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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第213話 聖騎士

 その日は朝から曇っていた。太陽は姿を見せず、灰色が勝った雲が空を埋め尽くす。しかし雨が降る様子はなく、涼しい風が吹いていた。


 「いよいよ今日だね」

 「ああ、そうだな」


 朝食を食べながら、お互いに緊張した面持ちのセイヤとダルタ。しかし二人が緊張してしまうのも無理はないだろう。なぜなら今日こそが、十三使徒序列一位でレイリア最強の魔法師、聖騎士アーサー=ワンとの対面の日だから。


 二人は今日のために十五日前からこのダクリア帝国を目指してきた。


 「聖騎士様ってどんな人なのかな?」

 「さあな、俺もあったことがないからわからない。それに聖騎士に関しての情報はいろいろとあってどれも信ぴょう性に欠けるからな」


 セイヤの言う通り、聖騎士アーサー=ワンに関する情報はレイリアでは意外と少ない。それは聖騎士の力を恐れた七賢人たちが左遷しているという噂などのように、どれも信ぴょう性に欠ける。


 そしてその情報のほとんどが偽の情報と言っていい。というより、それは民衆の聖騎士はこうあって欲しいという勝手な願望だ。


 だからほとんど信じられないものである。


 ある人が言うには、聖騎士は金髪イケメンの長身痩躯であるといい、ある人が言うには神々しいオーラを纏った女性だと言い、またある人が言うにはその存在を見せることもなく敵を殲滅する最強の魔法師と言われている。


 だがこれらはすべて聖騎士の姿を見たことがないような辺境の村人たちの言葉である。


 そんな妄言にも等しい情報がレイリア中に出回っていた。


 「本当に長身痩躯のイケメンなのかな?」

 「さあな」


 セイヤは聖騎士のことを考えながらダルタの作った朝食を食べる。今日もダルタの作った朝食は美味しく、セイヤの不安が少しだけ紛れた。


 けれども、食が止まると、すぐにまた聖騎士アーサー=ワンのことを考えてしまう。


 「意識しすぎだな……」


 どこか自嘲気味に言ったセイヤだが、その反応は間違ってはいないだろう。これからセイヤが会うのはレイリア最強の魔法師だ。意識しすぎて悪いことはない。


 ましてや相手は聖教会から何かしらの命令が下されている可能性がある。例えばセイヤの暗殺とか。しかしそんなこと考えてもきりがないため、セイヤは再び朝食を口に運んで、どうにか気を紛らわすのであった。


 セイヤが朝食を食べ終わると、時刻はちょうど十時半ごろになっていた。


 セイヤたちは聖騎士との待ち合わせの時間を正確には決めていないが、聖教会側からはお昼頃に例の噴水広場に向かえと言われている。


 つまり聖騎士との面会まであと一時間ほど時間が余っている。


 なのでセイヤはダルタに少し集中してくると言い残し、寝室に消えた。そして寝室で、聖属性の魔力の回復に努める。


 「レイリア最強の魔法師、聖騎士アーサー=ワン……」


 セイヤはその名をつぶやきながら、必死に回復に務める。まだ戦闘になると確定したわけではないが、万が一に備えておくのは悪いことではないだろう。


 それに相手は聖騎士だ。仮に戦闘になった場合、今のセイヤでどこまで戦えるかもわからない。しかもダクリアに近づくにつれて、セイヤの中で闇属性が強くなっていくことが分かる。


 おそらくここで魔王モードを使用すれば、一種のうちにセイヤは肉体の支配権をもう一人のセイヤに奪われる。


 だからセイヤは魔王モードを使わなくていいように、必死に魔力の回復に努めた。


 そしてついにその時が来た。宿を出る時間だ。


 「行くぞダルタ」

 「うん」



 二人は緊張した面持ちで宿を出ると、待ち合わせの場所となっている噴水広場に向かう。まだお昼までには時間があったが、さすがに聖騎士を待たせるわけにはいかないのでセイヤたち早く出た。


