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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第199話 ダルタの正体

 「そこまで」


 しんと静まり返った部屋の中で、サーりんの声が響く。その部屋は二十人ほど入れそうな部屋であったが、今いるのは四人だけ。しかも部屋の端と端に座っているため、パッと見人がいるのか怪しくなるぐらいだ。


 そんな中で冒険者になるための筆記試験が行われていた。


 「じゃあ答案を出して。次は実技試験に入るからまた移動ね」


 サーりんに言われ、セイヤとダルタはそれぞれの解答用紙を教室の前にいるサーりんに提出する。しかしその顔は全くと言っていいほど冴えず、出来が悪かったことを物語っていた。


 「はい、確かに受け取りました。ちょっとこの紙を出してくるから待っていて」

 「あ、持ちますよ」

 「そう? じゃあお願い」


 サーりんは教室にいたもう一人の試験官に解答用紙を渡すと、そのまま一緒に部屋から出て行く。サーりんの退出を見て、ダルタがセイヤのもとに近づいた。


 「ねえ……」

 「どうした?」

 「さっきのあれ、できた?」


 不安そうな表情でセイヤに聞くダルタ。その表情を見れば、筆記試験がボロボロだったということが分かる。だがそれはセイヤも同じであったため、ダルタのことをからかうことはできない。


 「はっきり言って、まずいな。記号は何とか埋めたが、筆記に関しては壊滅的だ」

 「やっぱりそう? というか魔獣の名前なんてわからないよね……」

 「ああ。だがこういうところを含めて、ダクリアの強さなんだろう」


 二人の言う通り、今解いた筆記試験の問題は魔獣についてだった。それもシルエットが出され、その魔獣の名前は何でしょう? といった形式だ。しかも筆記で。


 レイリアで生活をする二人にとって、そもそも魔獣に名前がついていることさえ知らないというのに、そのような問題が解けるはずもなかった。


 ましてや魔獣の名前はダクリア名だ。例え魔獣の名前を聖教会の資料で見ていたとしても、それはレイリア名であってダクリア名でない。つまりどちらにせよ解けないに決まっている。


 そうなってくると、二人の希望は一問三点の記号問題。これは魔獣の名前が提示され、その特性が書かれた正しい選択肢を四つの中から選ぶという形式だ。


 だが魔獣の名前を知らない二人からしてみると、その問題は正に運だ。五問すべてあっていれば十五点、一問でもあっていれば三点だ。ここで点を取れば、ランクは最底辺だが冒険者になれる。


 二人がそんなことを考えていると、サーりんと女性が戻ってくる。その手には先ほど預けた二人分の答案が握られていた。


 「ええ、これから実技試験に移ります。その前に、採点が終わったので筆記試験の結果発表からしようか」


 サーりんはニヤリと笑みを浮かべ、一枚ずつ手に取る。


 「まずはセイヤ君」

 「ああ」

 「記号問題が一問正解、三点」


 セイヤは自分の点数を言われ、ただ頷いた。そこには自分の点数の低さに対するショックなどは微塵も感じられず、むしろ良く三点も取れたなという思いが強かった。


 「続いて、ダルタちゃん」

 「はい」

 「ダルタちゃんはよくできました。十一点」

 「やった!」


 自分の点数が二ケタに乗ったことを喜ぶダルタ。そしてそんなダルタを、セイヤは驚愕の眼差しで見つめる。


 それは自分の点数がダルタの点数に負けたことに対するショックも多少はあっただろうが、それ以上に、ダルタがとった点数にショックを受ける。


 ダルタの点数は十一点。普通に聞けば、悪い点数だ。しかし問題はそこではなく、一問三点の記号問題で十一点という素数をとったことである。


 今回の試験は、シルエットに関する筆記問題が一問五点、が七問。そして魔獣の特性に関する記号問題が一問三点、が五問の計五十点満点だ。


 つまり、ダルタの点数は記号問題を二問、そして筆記問題を一問取らなければあり得ない点数なのだ。記号が当たるならまだしも、まったく知らない単語を書いて当たることなどまずありえない。


 ということは、ダルタはどこかで魔獣の名前、それもダクリア名を聞いたことになる。


 セイヤの中で、激しい焦りが生じた。もしかしたら目の前にいるポンコツメイドはダクリアに通じる魔法師なのではないか、もしそうであるならば今までのダルタはすべて演技、それもセイヤを完全にだますほどのクオリティ。


