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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
1章 出会いと新たな人生
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第21話 セイヤとユア

 「セイヤ!?」

 「話は後だ。今はあいつをどうにかするぞ」


 ユアは死んだと思ったセイヤが生きていたことに驚くが、セイヤの言う通り、今はそれどころではない。まずは目先の脅威を取り除くことが先だ。


 「ユア、あいつの堅い防御を破ることはできるか?」


 それは白虎を仕留めることが可能な技があるかという質問。残念なことにセイヤには白虎の風で硬化された表皮を貫くほどの貫通力を持つ攻撃手段はない。


 そうなると、頼みの綱はユアになる。


 セイヤの質問に対しユアは、


 「五秒間同じところに留めてくれたら……」

 「わかった。なら最後は頼む」


 セイヤはユアに攻撃手段があることを聞くと、自分の役割を認識する。セイヤの仕事は白虎のことを五秒間同じところに留めて、ユアにバトンを繋ぐこと。


 それは容易なことではないが、生き残るためには必要なことだ。


 セイヤは両手にホリンズを握って、自身が纏う光属性の魔力の量を上げていく。


 今までの『纏光(けいこう)』では白虎に追いつけても、追い越すことはできない。だから今までの『纏光(けいこう)』よりもさらに強めた『纏光(けいこう)』を使うしかない。


 それは一種の限界突破であり、セイヤにとっても未知の領域。しかしセイヤには闇属性があるため、不安はない。絶対に成功する。セイヤはそう思い、魔力の量を上げていく。


 「限界突破(オーバーリミット)


 纏う魔力の量を上げた瞬間、セイヤの視界から色が消えた。それは高速の、いや、神速の世界を見るための視界。


 視界から色が消えれば、それだけ脳の処理も軽くなり、いつも以上のスピードを視認できる。


 変化は視界だけではない。聴覚や嗅覚、味覚なども一気に機能を停止し始める。そして脳への無駄な負担を減らし、戦いに必要な器官だけを鋭くさせていく。


 まさに神速の世界で戦うためだけの状態。


 それは白虎もまた同じだった。白虎もセイヤと同じように纏う雷の量を上げて、視界から色を消していく。


 そしてそこからは神速の戦いが始まった。


 両者が動き出したのはほぼ同時。セイヤが脚力を上昇させて地面を蹴ると、雷獣もまた、活性化させた足で地面を蹴り、セイヤに迫る。


 神速で迫るセイヤのホリンズと、神速で振られる雷獣の爪がぶつかり合うと、盛大な爆発音とともに衝撃波が生まれた。その衝撃波は一度だけではなく、何度も生まれ、空気が振動する。


 「すごい……」


 ユアはセイヤと雷獣の神速の戦いを認識することはできなかったが、その戦いがどれほど凄いのかは、ひしひしと感じていた。


 盛大な爆発音が発生し、ものすごい衝撃波が生まれたときには、既にそこにはセイヤたちの姿はない。


 もうその次の瞬間にはほかの場所で、盛大な爆発音と衝撃波が生まれる。


 まさに異次元の戦い。


 しかしユアはその異次元の戦いを見ているだけにはいかない。なぜならこの異次元の戦いに終止符を打つのはユアの仕事だから。


 ユアは最後を決めるための準備に入る。


 まずはレイピアであるユリエルを握っていない方の左手に、弓であるユリアルを生成した。


 両手に白を基調とした二つの武器を握るユアは、弓のユリアルにレイピアであるユリエルをまるで矢のように装填する。


 その魔法はユアの中で最も貫通力の高い技。しかしその反面、動いている対象に当てるのは至難の業であり、外れてしまえばもう後がない。


 まさに最後の一撃。


 それ故に、この魔法を行使するにはセイヤのことを信頼しなければならない。


 「セイヤ……」


 ユアは頼れるパートナーのことを思いながら、装填されているユリエルに魔力を流し込み始めた。魔力を流し込まれたユリエルが白い魔力を纏っていく。


 白い魔力を纏っていくユリエルは、その空間内でかなりの存在感を放っていた。だからセイヤにも、ユアが攻撃の準備を終えたという事が分かった。


 セイヤは雷獣とぶつかり合う中で、雷獣の隙を伺う。けれども、神速の中での戦いを繰り広げている雷獣が、そう簡単に隙を見せるはずもなく、セイヤは雷獣の隙を見つけることが出来ない。


 「仕方がない」


 隙が無いのなら、隙を作ればいい。セイヤは先ほどと同様に、雷獣とぶつかり合った後の、着地の瞬間を狙う。


 「『闇波』」


 消滅させるのは雷獣ではなく、雷獣が着地するのであろう地面。セイヤが魔法を行使した刹那、雷獣が着地するはずであった地面の一部が窪み、小さな穴が生まれる。


 グルッ


 しかし雷獣とて馬鹿ではない。そう何度も同じ手が通じるはずがなかった。


 雷獣は瞬間的に『闇波』によって消滅させられなかった場所だけを選び、器用に着地して、もう一度跳ぶ。


 そして何も変化してない地面に移動を図った。


 「やっぱりな」


 セイヤは雷獣がもう一度跳躍したのを見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。セイヤは信じていた。雷獣がくぼんだ地面に足を取られずにもう一度跳躍することを。


