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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
5章 大魔王襲名編
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第188話 七賢人たちの思惑

 七賢人たちから突然特級魔法師として任命されたセイヤだったが、その顔は何を言われたのか理解できていないようだ。それはセイヤの隣にいるライガーも同じようで、セイヤ同様、開いた口がふさがっていない。


 だが二人の反応は仕方がないものだ。何しろセイヤは約一か月前に目の前にいる七賢人たちから異端認定を受け、そのうえ討伐の依頼まで出されたのだから。


 それが急に特級魔法師として任命すると言われても、反応しようがない。


 そんな二人の内、最初に動けたのは特級魔法師であるライガーだ。ライガーは疑うような視線で七賢人たちに問いかける。


 「どういうつもりだ?」


 ライガーの質問は予想できたものなので、七賢人たちはすぐに返答した。


 「簡単な話じゃ。そこにいるキリスナ=セイヤがラピス島で使った闇属性、その正体が何なのかという疑問が湧いている。紫色の消滅させる魔力は一体何なのか、世間はそのことで騒いでおる」


 アルフレードの言う通り、世間ではセイヤが最後に使った闇属性の正体が何なのか、突き止めようとする動きまで出て来た。しかしその事と、今回の特級魔法師に任命がどう関係するのか、ライガーには理解できない。


 そんなライガーのことを見て、アルフレードが話を続ける。


 「さすがに今回ばかりは隠しきれないからのう。それならいっそう、特級魔法師に任命して、あの力は固有魔法であることにしようというわけじゃ」


 アルフレードの言い分はつまり、闇属性が隠しきれなくなったから、セイヤを特級魔法師に任命して、闇属性という存在事体を固有魔法としてしまおうということだ。


 この方法は一見無謀に見えるが、実際は理に適っている。


 現在の民衆からのセイヤの支持は最高に近い。それはレイリア魔法大会での活躍によるもので、その人気は十三使徒であるレアルと同等だ。


 そんなセイヤが特級魔法師に任命されたところで、誰も疑問には思わない。すでに示されているセイヤの実力は相当なもので、特級魔法師に恥じない功績を上げている。


 そしてそんな魔法師が使う謎の魔法は固有魔法だった。少し違和感があるかもしれないが、特級魔法師の固有魔法であれば、ある程度のことは通る。


 更に特級魔法師の固有魔法とすることで、簡単に調べることができなくなるのだ。今のセイヤはただの学生だが、特級魔法師となれば、それ相応の地位と名誉が与えられる。


 そうなると、興味本位でセイヤの周りを嗅ぎまわることが不可能になり、闇属性の正体はさらに突き止めにくくなる。それこそが七賢人たちの表向きの理由だった。


 特級魔法師任命の理由を聞き、セイヤはある疑問をぶつける。それは今後に関する重大な疑問だ。


 「理由はわかった。だが、俺は異端の存在ではないのか?」


 セイヤに宿る謎の力。その力は七賢人たちのことを拘束し、従わせる強力な力だ。そして七賢人たちはセイヤのその力を見て、異端認定を下した。


 そんなセイヤが、今度は闇属性まで扱えることがわかったのだ。それはもう、一大事である。


 「安心しろ。君がこの国の未来を守ったことは事実。我らはその功績を評価したのだ」

 「なるほど」


 コンラードの説明に、一応納得するセイヤ。しかしその顔にはまだ困惑が残っていた。


 そんなセイヤに対し、アルフレードが問う。


 「さて、今回の任命、受けてくれるな?」


 それは七賢人たちからセイヤに対する最終確認。ここでセイヤが頷けば、セイヤはその瞬間から特級魔法師になる。


 セイヤは一瞬ライガーの方を見て、様子をうかがうが、ライガーは任せるといった表情を浮かべた。その表情を見て、セイヤは覚悟を決める。


 ここで断ることも可能だが、事情を考えると特級魔法師になっていた方がいいと思うセイヤ。だから答えはすぐに出た。


 「ああ、俺は特級魔法師になる」

 「そうか、それはよかった」


 セイヤが頷いた瞬間、アルフレードが笑みを浮かべる。しかしその笑みはとてもセイヤが特級魔法師になったことを喜んではいなく、むしろ計画通りといった感じの笑顔だ。


 その顔をみて、ライガーは一瞬で悟った。しかしその時にはもう遅い。


 「まさか……」

 「さて、さっそく仕事の話じゃが」


 アルフレードはライガーの言葉を遮るように話を始める。


 特級魔法師には、聖教会から個別に仕事の依頼が来ることがある。だがそのほとんどは過酷で困難を極めるような仕事ばかりだ。そして今回、アルフレードがセイヤに依頼する仕事も当然困難を極めるものだった。


