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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第208話 謎の老人

 魔獣討伐という名の、ダルタの復讐を終えた二人は、ついにダクリアの中心、ダクリア帝国に到着した。その時には約束の日まで残り三日となっている。


 そしてその日の早朝、セイヤとダルタはダクリア帝国の前にいた。


 「ここがダクリア帝国……」

 「四区もすごかったけど、こっちはもっとすごいね」


 二人は塀の外からダクリア帝国を見て、感嘆の声しか上げることができなかった。なぜならダクリア帝国の街並みはレイリアの常識が通じないほど発展していたから。


 しかもそれはダクリア二区や四区ともかけ離れるほどのものである。


 「ここに聖騎士アーサー=ワンが」


 セイヤはついにレイリア最強の魔法師、聖騎士アーサーに会うと思うと、少しだけの緊張と大きな期待を抱く。


 なぜなら聖騎士アーサーは滅多に会えないほどの魔法師であり、レイリア中の憧れの魔法師と言っても過言ではないから。


 しかも聖騎士アーサーは遠征任務のためほとんどレイリアにはいないので、その姿を見るだけでもかなりラッキーなのだ。


 一説によると、聖騎士アーサーが反逆した際のことを恐れ、七賢人たちが遠征任務という名目で暗黒領に左遷しているという噂もあるが、真実は定かではない。


 だがこの街並みを見る限り、左遷されているという可能性は低いと思うセイヤ。これほどの街であれば、聖騎士アーサーほどでないと潜入任務が厳しい。


 だから左遷ではなく、本当に任務で長期間ダクリアに潜入していると考える方が正しいだろう。


 セイヤがそんなことを考えていると、不意に背後から声をかけられる。


 「もしもし、もしや入り口をお探しで?」


 背後からの声を聴き、セイヤが後ろを向くと、そこには馬に乗った老人がいた。その服装はどこにでもいそうな老人であるが、纏う雰囲気からすぐにセイヤは老人も魔法師だと悟る。


