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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第209話 怠惰の魔王

 ダルダル=ベルフェゴール、その名を聞いた瞬間、セイヤはすぐに老人に対する警戒度をマックスにした。


 老人が実力者だということはわかっていたセイヤだったが、まさか目の前にいる老人がこの国に七人しかいない魔王だとは思っていなかった。


 セイヤはダルダルのことを見据えると、いつでも魔法を行使できるように身構える。そうしなければ、ダルダルの不意打ちに対応できないから。


 だがそんなセイヤのことを見て、ダルダルは笑みを浮かべた。


 「ほほ、そんなに身構える必要はないですよ。私にあなたと戦う意思はありません」

 「…………なぜ?」


 ダルダルから一切の戦闘の意思を感じなかったセイヤは、少しだけ警戒を解きながら聞いた。それでもすぐに魔法を行使できる状態だが。


 「逆に問いますが、なぜ私が魔王だと名乗った瞬間に敵対行動をとるのですか?」

 「それは……」


 ダルダルの言葉にセイヤは言葉が詰まる。確かに、セイヤの目の前に魔王がいたからと言って、セイヤが敵対行動をとる必要もなければ、警戒態勢に入る必要はない。


 それに今のセイヤはダクリアの冒険者なのだから。


 「敵対する理由もないのに、無意味な戦いをしようとは思いません」

 「それじゃあ……」

 「ええ、たとえあなたがレイリアの人間だろうとも私は攻撃をしたりはしませんよ」


 一瞬だけ完全に警戒を解いたセイヤだったが、ダルダルの言葉の続きを聞き、再び警戒態勢に入った。それはダルダルがセイヤの正体を言い当てたことで無意識によるものだ。


 しかしそんなセイヤを見て、ダルダルは再び笑みを浮かべた。


 「ほほ、だから敵対する気はないと申しておりましょう。なぜそこまで警戒するのですか」

 「それは俺がレイリアの人間で、あなたがダクリアの人間だから……」


 セイヤの言い分は正しい。これまでのセイヤの人生で、レイリアとダクリアは事あるごとに衝突をし、命を奪い合ってきた。だから自然とレイリアとダクリアは犬猿の仲だと思っても仕方がないだろう。


 けれども、それはあくまでセイヤの主観であって、ダルダルには関係のないことである。


 「たとえ私がダクリアの人間で、あなたがレイリアの人間でも理由なく争う必要はないでしょう。私たちは同じ魔法をつかさどる人間なのですから」

 「確かにそうかもしれないですが……」


 ダルダルの言い分も一理ある。レイリアもダクリアも元をたどれば同じ人間。しかも古代は一緒に暮らしていた仲だと「魔創記」が綴っている。理由もなく争う必要はない。


 だが今までの人生でレイリアとダクリアの衝突を見てきたセイヤにはいまいち理解が難しい理論である。


 「それにあなたの半分はダクリアの人間。なぜレイリアと言えるのでしょうか?」

 「なぜそのことを……あなたはいったい何を……」


 ダルダルの含みを持たせた言葉にセイヤは息をのむ。ダルダルはセイヤが光属性だけでなく、闇属性も使えることを知っている。しかしセイヤはダルダルの前で闇属性も光属性を使うどころか、魔力の錬成もしてはいない。


 つまりダルダルはかつてからセイヤのことを知っていたことになる。しかもセイヤの中に流れる血の半分はダクリアの血だということも。


 「これは失礼。少々度が過ぎましたかな」


 ここでこの話は終わりと言いたげなダルダル。しかしここで引くことなど、セイヤにはできるわけがなかった。目の前にいるダルダルはセイヤのことを知っている。しかもそれはセイヤがまだ取り戻せていない記憶の部分だから。


