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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第198話 試験の準備

 ダクリア四区の中心部にあるギルド、そのギルドの一階にセイヤたちの姿はあった。


 「書いたぞ」

 「私も」


 冒険者になるための試験を受けるため、書類を書いたセイヤとダルタ。二人は書類を書き終わると、サーりんが言ったように書類を受付に出す。


 「わかりました。しばらくお待ちください」


 受付にいた女性は二人が書いた書類を受け取ると、一度ギルドの奥へと入って行く。受付に残された二人はそんな女性の後姿を心配そうに見守っている。


 「大丈夫かな」


 女性の後姿を目で追いかけながら、心配そうな表情を浮かべるダルタ。それはセイヤも同じで、セイヤの顔には少量だが汗が浮かんでいる。


 「大丈夫だろ。必須のところだけ書いたから」

 「そうだよね、大丈夫だよね。埋めたのが名前欄だけでも」


 そう、ダルタの言う通り、二人が書類に書いたものは名前だけだった。二人が受け取った書類には氏名の他に、住所、所属、魔法適正、経歴など、数々の欄があったのだが、どれも必須事項ではなかった。


 最初は信じられなかった書類だが、何度見直しても必須欄は氏名だけ。レイリアから来ている二人にしてみれば、氏名だけというのはとてもうれしいことなのだが、ここまで来ると逆に心配になってくる。


 それに例え氏名だけが必須だったとしても、所属や魔法適正を書く人は多いだろう。


 必須事項が氏名だけと書かれて、本当に氏名だけしか書かない人は自分たちが初めてではないだろうかと、セイヤは本気で思う。


 二人が不安そうな表情を浮かべていると、奥から女性が戻ってきた。女性は受付まで来ると、二人を案内し始める。


 「種類の確認は終了しました。これから試験を始めさせていただきます」


 女性の言葉にごくりと息をのむ二人。そんな二人を見た女性は笑顔で言う。


 「まずは筆記試験です。会場までご案内するのでついてきてください」


 そう言って、女性はギルドの右奥にある階段の方へと歩いて行き、二人も女性の後に続く。






 階段を上ること数十秒、三人の姿はギルドの二階にあった。


 「こちらの階で筆記試験を行わせていただきます。それぞれ別室での受験となりますので、ご了承ください」


 女性の言葉に、二人は不安そうな表情を浮かべる。特にダルタの方はかなり不安そうだ。しかし無理もないことだろう。


 ダルタはつい最近までレイリアの常識の中で暮らしていた。それが突然特級魔法師の使用人にされ、ダクリアの存在を聞かされ、そのうえダクリアに足を踏み入れた。


 ダルタにとってダクリアは未知の領域であった、異国の地で一人になることはかなりの不安がある。今まではダクリアを経験しているセイヤが近くにいたが、この筆記試験では二人は別行動になる。不安になって当然だ。


 そしてそれはセイヤも同じだった。しかしセイヤの不安は一人になる不安ではなく、ダルタを一人にする不安だ。


 セイヤの中で、ダルタはどこか抜けている使用人というイメージがある。そんなダルタが一人になって、変ことを口走ってしまえば、当然二人は怪しまれる。最悪の場合、ダルタがレイリアの人間だと言ってしまうかもしれない。


 そうなってしまえば、冒険者の試験どころではない。食事処にいた魔法師や、ギルドの職員たちに囲まれて拘束されるであろう。最悪の場合は、戦闘に発展してしまうかもしれない。


 セイヤの実力をもってすれば、食事処にいた魔法師やギルドの職員たちは相手にならない。おそらく簡単に決着はつくだろう。


 しかしそれではだめなのだ。


 二人の目的はあくまで冒険者になることで、戦うことではない。そして冒険者になれなければ、ダクリア帝国に入ることが格段に難しくなる。もし戦いになってしまえば、そこで二人の冒険者ルートはバッドエンドだ。


 それなら他の地区で冒険者になればいいと、思うかもしれないが、それは今回に関しては不可能だ。確かにこのダクリア四区で冒険者になれなくとも、他の地区に行けば冒険者になることは可能だ。