 そして自分が放つ雰囲気を悟ったセイヤを見て、老人は少しだけ顔を緩ませた。


 「ほう、その年でなかなかの実力、相当な鍛錬を積んでおりますね?」

 「はあ、どうも」


 どこか掴めない老人の雰囲気に戸惑いながらも、セイヤは会話が途切れないように返事をする。


 「それで、入り口をお探しでは?」

 「ええ、まあ」


 老人の問いに対し、セイヤは素直に答える。確かにセイヤは塀の周りをまわって入り口を探そうとしていたので、老人の言っていることは間違いではない。


 「なら、ついてきてください。入り口まで案内します」

 「そうですか。お願いします」


 セイヤはそう答えると、馬をゆっくりと走らせた老人の後に続けて『魔力供給型全自動二輪車』を走らせる。


 「ねえセイヤ、大丈夫なの?」

 「まあ大丈夫だろう。悪そうな人じゃないし」

 「そうかな……」


 不安そうなダルタをよそに、セイヤは老人の後に続いた。


 「この街にはどのような用件で?」

 「えっと、人に会いに来ました」


 突然話しかけられたセイヤだが、躊躇うことなく言葉を返す。すると老人は嬉しそうに話をつづけた。


 「その人とは仲がいいんですか?」

 「いえ、あったこともありません」

 「ほう、それはまた。よければ理由を聞いても?」

 「大したことじゃありません。ただ知り合いに頼まれて、届け物をするだけです」


 セイヤは本当のことを言う。別にここで下手に隠して違和感を覚えられるよりは、素直に話した方がいいから。それに用件はレイリアのことであるため、老人にはわかるまい。


 「そうですか。それにしてもその実力、いったいどれほどの修業を積んだのでしょうか?」


 話題が唐突に変わったことにセイヤは一瞬顔をしかめた。そしてセイヤの一瞬の変化を、老人は見逃さなかった。


 「それは外の世界でずっと暮らしてたからだと思います。来る日も来る日も魔獣と戦っていたので」

 「なるほど、それは強くなりますね」


 セイヤはまるで老人の手のひらで踊らされているような感覚を覚えた。なので、セイヤも少しばかり反撃に出る。


 「そちらこそ、かなりの実力者とお見受けしますが?」

 「ほほ、私ごときなんてそんな。この年にしてこの実力ですよ。ただ怠惰に過ごしてきただけです」

 「何もせずにその実力とは、かなり才能があるんですね」

 「やはりわかりますか?」


 セイヤが皮肉を込めて言うと、一瞬にして老人の纏う雰囲気が変わる。それに伴い、セイヤも一瞬にして纏う雰囲気を変えた。それはダルタもだ。


 だがいつまで経っても、老人が攻撃を仕掛けてくることはなかった。


 「冗談ですよ」

 「笑えない冗談だ」


 本気の殺気をセイヤたちに向けたというのに、それを冗談という老人に、セイヤは少しだけ警戒心を強める。しかし老人は全くセイヤのことを警戒はしていない。


 「これは失礼、少し昔の血が騒いだだけです」

 「物騒ですね」

 「ほほ、老人の戯れですよ。ところで、ブロードの最後はどのような物でしたか?」

 「!?」


 唐突に変わった話題、しかもダクリア二区を治めていたブロード=マモンのことになり、セイヤは驚きを隠せない。しかも老人はすでにセイヤがブロードを殺したことを知っているような口調だ。


 「いったい何のことだか……」

 「とぼけなくとも結構。その『魔力供給型全自動二輪車』を見れば一目瞭然です。それはブロード本人がカスタマイズし、愛用していたオリジナルモデル。私の目は欺けません」

 「あなたは一体……」


 老人の口調を聞く限り、ブロードに近い、それもかなり対等な関係にあったことが分かる。だがこのような老人を、セイヤはダクリア二区で見ていない。


 「私はブロードの旧友ですよ。といっても、ここ十年はあっていませんでしたが」

 「ということは、俺はあいつの仇と?」


 セイヤの言う通り、目の前にいる老人があのブロードと旧友であるのならば、セイヤは老人にとっての仇になる。ということは、このまま戦闘に突入する可能性だってあり得る。


 しかし、セイヤの予想は杞憂に終わった。


 「安心してください。別にあなたをどうこうする気はありません。ただ、ブロードの最後がどのようなものだったかを聞きたいだけです」

 「そうですか」


 老人の言葉を聞き、セイヤは一安心をする。そしてブロードとの戦いについて大雑把に説明した。


 「そうでしたか」

 「はい、かなり危ない戦いでした。おそらく一歩間違っていれば俺が負けていたと思います」

 「あなたのような冒険者にそういわれたのであれば、ブロードも悔いはないでしょう」


 老人がそう言った直後、老人の馬が止まる。


 「つきましたよ」

 「ここが入り口……」

 「大きいね」


 セイヤたちの前にそびえたつ大きな鉄製の門。それはセイヤが今まで見て来た門の中で一番重厚で、威圧感を放っていた。


 ちょうどその時、門の方から門番がやってくる。


 「そこの三人、止まれ」


 門から出て来た門番は合わせて四人。誰もが例外なく武装していた。


 纏う雰囲気は並み以上で、実力者であることがわかる。だからセイヤはこの門でかなり時間を費やすと考えていた。


 しかし次の瞬間、門番たちは老人のことを見て武器を落とす。


 「あ、あなたは……」

 「あなたはまさか……」


 老人のことを見ると、門番たちは次々と頭を下げていく。


 「ほほ、まさかここまで知られていますとは」

 「当たり前です。あなたはこの国の有名人ですから」

 「どうぞお通りください。調べることはありません」

 「そうですか? ならお言葉に甘えて。それと、そちらの二人も私の同伴ですので」

 「わかりました。お二人もどうぞ」


 そう言われ、セイヤたちは何事もなく門を通された。その呆気ない結末に開いた口が塞がらないセイヤたち。そんな二人を見て、老人が楽しそうに笑う。


 「ほほ、驚きましたか?」

 「あなたは一体……」

 「申し遅れましたね。私はダルダル=ベルフェゴール、魔王の一人です」


 なんと、セイヤの目の前にいる人物こそが、ダクリア六区を治める魔王の一人だった。


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