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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第210話 噴水広場

 夕方、セイヤたちの姿はダクリア帝国内にある宿にあった。そこはダクリア二区でセイヤが止まった宿に負けず劣らず素晴らしい部屋で、先ほどからダルタはベッドの上でゴロゴロ転がりまわっている。


 「すごい! すごいよ! ここって十階だよ! 信じられない!」


 レイリアでは考えられないほど高い十階の建物、そして数々の機械製品に、ダルタは興奮の色を隠せない。


 だがセイヤはそんなダルタを見ながらも、あることを考えていた。


 それはこの日の早朝にダルダルから言われた言葉。結局あの後、ダルダルは「残りは真実を教えるにふさわしい人に聞いてください」と言って、立ち去った。そして最後には「また近いうちに」と言って消えた。


 おそらくセイヤはまたすぐにダルダルに会えるのだろうと薄々思う。そして同時に、あの言葉が気になって頭から離れなかった。


 「この世界は仕組まれている」――この言葉の真意は一体、そしてダルダルがこの言葉を言い残した理由がわからない。さらになぜダクリアの魔王であるダルダルがセイヤのことを知っていたのかもわからない。


 「はあ、わからないことだらけだな……」

 「さっきの人の言葉が気になるの?」

 「まあな」


 セイヤがため息をつくと、ベッドの上を転がっていたダルタが聞いて来た。


 「それにしてもセイヤって聖属性使えたんだ。女神様じゃん」

 「ああ、それ誰にも言うなよ」

 「わかってるって、ご主人様の命令はちゃんと聞くから。ところでセイヤ」

 「なんだ?」


 ベッドに寝転がっていたダルタが姿勢を変えて正座になる。そして改まった口調でセイヤに聞いた。


 「聖属性って本当になんでも発生できるの?」

 「一応、イメージができるものならな」

 「だったらお金も!? 大富豪じゃん!」

 「お前な……」


 ダルタの無邪気な発言に、セイヤは頭が痛くなるのを感じた。確かにダルタの言う通り、セイヤにとってお金を発生させることなどたやすいい。その気になればいくらだって生み出せる。


 だがそれは犯罪でなくとも、モラルの問題だ。一応だがレイリアでお金を魔法で作ってはいけない法律はない。なぜならそもそもお金を作れる魔法など聖属性以外に存在しないから。そして聖属性の魔法師など、まずいないから。


 だから法律はない。しかしそこは個人の倫理観の問題であり、当然セイヤにそんなことをする気はなかった。


 「えーお金作らないの?」

 「お金は稼ぐものだ。作るものではない」

 「ぶーぶー」


 ダルタはふてくされようにベッドに倒れこむと、そっぽを向いた。セイヤはそんなダルタのことを仕方がないという目で見ていたのだが、心の中でダルダルの残した言葉に対する疑問が薄れていたことには気づかない。







 一時間後、太陽が傾き、地平線に近づいてきたころ、二人は夕食を食べるために宿を出た。本当なら宿についている食堂を利用すれば安くて楽なのだが、二人は会えた外出することにした。


 それは聖騎士アーサー=ワンとの待ち合わせ場所である噴水広場を下見するためだ。


 宿から出て十分も歩かぬうちに、二人は待ち合わせ場所である噴水広場の前に到着した。だがまだ待ち合わせの時間まで三日あるため、当然そこに聖騎士アーサー=ワンの姿はない。


 「ここが噴水広場か」

 「きれいなところだね」


 しかし二人の目の前に広がる噴水広場はとても幻想的な雰囲気を醸し出している。特に夕方だからか、微妙に入り込んだ夕日が水に反射し、より幻想的にしていた。


 「なんか平和だね」


 ダルタはその景色を見ながら、今までの冒険が嘘のように感じられていた。


 いきなり特級魔法師の使用人となったと思ったら暗黒領に飛ばされ、そして想像もつかない街で数々の人に出会った。さらには両親の仇である魔獣も倒すことができた。


 それは少しまでは考えられないような経験であり、ダルタはまだ夢なのではないのかと思う。けれども、この景色を見ていると、そんなことを忘れさせてくれるくらい安心できる。


