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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第202話 ダクリア四区の悪魔

 ダクリア四区のギルド前に集まった五十人ほどの冒険者たち。彼らの目的はちょうどギルドから出て来た少年を倒し、その持ち物などを強奪することだ。


 「へっへっへ」

 「これは久しぶりに大物が来たぜ」

 「金が入る」

 「俺は女だ」


 次々と自分の欲望に忠実に動く冒険者たち。その光景はかなり異様だ。しかも彼らの首にかけられたタグは銅や銀といった高ランク冒険者の証である。


 ついさっき冒険者になった、それもDランク以下であるセイヤたちには勝ち目がない、と誰もが思っていた。そして彼らは自分の勝利を半ば確信すると、一斉にセイヤに向かって襲い掛かる。


 「雄弁の調べ、ここに集え……」

 「奈落の淵より現れし化身……」

 「怠惰の淵より君臨せし羽衣……」


 一斉にセイヤに襲い掛かり始めた冒険者の中で、約半分ほどが詠唱を始める。しかしその詠唱はセイヤの知るレイリアの詠唱とは全く違うものだ。


 だが詠唱とともに構築されていく魔法陣を見る限り、それがレイリアとほぼ同系統の魔法だということが分かる。


 そして詠唱を行わなかった冒険者たちは我先にと武器を取りセイヤに向かって襲いかかる。


 セイヤに向かって襲いかかる冒険者たちの手には剣や槍、他にも刀など様々なものがあるが、そのどの武器も例外なくセイヤのことを狙っている。武闘期間中は強奪をは許されているとはいえ、殺すことは許されていない。


 しかし彼らの動きにはセイヤを殺すことに関する一切の躊躇いがなかった。


 「いくぞ!」

 「終わりだ!」


 そしてまさに冒険者たちの握る武器がセイヤに向かって振り下ろされようとした刹那、セイヤがやっと行動に出た。


 その動きはただ顔を上げて冒険者たちを見据えただけ。しかし次の瞬間、冒険者たちの握っていた武器はその存在が本当にあったのか怪しくなるほど一瞬で姿を消す。いや、消滅させられた。


 そしてそれは冒険者たちの武器だけではなく、後方でセイヤに向かって魔法陣を構築していた冒険者たちもであった。


 彼らが展開していた魔法陣は強力だからか、何重にも展開され、そのすべてがかなりのレベルのものであった。しかも魔法陣の色を見る限り、どれも基本属性ではなく派生、ないしは複合である。


 その魔法はレイリアで言うのであれば上級魔法に値するだろう。


 だがそんな魔法陣も、彼らが握っていた武器同様、何の前兆もなく忽然と姿を消した。いや、消滅させられた。


 一瞬の間に起きた出来事に誰もが言葉を失い、動きを止めてしまう。彼らは今何が起きたのかを理解していない。というよりも、理解できなかった。


 刹那の時間で消えた武器と魔法陣。これが金のタグをつけたAランクの魔法師が相手であれば、彼らも『闇波』によって消滅させられたのだと理解できただろう。しかし彼らが今相手にしているのは鉄のタグをつけたDランク以下、とうてい『闇波』という考えに辿り着けるわけがない。


