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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第201話 新たな決意

 強い……戦いの最中、セイヤは心の中でそう感じた。まるで瞬間移動のように攻撃を繰り出すサーりんだが、それ以上に攻撃のタイミングや連続技の滑らかさにセイヤは苦戦していた。


 避けたと思っても次の瞬間には新たな攻撃を繰り出すサーりん。そんなサーりんの攻撃に対し、セイヤは防御に専念せざる負えない。


 並みの魔法師ならここらで一呼吸置くために動きを止めそうなものだが、サーりんは続けて攻撃を繰り出す。セイヤは魔法を使ってどうにか間合いをとろうとするが、サーりんがそれを許さない。


 セイヤがここまで苦戦するのは初めてだった。


 しかしそんな苦戦の中で、セイヤは同時に自分が今までにないほど冷静になっていることに気づいていた。それはなぜかわからないが、感情的にならず、サーりんに攻撃を避けられている。


 それにピンチだというのに、まるで戦いを客観的に見ているような感覚。そんな初めての感覚に、セイヤは驚きを隠せない。


 (これは一体……)


 だが冷静さを保つ中で、セイヤはあることを確信していた。


 それはここまま戦い続けたところで、自分に勝利の機会はないということ。


 セイヤにはまだ魔王モードという奥の手があるが、それははっきり言ってリスクが高い。それにここで魔王モードを使う必要はない。


 なぜならセイヤの目的はサーりんに勝つことではなく、試験を突破して冒険者になることだから。そして筆記試験ですでに一点以上取っているセイヤは冒険者になる条件を満たしている。


 だからここで無理して魔王モードを使う必要はない。そして同時に、セイヤはあることを決心する。


 それはセイヤが異端の力を取り戻してから初めてのこと。今までは勝利にこだわる必要があった状況だったが、今回ばかりは目的が違う。それにここで下手なことをして時間がつぶれるぐらいなら、潔く引いた方がいい。


 セイヤの最終的な目標は聖教会からの任務を達成し、ユアたちがいるアルーニャ家を守ることだから。


 だからセイヤはその場で立ち止まり、両手を上げる。そして自らの負けを認めた。


 「降参。俺の負けだ」


 セイヤが自分の負けを認めた刹那、サーりんがセイヤの目の前に瞬間移動したように出現する。それも右足をセイヤの顔の横数センチのところで止めて。


 「へえ、まさか自分から負けを認めるとは」

 「まあな、どう頑張ったところであんたには勝てない」

 「なるほどね。いい判断だと思うよ」


 サーりんはそう言って、振り上げていた足を下ろす。その顔にはわずかな笑みが浮かんでいた。


 「これで一応俺も冒険者だろ?」

 「そうだよ。筆記試験三点、実技試験五十点、合計五十三点でDランクだね」

 「はぁ? 実技試験五十点!?」


 セイヤは自分の点数が思ったよりも良かったことに驚きを隠せない。しかしサーりんは何を驚いているのかといった顔をしながら答える。


 「そうだよ。だって私とここまでの戦いを繰り広げたんだから」

 「でも負けたぞ?」

 「結果から言えばね。けれども、セイヤ君は相手の実力と自分の実力、それに相性などを客観的に判断して自分の負けを受け入れた。例え試合に負けたとしても、勝負に勝っている」