 「現在ダクリアの中心、ダクリア帝国に潜入中の聖騎士アーサー=ワンにあるものを届けてほしい」

 「待て! いくらなんでもその仕事は横暴だ」


 アルフレードに反論するライガーだが、アルフレードは話を続ける。


 「聖騎士は現在、ダクリアの構造把握のために単体で潜入しておる。そこでお主に依頼をしたいと思う。これは特級魔法師であるお主にしかできない仕事じゃ」


 それこそが七賢人たちの真の狙い。


 七賢人たちはセイヤをレイリアの外に追い出し、十三使徒序列一位である聖騎士と接触させることが目的だ。そして聖騎士にはセイヤの討伐命令を出しておく。これにより、セイヤは聖騎士によって、ダクリアで暗殺される。


 しかし暗殺されたところでそこはダクリア。誰が何と言ったところで、証拠が出てくるわけもない。ましてやダクリアの中心であれば尚更。


 そして仮にセイヤがダクリア帝国に到達できず、暗黒領で命を落としても、それは暗黒領での不慮の事故だ。暗黒領の不慮の事故は、どんな感じであっても事故であり、犯人は存在しない。


 つまり、レイリア王国を出た時点でセイヤの死は確定的。そしてどちらにおいても不慮の事故であり、犯人は存在しない。これこそが七賢人たちの考え出したセイヤ排斥の作戦だった。


 しかしそんな作戦を言われたところで、ライガーは納得しない。


 「ふざけるな。なぜセイヤなのだ?」

 「そんなのは決まっている。闇属性が使えるからだ」

 「闇属性が使えるのであれば、ダクリア潜入も容易である」


 七賢人たち言い分は筋が通っている。だがそんな理由でライガーが納得できるわけもない。


 「その作戦は非効率的だ。協会として反対する」


 聖教会の横暴に対し、ライガーがとった策は特級魔法師協会。セイヤは特級魔法師の任命を受けた時点で特級魔法師だ。そして特級魔法師であるセイヤのことを守るのは特級魔法師協会として当然のこと。


 ライガーはそう思っていた。しかし今回に関しては七賢人の方が一枚上手であった。


 「残念ながら協会の半数以上は彼の実力を疑っておる。ましてや闇属性と光属性を使う魔法師じゃ、不安に思うのも当然であろう。そうじゃろ、特級魔法師ライガー=アルーニャ」

 「なるほど、そういうことか」


 アルフレードがあえてライガーの名前フルネームで、しかも肩書をつけて呼んだことから、ライガーはなんとなくだが悟った。協会側も絶対に動かないと。


 いくらライガーが聖教会のことを訴えたところで、協会が動かなければ意味はない。そして協会は十中八九動くことはない。なぜなら、協会側もセイヤのことを恐れているから。正確にいうのであればアルーニャ家に二人以外の特級魔法師がいることを恐れているから。


 特級魔法師たちはその桁違いな力をお互いに持つことで、協会という組織を保っている。特級魔法師たちは互いに同等であり、そこに優劣はない。


 しかしそんな中にセイヤが加わったどうだろうか。セイヤは言わずと知れた実力者であり、その肩書はアルーニャの居候。そしてその正体は異端の力を持つライガーの義理の息子候補。


 このままいけば、アルーニャ家に二人の特級魔法師が存在してしまう。そうなれば、一気にパワーバランスは崩れ、協会は崩壊する。


 だからこそ、協会は聖教会の作戦に賛同し、手を出さない。


 これはレイリアを守るためには致し方がないことで、責められることではなかった。ライガーは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、七賢人たちを睨む。ライガー自身も、セイヤを排除したいと思う陣営の思いは少なからず分かったから。


 そんなライガーの様子を見て、セイヤは事情を察する。おそらく今回の依頼は不可避であり、受けなければならない。それならここで依頼を受け、さらに成功させるしかない。


 セイヤはそう思い、七賢人たちに向かって答えを聞かせる。


 「その仕事、承った」

 「セイヤ!」

 「大丈夫だ」


 セイヤのことを心配するライガーに大丈夫だというセイヤ。そんなセイヤにアルフレードが言う。


 「そうか、よく受けてくれた。それではお主に紹介する者がおる。入れ」

 「は、はい!」


 アルフレードが扉の方に向かって呼びかけると、部屋の中に一人の少女が入ってきた。


 「失礼いたします」


 年はセイヤと同じくらいか、部屋に入って来た少女は栗色の髪が特徴的な美少女であった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。次は木曜日の21時頃です。

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