 しかし今回はそんな時間はない。あと九日後には、二人はダクリア帝国で聖騎士アーサーと接触しなければならない。そして今から他の地区に行って冒険者になる時間など、二人にはなかった。


 今からどの地区に向かうにしろ、往復の時間がかかり、ダクリア帝国には間に合わない。それに各地区に入る際にもリスクはかかるため、どうしても時間がかかる。


 つまり二人はこのダクリア四区で冒険者になるしかないのだ。


 「二人同じ部屋で受けることはできないのか?」

 「二人同室ですか? それはカンニングの可能性等もありますので……」

 「カンニングなんてしない。こんな奴の答えを見たところで何の得もないからな」

 「にゃ!?」


 どうにかして同じ部屋で試験を受けようとするセイヤ。しかし女性は戸惑うばかりだ。


 「一応規則ですので……」

 「そこをどうにか頼む。こいつを一人にしたら何をしでかすかわからないんだ」

 「別に一人だからって何もしないわよ!?」

 「は、はぁ……」


 女性の表情がどんどんと曇っていく。だがセイヤはそんな女性に構わずどうにか説得を続ける。ここまで来て、変なことで失敗するのは好ましくない。ましてや今回の仕事は成功が不可欠だから。


 戸惑いながらも規則を押し通そうとする女性と、どうにかしてダルタと同じ部屋で試験を受けようとするセイヤ。両者互いに譲らず、二人の戦いは拮抗状態に入った。


 「頼む」

 「規則です……」


 二人の拮抗状態を見て、ダルタがどうにかしようとあたふたするが、結局どうしていいのかわからず固まってしまう。そして心の中で願った。


 (誰か助けてー!)


 そんなダルタの願いが叶ったのか、突然二人の間に割って入るものが現れた。


 「あれ、まだ試験してなかったの?」


 そこに現れたのは、先ほどまで一回の食事処で給仕をしていた女性――サーりんだった。


 「サーりん先輩、ちょうどいいところに」

 「あれ、なんかあったの?」

 「そうなんです。こちらの方が試験の部屋を一緒にしろって」


 女性はサーりんが来ると、今にも泣きそうな目でサーりんに訴えかけた。そんな女性の姿を見て、サーりんは困ったようにため息をつく。


 「もう、規則ってことは伝えた?」

 「はい。でもそこをなんとかって……」

 「なるほどね」


 サーりんは女性から話を聞くと、大方の事情を察する。


 「それで、君がそっちの彼女さんと同じ部屋で受けたい理由は?」

 「ダルタが一人だと何をしでかすかわからないから」

 「ふーん、そういうことなんだ」


 サーりんはどこか含みのある目でダルタのことを見つめる。ダルタは自分が見つめられたことに戸惑いを隠せなかったが、それと同時に体の芯が冷えるような感覚を覚えた。


 それはまるで体にまとわりついた何かが、体の芯から冷やしていくような感覚。


 だがダルタは知らない。その感覚が本能的の覚えた恐怖だということを。もし仮にダルタが戦闘経験豊富であれば、すぐにそれが恐怖だとわかっただろう。しかしダルタつい先日まで聖教会で働いていた少女だ。戦闘経験などあるはずもなかった。


 一方、サーりんの方はダルタの反応を見て何かを察する。そしてすぐにセイヤに向き合っていった。


 「特別に同じ部屋での試験を認めよう。だけど席は離れてもらうからね?

 「本当か?」

 「うん、君たちもいろいろ事情を抱えているみたいだからね」

 「恩に着る」

 「いいって、いいって。それより試験を始めるから早く部屋に入って」


 サーりんはそう言って、セイヤたちを部屋の中へと入れる。


 だがそんなサーりんに対し、もう一人の女性の方は困惑した表情を浮かべながらサーりんに聞いた。


 「本当にいいんですか? こんなことして……」

 「まあ、何にでも例外はつきものだから。それに、こっちの方がいろいろ面白そうだし」


 サーりんは含みのある笑みを浮かべると、試験を行うため、部屋の中へと入って行く。そしてそんなサーりんを、試験官の女性は戸惑いながら見つめるのであった。


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