表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
231/428

第215話 聖騎士の提案

 レイリア最強の魔法師、聖騎士アーサー=ワンとの合流を果たしたセイヤたちは、聖騎士先導のもと、ダクリア帝国の裏道にある小さな酒屋に来ていた。


 そこは見るからに怪しい雰囲気を放っている店だったが、聖騎士が躊躇なく入ったため、二人も続いて店の中へと入った。


 「ここはほとんど人が来ないから安心していい」


 店に入るなり聖騎士が失礼なことを言うが、カウンターにいた店主は気にした様子を見せない。三人はそのまま店の奥にある席に座ると、それぞれ飲み物を頼んだ。


 そして頼んだ飲み物が来るのを待ち、聖騎士が本題に入る。


 「さて帝王……」

 「待ってくれ。さっきからその帝王ってのは何なんだ?」


 何かを話そうとした聖騎士に対し、セイヤが待ったをかける。そして先ほどからセイヤの呼称に使われている帝王という単語の意味を聞いた。


 すると聖騎士は少しだけ驚いたような表情を見せ、セイヤの質問に答えた。


 「帝王か、それに関しては気にするな。あたしが勝手に呼んでいるだけだ」

 「そうか」


 どこかすっきりとしない答えだったが、聖騎士がこれ以上は言わないといった雰囲気を放っていたため、セイヤはこれ以上の追及を止める。


 セイヤが引き下がるのを確認し、再び聖騎士が話し始めた。


 「まずはこの聖剣を届けてくれたことを感謝する」


 壁に立てかけた剣を優しくなでながら。感謝の念を伝える聖騎士。しかしセイヤはなぜ感謝されるのかがわからなかった。


 「別に感謝されるほどのことでも」

 「いや、帝王がいたからこそ七賢人たちはこの剣をあたしに返そうとしたんだ。だから帝王、あんたのおかげだ」


 セイヤの目をしっかりと見据えて礼を言う聖騎士だが、セイヤにはひとつ言いにくいことがあった。それはおそらく聖剣が長年聖騎士の手を離れていた故に起きてしまった悲劇。


 「だがその剣はもう……」


 錆びてしまい使うことができない。そう言おうと思ったセイヤだったが、その前に聖騎士が笑みを浮かべる。


 「まだ甘いな帝王」

 「……?」


 聖騎士の言葉に首をかしげるセイヤ。


 「今の姿はまだ仮の姿。一度戦いになれば、この聖剣は真の姿を取り戻す」

 「そうなのか?」

 「ああ」


 どこか確信めいた風にいう聖騎士に、セイヤは何となく頷く。


 すると唐突に聖騎士が話題を変えた。


 「ところで帝王、あんたはこの後どうする?」


 聖騎士にこの後のことを聞かれたセイヤだったが、既に答えは決まっている。セイヤたちは聖騎士に聖剣を渡すためにこのダクリア帝国にやってきた。そして聖剣を聖騎士に渡した今、もうセイヤたちがこのダクリア帝国に残る意味はない。


 「このままレイリアに帰るつもりだが……」

 「はあ、甘いな」


 セイヤに答えを聞いてため息をつく聖騎士。


 「帝王、自分が聖教会から狙われていることを忘れていないか?」

 「それは……」


 聖騎士の言葉にセイヤは言葉が詰まる。聖騎士の言っていることは事実であり、この先いつか通らなければならない問題である。しかしだからといって、レイリアに帰らないという選択肢はない。


 なぜならレイリアには婚約者であるユアと、契約をしたリリィ、それにセレナやモーナたちといった仲間がセイヤの帰りを待っているから。


 だが現実はそんなに甘くはない。聖騎士はそのことをよくわかっているため、セイヤに対しきついことを言う。


 「はっきり言って、このまま帰ることには賛成できないな。聖教会はお前のことと異端認定して、抹殺しようとしたほどだ。それにおまえが特級魔法師になったのも単独で暗黒領に出して、あたしに仕留めさせるため。だがその作戦が失敗した今、あいつらは何をしてくるかわからない」


 聖騎士の言葉をセイヤは黙って聞く。彼女の言っていることは紛れもない真実であり、的を射ている。


 「おそらくこのまま帰ったところで、序列三位以下の十三使徒、そして一部の特級魔法師がお前のことを殺しにかかるだろう。だが今のお前では単体の相手なら戦えるかもしれないが、それが五人以上になった勝ち目はない。そんな状態で戻ったところで。いったい誰が得をする?」


 つらい現実にセイヤは言葉が出ない。そのことはわかっているが、どうしようもないことなのだ。


 「つまり俺にダクリアに残れと言いたいのか?」

 「表面的にはそうなるな」

 「なっ……」


 思いもよらぬ聖騎士の答えに、セイヤは何度目かの言葉を失う。確かに聖騎士の言う通り、今のレイリアはセイヤにとって危なく、ダクリアにいた方が安全だ。しかしユアたちが待っている以上、そんな選択をセイヤは取れなかった。


 「無理だ。俺には帰りを待っている人が……」

 「別にずっといろというわけじゃない。それに今戻ったところで。その待っている人にも危害が加わるだけじゃないのか?」 

 「じゃあどうしろというんだ!」


 どうしようもない現実に、セイヤはつい言葉を荒げてしまう。


 聖騎士の言っていることは正しい。そして聖騎士の言う通りにしていればユアたちにも危害は加わらないだろう。けれども、セイヤにとってユアは変わりの効かない大切な存在であり、ずっと一緒にいたいと思っている。


 だから今回の無理難題を振りかけられた任務も素直にうなずき、見事に遂行した。それはユアと、リリィと、セレナたちとの平和な学園生活を過ごすために。


 だがこのまま戻ったところで、アルーニャ家を舞台にした戦いが起こることは、セイヤにもわかっている。


 戻りたいが戻ったらユアたちに危険が及ぶ。そんなジレンマがセイヤのことを襲う。


 「これもまた若さか」


 自分の中で葛藤するセイヤを見て、聖騎士が言った。そしてセイヤに対し。ある提案をする。


 「帝王、あんたがレイリアに帰れて、かつ平和に過ごせる方法が一つだけあるぞ」

 「本当か?」


 聖騎士の言葉に食いつくセイヤ。もし仮に聖騎士のいうことが本当ならば、セイヤにとっては願ったり叶ったりだ。だがもちろん、それは簡単な道ではない。


 「その道とは、帝王が七賢人、十三使徒、特級魔法師、誰もが手を出せないほどの力を手に入れること。そしてその帝王には、その素質がある。だがこれはそう簡単なことではない。帝王、あんたにその覚悟はあるか?」


 聖騎士はセイヤの目をしっかりと見据えて問う。それはここでセイヤの覚悟を聞いておこうという魂胆だ。だがすでに、セイヤの中では答えは決まっている。


 レイリアに戻れ、ユアたちとの日常を守れるのであれば、セイヤはどんな犠牲だって払う。そしてどんな過酷な試練でも乗り切って見せる。そんな自信がセイヤには合った。


 「俺は……もっと強くなりたい」

 「ふん、よく言った」

 「それで、その力というのは……」

 「考えてもみろ。光属性の上位種として聖属性があるというのに、なぜ闇属性には存在しない」

 「まさか!?」


 セイヤはその言葉を聞き、直感的に理解した。光属性の上位種である聖属性、いや、聖属性の劣化版である光属性。もし仮に、闇属性が劣化版の属性だとするならば、そもそもの属性は強力なものとなる。


 それこそが、セイヤの強化に必要なことであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