 「一体……」

 「何が起きた……」


 各々今の出来事に呆然とするが、そこは冒険者。すぐにセイヤから距離をとり、今度は遠距離からの魔法攻撃を試みる。


 「深淵より現れし……」

 「色欲の加護から集う……」

 「破滅の心、すなわち暴食……」

 「怠惰の証をここに……」


 今度は一斉に魔法陣を展開し始める冒険者たち。その数はざっと五十人、そして展開されている魔法陣の数もまた五十。


 色とりどりの魔法陣たちがセイヤに向けて構えられている。


 そんな魔法陣を見て、セイヤは再び『闇波』を行使する。


 もう『闇波』と言葉に発する必要もなければ、指を鳴らしたりとトリガーを行う必要もない。完全に体に馴染んだ闇属性を行使するのに、もう動作はいらなかった。


 ただ見据えるだけでいい。そして見据えた対象に向かって消えろと念じるだけでいい。それだけで、対象はこの世から跡形もなくその存在を消滅させる。音もたてずに。


 「何が起きたんだ……」

 「どういうことだよ……」


 再度展開した魔法陣が跡形もなく消えたことに驚きを隠せない冒険者たち。しかもセイヤは先ほどから何かをしたような仕草もない。


 意味が分からない。何が起きているのか理解できない。そんな思いが彼らの心の中を占めていく。


 「おう、やってるぜ」

 「本当だ。あいつらも馬鹿だな」

 「そう言うなって、普通に考えて予想できないだろ」


 ちょうどその時、ギルドの中から新たな冒険者が姿を現す。彼らはつい先ほどまで食事処でどんちゃん騒ぎをしていた冒険者であり、セイヤも少なからず印象に残っている。


 そんな彼らを見て、魔法陣を消滅させられた冒険者たちが聞いた。


 「おい、どういうことだ?」

 「お前らは何を知っている」


 首に銀色のタグをかけた冒険者たちが聞くと、同じように首に銀色のタグをかけた冒険者が答える。


 「別にそいつのことを知っているわけじゃない。ただ、そいつがサーりんと互角の戦いを繰り広げて満点を貰ったのを知っているだけだ」

 「なっ……」


 男の言葉を聞いて、ざわつき始める冒険者たち。その中では「あのサーりんに……」、「それってマジかよ……」といった声が聞こえる。


 「だが、そいつは鉄タグのDランクだぞ? サーりんに勝つなんて……」

 「それが本当らしいぜ。だが筆記の方が三点でDランクになったそうだ」

 「なんだと!?」


 そこにいる誰もが言葉を失った。それはサーりんと互角の戦いを繰り広げたセイヤの実力に対する驚きもあったが、それ以上に超簡単な筆記試験で三点しか取れなかったセイヤの頭に驚いていた。


 「なんてやつだ……」

 「あのテストで三点とか……」

 「あんなの五歳でも解けるのに……」

 「馬鹿だ」

 「ああ馬鹿だ」

 「やばいなガチの馬鹿だ」


 セイヤに対して一斉にかわいそうな目を向ける冒険者たち。そんな視線を向けられたセイヤは少しばかり怒りを覚える。


 レイリアにおいて、セイヤの魔法の成績は悪かったが、座学は普通に優秀だった。そしてそのことに少しばかりプライドを持っていたセイヤは、大勢から馬鹿と言われたことに怒りを覚えるしかなかった。


 セイヤはそこで初めて、自分のことを取り囲む冒険者たちに言う。


 「武闘期間中は殺さなければなんだってしてよかったよな?」

 「あ、ああ」


 突然豹変したセイヤの雰囲気に対し、一人の冒険者が戸惑いながら答える。そして同時に、冒険者たちは悟る。セイヤが何かしらの強い感情を自分たちに向けていることに。


 「だったら容赦はしない」


 セイヤはそう言い残し、音速の世界へと入った。


 光属性の魔力で自身の身体能力を上昇させたセイヤだが、この場でセイヤの姿を捉えられる者はだれ一人としていなかった。よって、誰もセイヤが光属性の魔力を使ったとは理解できない。


 そして地獄はそこから始まった。


 「うわぁぁ」


 どこかで誰かの苦悶の声が上がる。その声を聴き、冒険者たちは一斉に声のした方向を見るが、その時にはほかの冒険者が苦悶のことを上げた。


 「うっ……」

 「ぐほっ……」

 「くっ……」


 次々と苦悶の声が上がる中、冒険者たちはセイヤの姿を捉えようとするが捉えられない。そんな状況が次第に冒険者たちの心に恐怖というものを植え付けていく。


 「くそ……深淵の……」


 恐怖に駆られ、誰かが魔法を行使しようとするが、その刹那には展開した魔法陣は跡形もなく消える。それは他の冒険者も同じであり、次々と詠唱を開始するが、誰も魔法陣を完成させることは許されない。


 「なんだよ……これ……」


 誰かがそんな声を漏らした。しかし次の瞬間には声の主は気絶して倒れる。こうしてギルド前に集まっていた冒険者たちはわずかの間に全員が気を失って倒れこんだ。


 その光景を見た、ギルド内から出て来た冒険者たちが言った。


 「悪魔だ……」

次で4区は終わる予定です。

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