 セイヤは自分の額に汗が浮かぶのを感じる。そして心なしか呼吸も荒い。これほどの焦りを覚えたのはいったいいつ以来だろうか、そんなセイヤの様子を見て、サーりんが再び笑みを浮かべた。そしてダルタの答案をとってわざとらしく言う。


 「あ、ごめん。計算ミスしてた。ダルタちゃんは十一点じゃなくて十二点だ」

 「え、本当ですか?」

 「うん、本当だよ。記号問題が四問正解だから」

 「やったー!」


 ダルタは自分の点数が上がったことに大喜びではしゃぐ。それと同時に、セイヤの中で何かが落ち着いていく気がした。


 呼吸はいつの間にか落ち着いてきて、額の汗も消えていく。その表情にもいつもの冷静さが戻ってきた。


 「あれ、セイヤ君もしかしてショックだった?」

 「何がだ?」

 「ダルタちゃんに負けたの」

 「あ、ああ」


 どこかわざとらしく聞くサーりんに対し、セイヤはどうにか答えを返す。本音を言えばダルタに負けたこともショックで悔しいが、そんなことでセイヤは乱したりしない。


 セイヤが取り乱したのは、ダルタがダクリアの人間とつながっているという仮説と自分のことを完全に欺いていた演技力に対する恐怖からだ。しかしその仮説は間違っていた。


 もうセイヤはいつも通りのセイヤだ。だから違和感がないように答えた。


 「そっか、残念だったね。でもまあ、まだ実技試験があるからそこで巻き返そうか」

 「そうさせてもらう」


 セイヤが答えると、すぐにダルタが言う。


 「セイヤには負けないからね」

 「ふん、望むところだ」

 「じゃあ実技試験の場所に行こうか」


 サーりんはそう言い残して、部屋から出て行く。それに伴いセイヤたちもサーりんの後に続いて部屋から出る。そして連れてこられた場所は同じく二階にある部屋。


 だが今回の部屋は先ほどの部屋よりも広く、それに障害物もない。灰色の無機質な壁はまさに戦闘をするにはもってこいの場所だ。


 「ここで実技試験を行うわ」


 サーりんはそう言いながら、部屋の奥の方へと向かう。


 セイヤはそんなサーりんに問いかけた。


 「それで実技試験って何をやるんだ?」

 「ああ、まだ言ってなかったわね」


 サーりんはそういうと、纏う雰囲気を一瞬にして変化させる。その変化はセイヤたちのことをまるで押しつぶそうとするくらい大きい。


 「実技試験、それは私と一対一の実戦よ」

 「「なっ!?」」


 サーりんの言葉に驚く二人。それは試験内容もであったが、それ以上にこの部屋に例の結界が張って無いことであった。


 「危険じゃないか? ここでそんなことをしたら万が一の場合に……」

 「そうね、死ぬかも。でもあなたたちがなろうとしているのは冒険者。常に命の危険が伴うわ」


 サーりんの言葉を聞き、セイヤは言葉を失う。そして同時に、改めてここがダクリアだということを思い知った。ここではレイリアの常識は通用しない。一歩外に出れば戦場である。


 「なるほど、わかった。ならまずは俺から……」

 「いいえ、最初はダルタちゃんよ」

 「なぜだ?」

 「筆記試験の上位者からっていうルールなの」


 ルールと言われてしまえば仕方がないので、セイヤは素直に引き下がる。そしてダルタのもとにいき、小声で耳打ちする。


 「命の危険を感じたらすぐに降参しろ」

 「う、うん」


 ダルタもサーりんから発せられる異様なオーラに気づいているため、素直にうなずく。そしてサーりんの前に立った。


 セイヤはもう一人の女性と共に、部屋の隅に移動する。


 「あの、サーりんって強いんですか?」

 「それは愚問ですね。彼女はこのギルド一の実力者です」

 「そうですか……」


 セイヤが答えると、女性が試合開始の合図を出す。


 「それでは、試合開始!」

 「われ……」


 試合開始と共に詠唱を開始したダルタ。しかし最初の一節を終える前に、ダルタは突然倒れた。


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