 噴水広場までは宿から十分もせずにつくはずだが、今回に限っては当着までに二倍近くの時間がかかった。理由は噴水広場に向かう途中に、やたらと人に話しかけられたから。


 それは宿を出て三分も経たなかったころ。


 「あら、ダルタちゃん。こんにちは」

 「あっ、おばさんこんにちは」

 「朝以来ね」

 「はい!」


 あったこともない女性の中がいい様子のダルタに驚くセイヤ。しかし女性の後ろにある八百屋を見て、すぐに買い物で知り合ったのだろうと察する。


 すると女性がセイヤの方を見て言った。


 「それで、そちらがセイヤ君?」

 「そうです。これがセイヤです」


 女性に対して嬉しそうにセイヤのことを紹介するダルタ。そんなダルタのことを見て、セイヤは女性に軽く会釈する。


 すると女性がセイヤに言った。


 「あんたダルタちゃんのこと大切にしなさいよ。こんなにいい子そうそういないわ」

 「は、はぁ」


 突然説教じみたことを言われ、戸惑うセイヤ。しかしそんな説教は女性だけではなかった。


 二人が八百屋のおばさんから逃れると、今度は肉屋のおじさんに会う。ここでもまた、ダルタは話しかけられたのだ。


 「よう嬢ちゃん、まさかそいつがセイヤか?」


 体つきのよい男性が、セイヤのことを見定めるように見つめる。セイヤは少しだけ居心地の悪さを感じたが、ここでも軽く会釈をして、すぐに移動しようとした。


 だがその前に、肉屋のおじさんがセイヤの前に立ちはだかった。


 「何か用でも?」


 セイヤの前に立ちはだかったおじさんはどこか不穏な空気を纏いながらセイヤのことを睨む。その空気から、すぐに男性が魔力を操れる人種だと悟ったセイヤは、すこしだけ警戒した。


 「ほう、どうやらできるようだな」

 「どうも……」

 「まあいい、これだけは言っておく。嬢ちゃんを泣かせたら俺らが許さないぜ」

 「は、はぁ……」


 威圧感を放ちながら意味の分からないことを言う男性に、セイヤは戸惑いざる負えない。けれども男性の空気が変わったことで、セイヤも纏う空気をそれ相応のものにした。


 それは容赦のない威圧。男性に威圧された時点で、セイヤは男性のことを少なからず敵と認識した。そして敵に向けるような威圧を放つセイヤに、男性は少しばかり狼狽する。


 「結構やるようだな。まあ言いたいことはそれだけだ」


 男性はそう言って、店の中に帰っていく。セイヤはそんな男性のことなど気にせず、そのまま噴水広場に向かうのであった。


 こうしてその後も、パン屋や家具屋で同じようなことがあったセイヤは、ついに噴水広場に到着したのだ。


 お昼過ぎの噴水広場には、かなりの人の数がいた。子供を連れた親子、ベンチで仲良く座るカップル、噴水に寄りかかりながら読書をする少女など様々だ。


 「聖騎士は……」

 「いないね」


 セイヤとダルタはとりあえず聖騎士のことを探したが、一目でいないと悟る。それは噴水広場にいた人々の纏う雰囲気が到底レイリア最強の魔法師のようには思えなかったから。


 だからっ二人は噴水広場で待つことにした。


 「いったいどんな人なんだろうね」

 「さあな。それよりダルタ、さっきの人たちは一体どういうことだ?」

 「えっ、どういうって……」


 セイヤの質問の意味が分かっていないダルタは答えに困る。そこでセイヤが質問を詳しくしようとした、その時だった。それは二人が噴水広場に来てから三分も経っていない。


 その声は唐突にした。


 「お前がキリスナ=セイヤか?」

 「なに?」


 その声を聴き、セイヤが声をした方向を見る。するとそこにいたのは、容姿が十三歳ほどにしか見えない少女。しかしセイヤは知っていた。少女が十三歳ではなく、二十七歳だということを。


 「あんたは……」

 「そういえば名乗って無かったな。あたしは聖教会所属、十三使徒序列一位、聖騎士アーサー=ワンだ」


 その名を名乗った少女は、セイヤがついこの間食事処であった少女だった。


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