 サーりんの説明を聞き、セイヤは言葉を失う。なぜならサーりんの言葉は名だたる実力者がよく言う言葉だから。


 「後の勝利のためなら恥を惜しんで今の敗北ということか」

 「そういうこと。まあ一言でいうなら戦略的撤退だね」


 セイヤが教科書に書いてあった言葉を言うと、サーりんがまとめて言う。こうして、セイヤとダルタの実技試験は幕を下ろすのであった。






 セイヤとサーりんが戦いを終えると、ちょうど気絶していたダルタも目を覚まし、四人は実技試験の会場を後にする。


 「じゃあ、今から二人のタグとか作ってくるからちょっとその辺で待っていて」


 そう言ってサーりんはセイヤたちを一階で待たせ、後輩の女性と共にギルドの奥の穂へと消えていく。残されたセイヤたちは近くに設置されていたベンチに座った。


 「はあ、完敗だったね」

 「まあな」

 「あれ、なんかいつもと違う?」


 はっきりとしないセイヤの答えに違和感を覚えるダルタ。今のセイヤからは普段とは違い、どこか自信というものが感じられなかった。


 「ちょっとな。世界はまだまだ広いということを思い知ったんだ」

 「なにそれ?」


 セイヤのよくわからない答えに首をかしげるダルタ。しかしセイヤはサーりんたちが戻ってくるまでそれ以上何も言葉を発することはなかった。


 先ほどの戦い、結果から言えばセイヤの惜敗だ。しかもセイヤの魔法はことごとく消された。それはサーりんの方も同じなので、お相子と言えば聞こえはいいだろうが、実際は違う。


 サーりんは魔法を封じられたことを前提で、そこからさらに自分の土俵に持ち込んだ。一方、セイヤは魔法が使えなくなったことでいつものスタイルを使用できず、身を守るだけで精いっぱいになった。


 魔王モードを使えば形勢逆転できたかもしれないが、肉体の支配権を失ってしまえば元も子もない。ましてやセイヤの目的は勝利することではないのだから。それに魔王モードを使ったところで、サーりんに勝てたかと聞かれれば微妙だ。


 セイヤ同様、サーりんもまた更なる引き出しを隠し持っていたかもしれないから。


 サーりんは客観的に判断したことを評価してくれたが、もちろんそんなことでセイヤは納得はしない。セイヤは新たな決意を心の中で決める。


 (魔王モードを完全に俺の支配下に置かなければな……)


 セイヤがちょうど決意をしたころ、サーりんたちが戻ってくる。その手にはお盆が握られており、お盆の上には二つの光るものがあった。


 「お待たせ。これが冒険者の証、冒険者タグだよ。材質は両方とも鉄だけど、Cランクから銅とかに変わっていくから頑張るように」

 「ああ、世話になった」

 「ありがとうございます」


 二人はそれぞれ感謝の意を伝え、サーりんから冒険者タグを受け取り、首にかけた。


 「これで今日から二人も冒険者だ。死なない程度に頑張って。それとセイヤ君、あんまり焦りすぎちゃだめだからね。一歩ずつ、自分のできることからやっていくように」

 「あ、ああ……」


 サーりんのアドバイスに、セイヤは戸惑いながら頷く。サーりんのアドバイスはまるでセイヤの心の中をのぞいているようだったから。


 「あ、それと今は武闘期間中だから気を付けるように」

 「武闘期間中?」


 聞きなれない言葉に首をかしげたセイヤとダルタ。サーりんはそんな二人を見て、躊躇い気をつきながら教える。


 「武闘っていうのはこの地区を治める魔王が気分で開催する祭りで、この期間中においてだけは、冒険者間での強奪が認められているの。しかもそれは双方の合意を必要としない弱肉強食の戦い」

 「つまり冒険者になった俺たちも強制参加ってことか?」

 「そうだね。でもギルド内だけは禁止エリアだから安心して、あと殺すのもなし。それ以外はどこで何をしてもオーケイ」

 「なるほどな」


 サーりんの説明を聞いたセイヤは納得する。なぜならそれはこのギルドに入る前の周りの様子を見れば一目瞭然だったから。常に警戒している冒険者たち、それも武闘期間中なら仕方がないだろう」


 「じゃあ、帝国まで気を付けてね」

 「ああ」

 「はい」


 二人は別れの挨拶をし、ギルドから出た。するとその瞬間、


 「来たぞ! あれが二区限定モデルを持ってるやつだ」

 「あれを売れば億万長者だ」

 「俺は隣のメイドさんをもらうぜ」


 ギルドから出たばかりのセイヤたちに、ざっと五十人程度の冒険者たちが武器や魔法陣を構えて襲い掛かってきた。


 「え、あ、どうしようセイヤ!?」

 「任せろ」


 突然の事態に驚くダルタに対し、セイヤはやや笑みを浮かべながら前に出た。そしてこれが、後にダクリア四区の悪魔と呼ばれる存在の生誕を祝う祭りでもあった。

 201話目ということでリスタート的な感じになりました。おそらくセイヤが自ら負けを認めるのは最初で最後になります。

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