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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第191話 首輪の記憶

 照り付ける日差しが視界を揺らす中、セイヤとダルタの姿は暗黒領にあった。場所はフレスタンの中心、ウォッカの街から北に半日進んだところだ。


 相変わらずその場所は周りに無機質な赤茶色の岩々しか見当たらず、人の姿はこれっぽっちもない。そしてその場所には大きなクレーターがあった。


 「懐かしいな」

 「何が……ですか?」


 セイヤがクレーターを見ながらつぶやくと、隣にいたダルタが首をかしげる。セイヤはそんなダルタに対して何でもないと答えて、すぐに次の行動へと移った。


 その場所はかつてセイヤが捕われていた施設があった場所であり、同時にセイヤが初めて闇属性を行使した場所でもあった。そしてユアと会った思い出深い場所でもある。


 すべてはここから始まった。と言っても過言ではないほどの場所なのだ。


 しかしダルタはそんな事情を知らないため、クレーターを感慨深そうに見るセイヤに違和感しか覚えなかった。ちなみにダルタの今の服装はメイド服だ。


 そのきれいな栗色の髪をツインテールにして、胸元が開けたメイド服を着ている。胸のサイズが普通ぐらいのダルタが着ると、少しばかり谷間ができるが、その谷間は浅く、ダリス大峡谷には及ばない。


 セイヤがそんなことを考えていると、ダルタは再び首をかしげた。


 「どうしたの? ……ですか?」

 「いや、別に。ところでダルタ、敬語じゃなくていいぞ」

 「え?」


 突然のセイヤの言葉に戸惑うダルタ。だが使用人が主に敬語を使わなくてもいいと言われたのだから、驚いてしまうのも無理はない。


 だがセイヤからしてみればこの提案は至極当然のものだった。ダルタの敬語はお世辞にもうまいとは言えない。というより、そもそも敬語なのかさえ怪しいものだ。よくもこれで聖教会の職員が務まったとセイヤは本気で関心している。


 けれでも、これから共に行動するとき、いつもこのような敬語を使われたらセイヤもいろいろ疲れる。それに二人は同い年であり、セイヤは上下関係を気にしない。


 なので、セイヤはダルタに普通に話してもらいたいと思っていた。しかしダルタがそんなことを簡単にできるわけもなく、即却下する。


 「何を言っているの、ですか? 私は使用人で、君はご主人様だよ! ですよ? 無理だから、です」

 「その無駄に馬鹿らしく子供っぽい話し方はやめてくれ」

 「馬鹿じゃないもん、もう十七歳だもん! です。立派なレディだから、です」


 よりいっそうわからなくなってきた敬語で反対するダルタ。セイヤは仕方ないのである方法を使う。


 「今から俺たちが行うのは潜入任務だ。そこで上下関係があると怪しまれる。よって、俺たちは友達同士を演じる必要があり、友達同士での敬語は違和感しかない。だから普通に話せ、これは命令だ」


 セイヤのよくわからない理論。普通に考えれば、若干だが理解できる。しかしダルタがメイド服の時点で友達もなにもない。だがセイヤは知っている。目の前にいるメイドがポンコツなことを。


 「わかった、です。いや、わかった。そういうことなら仕方がない」

 「わかってくれたか」


 ダルタが頷くと、セイヤがふと呟く。


 「なあ、ダルタって首輪が怖いのか?」

 「!?」


 セイヤは何気ない質問だと思ったが、ダルタはその質問をされた瞬間、ビクッと震えた。セイヤはその反応を見て、目を細める。


 確かに首輪をされてうれしい人など特殊な性癖を持っていない限り嫌だろう。しかしダルタが聖教会で見せた反応はそんなものではなかった。心の底から拒絶しているものだった。


 だからセイヤは疑問に思ったのだ。


 セイヤからの質問に、ダルタは俯く。その体は小さくだが震えており、過去に何かトラウマがあったことを表していた。その反応を見たセイヤはすぐに謝る。


 「悪い、言いたくなかったら言わなくていいぞ」


 人間誰しも思い出したくない過去は存在する。セイヤだってセナビア魔法学園時代のことはあまり思い出したくない記憶であり、人から聞かれてもいい思いはしない。


 おそらくダルタにとって、首輪こそが嫌な記憶なのだろう。


 「いえ、主になった人だから教えておかなきゃ」


 ダルタは震える声で必死に過去を語りだした。それはセイヤが考えていたものを断然凌駕する記憶だった。


 「私はフレスタンの小さな村に生まれました。家は貧しく、その日の生活を乗り越えるのが必死で、お父さんもお母さんも微力に使える魔法で何とか依頼をこなしていました。でもそんなある日、村に魔獣が出たの。