 ここに来て初めて、ダルタは真に意味で心の安らぎを感じた。


 「あの水、見てるだけで心が落ち着くな」

 「そうだね」


 噴水の水を見れば見るほど、心が安らぐのを感じるセイヤ。


 実を言うと、噴水の水には微量だが水属性の魔力が含まれており、見る者の心を沈静化で安らげるといった効果があるのだ。しかも水に含まれている魔力は人間ではなく魔晶石を応用した技術であり、ダクリアの最新技術だった。


 だからこの噴水はダクリア全土でも有名な観光地でもあるのだ。


 そして同時に、ダクリア内でも有数なデートスポットにもなっていた。


 太陽が地平線に沈みかけると、近くに立っていた街灯に火がともり始める。そしてそれに伴い、人の数が増えていく。


 「ねえセイヤ、なんか人が多くなってない?」

 「たしかにな」


 二人の前では次々と人々が噴水広場に集まり始めている。しかも誰もが男女二人っきりで腕を組みながら歩いており、中には仲良くベンチに腰掛けるカップルまでいた。


 そしてその時、ダルタはある標識を発見する。


 「なになに、太陽が沈んだ以降は二人の愛の巣……? ………………あっ」

 「どうした?」

 「ううん、なんでもない」


 何か焦っているダルタにセイヤは首をかしげたが、ダルタは慌てて何でもないと返す。


 「じゃあ下見も終わったから晩飯に行くか」


 セイヤは下見が終わったため、夕食をとるために移動を開始しようとする。しかしそんなセイヤの袖をつかんで待ったをかける人物がいた。もちろんダルタだ。


 「ねえ、ちょっと待たない?」

 「んっ、どうした?」

 「えっと……」


 何もわかっていないセイヤが問うと、ダルタは頬を赤らめながらモジモジとしだした。その様子は何かを恥ずかしがっているようで、ここがどんな場所かをわかっていればすぐに理由はわかる。


 しかしこの場所がどんな場所かを理解していないセイヤは、ダルタに対して雰囲気をぶち壊す言葉をかけた。


 「トイレなら待っているから早くいけよ」

 「な、なっ……セイヤデリカシーなさすぎ!」

 「違ったか?」

 「違うとかじゃなく女の子にそんなことを言うのは男として駄目! そういうのを言っていいのは女の子が五歳までだよ!」


 頬を膨らませてツインテールをぶんぶんと振りながら怒るダルタ。だがそんなダルタにセイヤは冷静に答えた。


 「なら問題ないだろ。ダルタの精神年齢は三歳なんだから」

 「なっ、なんですって!?」


 思わぬ言葉に顔を真っ赤にして怒るダルタ。けれども、数々の修羅場を潜り抜けて来たセイヤからしてみれば、ダルタの怒った姿は全く怖くはない。


 むしろ見ていて微笑ましくなるくらいだ。


 「セイヤ、この際だから聞くけど私のことを何だと思っているの?」

 「ん、メイドなのにロクに家事ができないポンコツメイド」

 「なっ、なんですって!?」


 セイヤに言葉でさらに怒るダルタ。


 その顔は今にも煙が出そうなくらいに赤い。


 (そろそろ潮時だな……)


 セイヤはもうそろそろダルタをからかうのをやめるべきだろうと思い、素直な気持ちを伝えた。


 「冗談だ。お前は頼りになる相棒だよ」

 「なっ、なによいきなり!?」


 セイヤに言われ、瞬く間に顔を赤くするダルタ。その顔はトマト並みに赤い。


 「さて、もういくぞ」

 「う、うん」


 セイヤに言われ、半ば反射的についていくダルタ。そんなダルタのことを見た周りのカップルたちは微笑ましい笑顔を浮かべるのであった。


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