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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第197話 ダクリア四区のギルド

 ダクリア四区の中心部、そこには数々の高層ビルが並んでおり、その回数は裕に十を超えている。十階を超える建物がここまで並ぶ光景は、まずレイリアでは見られない。というより、五階を超えただけでも珍しい。


 そんなダクリア四区の中心部に、セイヤとダルタの姿があった。


 昼食を食べ終わった二人は、一度宿に戻り、準備をしてから中心部に来ている。二人は冒険者になるため、冒険者になる試験を行っているギルドを目指していた。


 「さすがに中心部になってくると実力者が多いな」


 セイヤは周りを歩く者たちを見ながら呟いた。ダクリア四区の中心部だけあって、かなりの人がいるが、その中には当然実力のある冒険者たちもいる。


 ある者は腰に刀を差し、ある者は背中に大きな剣を背負い、ある者は懐に魔装銃を隠している。そして彼らの纏う雰囲気は鋭く、隙がほとんどない。完全に見極めたわけではないが、その実力はレイリアの上級魔法師ぐらいだとセイヤは感じた。


 そんな時、セイヤの隣を歩くダルタがふと呟く。


 「なんかみんなピリピリしてない?」


 周りを見渡し、戸惑いながら呟いたダルタ。確かにダルタの言う通り、二人の周りにいた魔法師たちの誰もが妙に殺気立っていた。


 「確かにおかしいな」

 「まるで常に襲われると警戒しているみたい……」


 魔法師である以上、常に奇襲に備えて警戒しておくのは基本だが、それにしてもセイヤたちの周りにいる魔法師たちは異常だった。


 いつ襲われるか、というよりも、むしろいつ襲うかと機会を伺っているように見える。いくら二人がダクリアに関して知らないと言っても、さすがに今の状況は異常だった。


 「よくわからないが、先を急いだほうがよさそうだな」

 「うん、はやくいこう」


 二人は異常なまでに殺気立つ魔法師たちから目をそらし、足早にギルドに向かう。






 そして五分後、二人はついにギルドへとたどり着く。ダクリア四区ギルドと大きく書かれた看板が目立つ、七階立ての建物。そこがまさに二人の目的地、ダクリア四区のギルドだった。


 灰色のコンクリート性の長方形のビル。扉は木製だが、その建物の印象は重工が似合うだろう。


 「行くか」

 「うん」


 二人はお互いにうなずきあうと、建物の中へと進んでいく。


 「いらっしゃいませー」


 扉を開け、二人がギルドの中へ踏み込むと、中から元気な声が聞こえてくる。二人は大きな声に驚きつつも、扉を閉めてギルドの中を見渡す。


 まず最初に目立つのは、ギルドのアイデンティティともいえるあまたの依頼書が張られた掲示板、ではなく、美女がニコニコ笑顔で座っている受付、でもなく、ギルドの左半分を占める食事処だ。


 本当に仕事を探しに来たのかと疑いたくなるほど、にぎやかに酒を飲む冒険者たち。しかもその数はかなり多く、もともとの範囲であっただろう境界線を越え、ギルド中心まで酔っ払いが侵食している。


 「これがギルドか……?」


 あまりの光景に、セイヤは言葉を失う。ダクリアの人間ではないためギルドについて詳しくはないセイヤだが、それにしても目の前の光景は異常だった。


 セイヤが訪れたことのあるダクリア二区のギルドは、食事処はあったにせよ、ここまでバカ騒ぎもしていなければ、緩くもなかった。食事処にいる冒険者たちは入ってくるものを観察し、常に戦闘をできる態勢に入っていた。


 しかし今のセイヤの目の前に広がる光景はどうだろう。武器はそこら中に散らかっており、誰のものかわからない。さらに中には椅子に横たわりながら、大きないびきを立てて爆睡している者たちもいる。


 控えめに言って、そこは到底ギルドとは思えなかった。


 その性か、セイヤは一瞬だけ不快感を覚える。それは別に彼らが働いていないとか、生理的に受け付けないとか、見ていて嫌悪感を抱くとかではない。


 ただ、少しだけ失望したのだ。自分に。


 ギルドに入る際、争い事が起きるかもしれないと、それ相応の覚悟を決めて入ったセイヤだったが、いざ入ってみると中は拍子抜けするくらい中は平和だった。だから覚悟をしては言った自分が恥ずかしくなり、不快に思ったのだ。


