう。


 どんな罰が来るのか息をのむ二人。


 「ならお使いを頼もうかしら。片方はアクエリスタンのモルの街、もう片方はウィンディスタンのオルナの街に向かってちょうだい」


 しかし意外にも、シルフォーノが口にした罰は意外にも軽いものであった。


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