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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第196話 遠慮と建前と本音

 太陽が一番高く昇った頃、セイヤたちの姿はダクリア四区内にあるレストランにあった。時間はちょうどお昼時、二人はそのレストランで昼食をとっていたのだ。


 「おいしい、レイリアと変わらないね」

 「まあ、ダクリアといってもお互い同じ人間だからな」


 ダルタの感想に対し、セイヤが笑いながら言う。


 「それにしてもこのグラタン? 本当においしい」

 「そうだな。レイリアでも食べたいぐらいだ」


 二人が現在食しているものはグラタンという料理だ。パスタを筒状にして、それをホワイトソースと混ぜて、上にチーズをのせて焼いた料理。それはレイリア王国にはない料理であり、二人は初めて見るグラタンに舌鼓を打っていた。


 「ふぅーふぅー、本当にこれおいしい」


 どうやらダルタはグラタンをかなり気に入ったようで、先ほどから本当に幸せそうに食べている。そんなダルタを見て、レストランの従業員もまた、嬉しそうにしている。


 そして昼食がひと段落着くと、セイヤはデザートを食べながら今後の予定を確認する。


 「これからだが、まずはギルドに行って身分を証明できるものを手に入れる」

 「それって冒険者になるってことでしょ?」

 「まあ、そうだな」


 ダルタの言う通り、セイヤたちはこれから冒険者となり、ダクリアでの身分を手に入れる必要がある。しかし冒険者になると言っても、そう簡単なことではない。


 冒険者になるにも、それ相応の試験があるのだ。


 「そこでだ、ダルタ。お前は冒険者になりたいか?」

 「どういうこと?」


 セイヤの言葉に首をかしげるダルタ。セイヤの言いたいことはつまり、ダルタも冒険者になるかということだ。


 二人の目的はダクリアでの身分を手に入れることであり、冒険者になることではない。もしセイヤが冒険者の称号を得たとしたら、無理をしてダルタが冒険者の称号を得る必要はないのだ。


 ダクリア間での行き来の際、身分を確認されるのはほとんどが代表者のみだ。ごくたまに随伴者も確認をされることもあるが、そこまで厳しくはない。なぜなら代表者がしっかりとしていれば、随伴者も怪しくはないから。


 つまり結論から言うと、セイヤかダルタのどちらかが冒険者になってしまえば、無理して二人とも冒険者になる必要はないのだ。


 セイヤはそのことを宿のパンフレットで知り、ダルタに聞いた。


 「つまりお前まで無理して冒険者になる必要はないということだ」

 「そうなの?」

 「ああ、だからお前の好きな方を選べ」


 選択を迫られ、唸りながら悩むダルタ。


 「うーん、うーん、うーん……」

 「そんなに悩む必要はないぞ?」


 必死に悩むダルタを見て、セイヤが戸惑いながら聞く。まさかダルタがここまで悩むとは、セイヤは思ってもみなかった。


 「それって、お金は大丈夫?」

 「は?」


 急にお金の話が出て来て驚くセイヤ。そんなセイヤに対し、ダルタは小声で聞く。


 「だから、冒険者になるためのお金が足りないから一人にしようとか、そういう訳じゃないの?」

 「なんだそれ?」

 「え、だって急にそんなことを聞くから……」


 なぜか微妙に会話が噛み合わない二人。セイヤはどうにかダルタの言っていることを理解しようと頑張る。


 「金なら問題ないぞ」

 「そうなの?」

 「ああ」


 セイヤの言う通り、セイヤたちはお金には困っていない。以前セイヤがダクリア二区でグレナライオンを売って手に入れた仮想グレラがICゲータに残っている。それもかなり。


 そのため、二人はお金に関して心配することはないのだ。


 「そっか。うーん、うーん」


 お金は大丈夫だと聞き、再び悩み始めるダルタ。そんなダルタを見て、セイヤはあることに気づく。


 「もしかして、遠慮しているか?」

 「えっ!?」

 「やっぱり遠慮しているのか」


 ダルタを見て、セイヤはダルタが遠慮していると思った。なぜそう思ったのかというと、今のダルタの姿は昔のセイヤに似ていたから。身寄りのなかったセイヤは十歳のころにエドワードによって保護された。そして一緒に暮らし始めたのだ。


 その際、最初は当然ながら二人の間には壁があり、セイヤもエドワードに対して遠慮をしていた。しかし十歳の子供の遠慮など、大人から見れば一目瞭然であり、セイヤの遠慮はすぐにエドワードによって見抜かれた。