 「お願いします。俺について教えてください」

 「ほほ、面白いことを言いますね。自分について、を他人に聞くとは」


 とぼけながら答えるダルダル。それは教える気はないという意思の表れであったが、セイヤは構わず質問を続けた。


 「俺はいったい何者なのか。闇と光、なぜ二つの属性、しかもあり得ない組み合わせを継いでいるのか。それに魔王モ……もう一人の俺は一体何なのか。なぜ俺は聖属性が使える……俺は一体……俺の両親はいったい誰なんだ……」


 それはセイヤが闇属性を取り戻してから抱いて来た数々の疑問。今まではその力を無意識に使ってきたが、改めて考えてみると自分が一体何者なのか、セイヤにはわからなかった。


 そしてそんなことを考えるたびに、セイヤは一人恐怖心に駆られていたのだ。本当は自分は誰かの陰謀で作られた存在ではないのだろうか、残っている記憶は実は偽りで後から植え付けられたものではないのか、本当はキリスナ=セイヤなんて魔法師は存在しないのではないか。


 そんな疑問と不安がセイヤの心を占めていた。


 ダルダルはセイヤの本音を聞き、少しだけ考えるそぶりを見せる。


 「ふむ、そこまで言われると厳しいですね」

 「お願いします。なんでいいから俺に教えてください」


 セイヤはそこで初めて、ダルダルに対して頭を下げた。普段は人に頭を下げるような人間ではないが、セイヤにとってはそこまでして知りたい事実であったのだ。


 「ふう、困りましたね」

 「駄目ですか?」

 「いえ、別に駄目というわけではないのですが……」


 歯切れの悪いダルダルに、セイヤはもう一度頼み込む。


 「どんな些細なことでも構いません。俺が一体何者なのか、教えてください」

 「はあ、わかりました。私が言える範囲でお教えしましょう」


 ダルダルはそこで一度言葉を切ると、一度深呼吸をして説明を始めた。


 「まずはあなたのことですが、あなたはレイリアとダクリアの血を継ぐ一種のハーフです。だからあなたは光属性と闇属性という互いに相反する属性が使えます」


 確証はなかったが、それはセイヤも予想できたことなので頷く。


 「もう一人のあなたに関しては、あなたであってあなたではない。しかしあなたであることには違いない」


 ダルダルの言葉に、セイヤは首をかしげる。言いたいことは何となくわかるのだが、漠然としか理解ができない。


 だがダルダルは気にせず話をつづけた。


 「あなたに関して私がお教えできるのはここまでです」

 「なっ……わかりました」


 一瞬だけ反論しようとしたセイヤだったが、すぐに言葉をのむ。セイヤはあくまで善意で教えて貰っている立場であって、あまり強く言える立場ではないから。


 「あと私がお教えできることは、この世界に関してでしょうか」

 「この世界?」


 突然話のスケールが大きくなったことにセイヤは戸惑いを見せるが、ダルダルは気にした様子もなく話を続ける。


 「あなた方レイリアの魔法師が教えられる「魔創記」に関してです」


 「魔創記」――それはこの世界の始まりを記した資料であり、現在のレイリアとダクリアの生まれた経緯、そして魔法が生まれた経緯などが書かれた資料であり、レイリアの魔法師は魔法を習う前に教えられる。


 神の二人の息子が父親の死後、お互いに持っていた固有属性を駆使して戦争を起こし、互いの勢力を駆逐し合い、時には仲間に魔法を授け、戦わせ、お互いの勝利を求めあった戦争。結果は現在のレイリア側の勝利に終わり、レイリア王国が誕生した。


 そしてレイリア王家が魔獣の出現によって滅び、現在の聖教会、そして聖属性を操る女神たちが現れたことが記されている神話だ。


 「あなた方が習ったその言い伝えは偽物です」

 「確かに、ダクリアは存在していますが……」


 セイヤの言う通り、「魔創記」にはダクリアの関する偽りの真実が載っている。しかしダルダルの言いたいことは違っていた。


 「いえ、すべてが偽りです。この世界は仕組まれている」


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