 足場の悪い地面から跳躍した雷獣に対して、セイヤは新たな魔法を行使する。


 「『暗槌(あんつい)』」


 次の瞬間、跳躍して空中にいた雷獣の上に紫の魔法陣が展開される。しかし地面に注意を払っていた雷獣は、気づくのが遅く、対応に遅れる。


 気づいた時にはすでに遅い。


 空中にいた雷獣のことを、謎の圧力が襲い、そのまま地面へと押し付ける。


 グルッ


 雷獣は何とか抜け出そうとするが、圧力が相当重く、そう簡単には抜け出せそうにない。それでも長くは拘束できないだろう。


 けれどもユアに頼まれた五秒は余裕で稼げた。


 セイヤの使った魔法は、闇属性オリジナル魔法『暗槌(あんつい)』といい、セイヤが即席で作り出した魔法である。


 ユアが海龍戦で使っていた『聖槌(せいつい)』をみて、自分の同じような魔法を闇属性でもやってみたいと思ったセイヤが、考え付いた魔法であり、その効果は『聖槌(せいつい)』と大して変わらない。


 雷獣の足止めに成功したセイヤはユアの名前を叫ぶ。


 「ユア!」

 「任せて……」


 セイヤに名前を叫ばれたユアは、ユリアルを雷獣に向けて構える。


 ユリアルに装填されているユリエルは先ほどよりも多くの白い魔力を纏っており、相当の存在感を放っていた。


 ユアは思う。


 セイヤは信頼できると。


 最初こそ、自分が暗黒領から人に会わず帰るために利用しようとした、ちょっと使える存在だった。


 しかしその存在は、次第にただの利用できる存在ではなくなっていた。


 ユアのことをなんだかんだで信じてくれて、ダリス大峡谷まで着いて来てくれたセイヤ。


 先ほどなんて自分の身を顧みずに、ユアのことを助けてくれた。


 それに今だって、ユアに決める力があるという事を信じて、しっかりと雷獣のことを足止めしてくれている。


 セイヤはすでにユアのことを信頼している。そしてそれはユアも同じだった。


 心の底ではわかっていたが、認めようとしなかったユア。


 それはセイヤのことを信頼して、また裏切られるのが怖かったから。だからセイヤのことを信頼してない風に装ってきた。けれども、それももう限界だ。


 ユアの心の中にはすでにセイヤが住み着いており、ユアにとってセイヤはかけがえのない存在である。


 確かに人に裏切られることは怖い。それが心の底から信頼していた者なら尚更だ。けれども、人を信頼するにはその恐怖に打ち勝たなければならない。


 (セイヤ……)


 もう認めるしかない。


 ユアは、自分は、セイヤに事を心の底から信頼していると。そしてそれと同じくらい、セイヤのことが好きになっているという事を。


 ユアは心の中で思い人の名を呟きながら、雷獣に向かってユリアルの結弦を手放した。


 「ホーリー・ロー」


 パン! と小気味いい音と共に撃ち出されたユリエルが、螺旋回転しながら、動きを封じられている雷獣に向かって直進する。


 白い魔力を纏いながら螺旋回転していくユリエルは、みるみるとスピードを上げていき、その貫通力も上がっていく。


 そんなユリエルが雷獣の固い表皮を貫くのは簡単だった。


 グギャァッ


 ユリエルによって貫かれる苦痛に悲鳴を上げる雷獣。しかしその悲鳴が上がりきる前には、雷獣はすでに絶命し、その意識を失っていた。


 これにより、セイヤたちの勝利が決まる。


 「終わったな」

 「うん……」

 「それにしても、最後のあれはすごかったな」


 セイヤは最後を決めたユアのもとに駆け寄り、ユアの攻撃を称えた。


 しかしセイヤ声に対するユアの答えはかなり落ち込んでいた。それに加え、頬もどこか赤くなっている気がする。


 「うん……」

 「ユア?」


 不思議に思ったセイヤがユアを心配そうに見ると、ユアは静かな声で謝罪した。


 「セイヤ……ごめん……」

 「はっ? なにがだ?」


 急にユアから謝られて困惑するセイヤ。しかしユアの心の中を知らないセイヤがそのような態度をとってしまうのも無理はないだろう。


 ユアが謝ったことは、今までセイヤのこと信頼してこなかったこと、先ほどセイヤが死んだと思った際に見捨てようとしたこと、など、これまでのいろいろなことだった。


 そこでユアに疑問が浮かぶ。


 「そういえば……どうして生きていたの?」


 それは雷獣に貫かれたセイヤがどうして生きていたのかという疑問。


 確かにあの時点でセイヤは死んでいたと思ったユア。今もセイヤが貫かれた場所には大量の血が飛び散っている。


 普通に考えておかしかった。


 「ああ、それはな……」


 セイヤがユアの質問に答えようとした瞬間、急に二人が立っていた地面が崩落を始める。


 「「!?」」


 二人はとっさにどこかに捕まろうとしたが、残念ながらそれは叶わず、崩落していく地面と共に落下を始めていく。


 「ユア!」

 「セイヤ……」


 落下して行く中、セイヤはとっさにユアのことを抱きしめる。セイヤによって強く抱きしめられたユアの頬は、赤くなり染まる。


 そうして二人はそのまま落下していくのであった。


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