 そしてエドワードはセイヤに「遠慮する必要はない、家族なのだから」と言った。だが当然最初はセイヤの遠慮は消えず、二人の間には毛羽が存在する。


 結局、時を重ねるごとに二人は本当の家族のようになっていき、セイヤの遠慮もなくなっていたのであった。そして今のダルタの態度はその当時のセイヤの態度と似ていた。


 自分の心の内を言い当てられたダルタは、戸惑いながら言う。


 「だって私はただの使用人だし、そんなにお金を使わせるわけにはいかない。しかもそれが自分で稼いでいないお金なら尚更」

 「ぷっ」


 ダルタが真剣な表情で自分の立場や、あるべき姿などを語ったが、セイヤはつい吹いていしまう。なぜなら今のダルタの言葉は、昔のセイヤの言葉とほとんど一緒だったから。


 「何で笑うのよ!?」

 「悪い、あまりにも昔の俺に似ていたからな。そして別に使用人だから遠慮する必要はない。俺はダルタのことをただの使用人だとは思ってもいなければ、お互いのお金という考え方もない。それに今は二人で任務に当たっているんだ。遠慮する必要はないさ」


 セイヤは自分が思っていることを告げた。だがセイヤは気づいていない。その言葉が、エドワードの言葉そっくりだということに。


 ちなみにエドワードがセイヤに言った言葉は、


 「別に居候だからといって遠慮する必要はないんだ。私はセイヤのことをただの居候だとは思ってもいなければ、お互いのお金という考え方もない。それに今は二人で暮らしている家族なのだ。遠慮する必要はないぞ、セイヤ」


 である。


 セイヤの言葉を聞いたダルタは、困った表情をして言う。


 「そういう訳にはいかない。私は聖教会の人間で、セイヤは特級魔法師。私は聖教会で、セイヤは特級魔法師協会、所属が違うもん」


 ダルタが必死に話すが、ダルタの言っていることは間違っている。


 「ダルタ、お前はもう聖教会の人間じゃないぞ?」

 「へっ?」


 セイヤの指摘に対し、可愛らしい声を上げるダルタ。


 「特級魔法師の使用人になった瞬間から、所属が聖教会から特級魔法師一族になり、聖教会は関係なくなるぞ」

 「そうなの!?」


 つい大声で聞いてしまったダルタ。周りの客が不思議そうに二人のテーブルを見るが、セイヤは気にせず会話を続ける。


 「ああ、つまり今のお前は正確に言えばキリスナ家。現実的に言うならばアルーニャ家の人間だぞ」

 「知らなかった……」

 「まあ、そういうことだから、遠慮する必要はない」


 セイヤの指摘は事実であり、ダルタはすでにアルーニャ家の人間だ。しかしそれでもダルタは引き下がれなかった。


 「だったら、私はセイヤの道具。道具にお金を使わせるわけにはいかない」

 「お前……面倒臭いな……」


 ダルタの主張を聞き、セイヤは困った表情を浮かべる。確かに世間的に見れば特級魔法師に使える使用人は奴隷、つまり道具に見えるだろう。ましてや首に首輪をつけているのだから。


 しかしセイヤはダルタのことを道具とも思っていなければ、奴隷だろも思っていない。そしてそのことはダルタ自身も思っておらず、むしろ今は意地になっていた。


 絶対に自分の主張を通す、ダルタはそんな意地を張っていたのだ。


 そんなダルタに対し、セイヤは少しだけ声のトーンを落として言う。


 「そうか、お前は俺の道具なのか」

 「へっ? う、うん、そうだよ」


 突然セイヤの雰囲気が変わったことにダルタが戸惑うが、セイヤは話を続ける。


 「なら道具のメンテナンスは主の仕事だな。道具が少しでもよく働くように、道具の気持ちを高めるのは主の仕事だ。道具に遠慮させるわけにはいかない。そんなことをしてしまえば、道具が鈍ってしまう」

 「うっ……」


 そう来たか、といった表情を浮かべるダルタ。セイヤの言い方は置いておくとして、筋は通っている。ダルタは自分が追い込まれていくのを感じた。


 「ダルタ、別に遠慮する必要もなければ、建前を大切にする必要はない。今の俺たちは仲間であって、上下関係はない。だから俺にお前の本音を聞かせてくれ」

 「うっ……」


 セイヤの真剣なまなざしに見つめられて言葉に詰まるダルタ。どうにか反論しようとしたが、セイヤの目は嘘を言うことを許そうとはしない。


 「うっ……」

 「ダルタ、本音を聞かせてくれ」

 「うっ、ズルい……」

 「ズルくてもいいさ、ダルタの本音を聞けるなら」


 セイヤの真意なまなざしを前に、ダルタの顔が心なしか赤く染まっていく。


 「ダルタ?」

 「……………………………………やりたい」

 「そうか、わかった」


 ダルタの本音を聞き、セイヤがわずかに笑みを浮かべる。


 「もう、ズルいよ」

 「ふん」


 顔を赤らめながら俯くダルタと、そんなダルタを見て笑みを浮かべるセイヤ。


 こうして二人は、冒険者になるために動き出すのであった。


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