 そして幸か不幸か、セイヤが一瞬だけ不快感を覚えたことにより、セイヤから僅かだが戦意が放たれる。別にその戦意はたいしたこともなく、並みの魔法師たちでは感じ取れないほどわずかなものだ。


 しかし食事処で騒いでいたほとんどの魔法師たちが一瞬にして警戒態勢に入る。それは椅子で横になって爆睡していた魔法師も同じであり、誰もがセイヤのことを見て警戒していた。


 (こいつら……)


 セイヤは一瞬で目の前の魔法師たちが相当な実力者だと確信する。一方、魔法師たちはセイヤのことを見据えながら、いつでも魔法を行使できるようにしている。


 睨み合う両者。


 「ハーイ、みんな落ち着いて」


 そんな時、どこか間延びした声がギルド内に響く。


 「ほらほら、そこの子はみんなが騒いでいるから気になっただけだよ。でしょ?」

 「あ、ああ」


 睨み合いの中に割り込んだ声の主は、食事処にいたお盆を持つ女性。年は二十歳ぐらいだろうか、優しい雰囲気が特徴的な女性だ。


 その女性はセイヤに方に近づいてくると、笑顔を浮かべながら謝る。


 「ごめんね、お兄ちゃんここ初めてでしょ? ここの連中は実力がある割には宴会好きだからいっつもこうなんだよね。気になるかもしれないけど、大目に見てくれるかな」


 女性はニコニコと笑顔を浮かべながら、セイヤにそんなことを言う。その言葉には一切の悪意はないため、セイヤの方もいつも通りで答える。


 「いや、こっちこそすまない。他と違っていて、少し驚いただけだ」

 「そっか、よかった。ところで今日は何の用かな?」


 お盆を持っているところから、どうやらこのギルドのスタッフのようなので、セイヤは率直に用件を伝える。


 「冒険者の登録をしたいと思って」

 「冒険者の登録?」


 セイヤの言葉に意外そうな表情を浮かべる女性。そんな女性の反応が気になり、セイヤは理由を聞いた。


 「なんかおかしいか?」

 「ううん、別に。ただお兄ちゃんかなりの実力者に見えるから、まだ冒険者じゃなかったことが意外で」

 「ああ、そういうことか。最近まで自分の実力に自信がなかったから、ずっと外で修行していたんだ」

 「へえー、そっか。なら仕方ないか」


 女性はどこか意味ありげな表情を浮かべると、受付の方へと移動する。それに伴い、セイヤとダルタも受付に移動した。二人が受け付けの方に移動すると、食事処ではまたすぐにどんちゃん騒ぎが始まる。


 「だく、いつも懲りない連中だよ。おっとごめん、冒険者登録だよね。登録はお兄ちゃん一人? それともそちらの彼女さんも?」

 「!?」


 突然話を振られて驚くダルタ。


 「か、か、彼女じゃないです! 私はセイヤの使用人です」

 「へぇー、お兄ちゃんはセイヤっていうのか。それで、彼女さんの名前は?」

 「だ、だから彼女じゃないです!」

 「あいつはダルタ。登録は二人分頼む」

 「りょーかい」


 女性はダルタの方を見ながら笑みを浮かべると、ギルドの奥の方へと入って行く。


 「もう、あの人は何よ……人を彼女だなんて……まだそういうのじゃ……」


 セイヤの後方でぶつぶつと何かを囁くダルタ。だがそんなダルタに、セイヤは気づかない。


 そして少しすると、ギルドの奥から女性が戻ってきた。女性の手には二枚の書類と、タグのようなものが持たれている。


 「お待たせ、まずはこの書類を書いてね。そしたら冒険者の試験が始まるから」

 「試験があるのか?」

 「あら、知らないの。これは相当長く外で修行していたのね」


 女性は苦笑いを浮かべると、セイヤたちに向かって説明を始める。


 「冒険者になるためには試験があるの。筆記試験と実技試験、その結果によって最初のランクが決まるわ。でも試験と言っても、在って無いようなもので、ゼロ点以外は合格だから安心して。筆記にある記号問題一問でもあっていたらもう冒険者だから」

 「雑だな……」


 セイヤは冒険者の制度に呆れた表情を見せる。


 そんな時、


 「おーい、サーりん! 注文頼むよ!」

 「はーい! 今行きます。 ごめん、呼ばれたから行くね。書類が書き終わったら受付に出して。そうすれば勝手に案内してもらえるから」


 サーりんはそういうと、そのまま食事処へと戻っていく。残されたセイヤたちは、書類を書くのであった。


 しばらく不定期更新になります。

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