  私の住んでいた村は暗黒領に近かったけど、魔獣が出たことは一度もなかった。なのに、なぜかその日だけは魔獣が出た。でも村には強力な魔法師はいなくて、しかもほかの魔法師たちは大掛かりな依頼で村を開けていて、村の魔法師はお父さんとお母さんだけで……」


 ダルタの話は一度そこで途切れた。セイヤはもういいと止めようとしたが、ダルタは話を続ける。


 「私はすぐに教会に連絡するように言われた。でも私の村には連絡する道具がなくて、半日かかる隣の村まで走った。そしてやっとの末、教会に連絡して上級魔法師が来て、村に戻ったの。

  そしたらそこにもう人間はいなかった。残っていたのは人間がいたことを知らせる大量の血液と少々の部位。そこにはもう人間と呼べるものが残っていなかった」


 再びダルタの話は途切れたが、セイヤには言葉を発することができなかった。


 「その中にはお父さんとお母さんもいたわ。お父さんは右足と右腕が、お母さんは左半身だけが残っていた。原型をとどめてなかったけど、すぐに二人だとわかった。そして魔獣は消えていた。

  そして両親と故郷を失った私は駆け付けてくれた上級魔法師に引き取られたの。その人はとてもいい人で、私の寂しさを紛らそうと、いろいろな物を買ってくれたわ。不器用な人だったけど、小さい私にもその人がいい人だということはよくわかった。

  でも、半年もせずにその生活は終わった。ううん、終わらされた。中級魔法師一族によって。ある日買い物から家に戻ると、そこには五人の中級魔法師と私の保護者だった上級魔法師がいた。でも私の保護者の方はもう死んでいた。殺されていたの、中級魔法師たちに手で」


 実力が有無を言うフレスタンではよくあることだ。地位を求めて上のものに戦いを挑む、その行為自体はよくあることだが、連合を組んで襲い掛かることは暗黙のルールで禁止されている。たとえそれで勝ったとしても、地位は得られない。


 「そしてまた保護者を失った私は、今度はその中級魔法師の一人に引き取られた。奴隷としてね。最初は首輪なんかどうとも思わなかったんだけど、地獄はそこから始まった。

  中級魔法師たちはお互いの地位を求めて戦い続け、負けたら殺される。そして財産は勝者のもの。当然奴隷も。一体どれくらいの家を回ったかわからない。私は様々な家の奴隷にされた。

  そして中には首輪だけでなく焼印や刺青をして自分の家のものだと証明する人もいた。痛かった、熱かった、苦しかった、もう嫌だった。それから私は首輪が怖くなったの。聖教会に保護されるまでの間に刻まれた記憶が蘇るから」


 ダルタの話はそこで終わり、彼女は後ろを向いて、服をもと上げる。しかし年頃の少女が何をしているのか、といった声をセイヤは発することができなかった。


 「これが……」

 「そう、私の歴史」


 そこにあったのはダルタの色白の背中には似つかない数々の焼印や刺青。その大きさは小さいが、その分数が多かった。それは年頃の少女が持っていていいものではない。


 セイヤはそう思った。


 「ちょっと待っていろ」

 「ひゃ」


 セイヤがダルタの背中に触れると、ダルタは驚き声を上げる。しかしセイヤは気にせず、彼女の背中に刻まれたものたちを見据える。


 「『闇波』」

 「ひゃ!」

 「『聖刻』」

 「えっ!? 温かい……」


 ダルタは背中に感じる温もりに驚いたが、次の瞬間にはその温もりが消える。


 「終わったぞ」

 「何をしたの……」

 「お前の背中にあったものをきれいさっぱり消した」

 「嘘……」


 ダルタは信じられないといった表情するが、セイヤが反射魔法を使って彼女に自分の背中を見せると、そこにあったのは傷一つないきれいな背中だった。


 「嘘……どうやって……」

 「企業秘密だ。それとこっちを向け」

 「う、うん」


 ダルタがセイヤの方を振り向くと、セイヤはポケットからカギを取り出す。


 「もしかして」

 「ああ、首輪をとる」


 セイヤの取り出したカギはダルタの首輪のカギだった。


 「駄目だよ、そんなことをしちゃ……」

 「聖教会が怒るってか? 気にするな、俺が文句を言っておいてやる。これでも俺は特級魔法師だ」

 「なんで、なんでそんなことをしてくれるの?」

 「いやな過去を思い出すんだろ。だったらとるに決まっている」


 過去に過酷な経験をしてきたセイヤだったが、ダルタの過去はそれ以上だった。そしてそんな過去を思い出すものを身に着けろ、などセイヤには言えなかった。


 だからセイヤは首輪を外す。たとえ聖教会がなんて言おうとも。


 「でも……」

 「命令だ。静かにしていろ」

 「……はい」


 セイヤの命令に、ダルタは素直に従い、体を預けた。そしてセイヤはその首についた首輪を外すのであった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。次は木曜日の21時頃です。

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