第184話 特訓の成果
突然魔力が消えたことに困惑するレイリアの魔法師たち。しかし誰もがデトデリオンの仕業だということは、わかっていた。
「それもブロードの遺品か?」
「ああ、そうだ」
セイヤの問いに答えるデトデリオンは、すでに勝利を確信していた。なぜなら魔力のない魔法師など魔法師ではないから。そして魔法師と非魔法師では、戦いにすらならないから。
一方、セイヤは考えていた。デトデリオンの使った装置は本当にブロードの遺品なのだろうと。魔法師の魔力を消す装置は、いかにもあの男が作りそうなものだから。
魔力が消えたレイリアの魔法師たちは次々と絶望の表情を浮かべていく。なぜなら誰もが自分たちの敗北を悟ったから。いくら子供だからと言って、彼らは馬鹿ではない。魔力を失った魔法師など、魔法師ではないことぐらいわかっている。
そして自分たちがすでにデトデリオンに敗北していることも。
「終わったな……」
「ああ……」
観客たちの全員がそう思った。スクリーンに映るのは魔力を失って座り込む十五人の学生魔法師と、いまだ空中に立つデトデリオン。
沈みかけの夕日が、より彼らの絶望を象徴させる。
だがラピス島にも、観客席にも諦めていない存在がいた。なぜなら、彼らはこの状況の打開策を知っているから。
セイヤとユアが立ち上がり、デトデリオンに向かって武器を構える。
「おい、何のつもりだ」
「無駄だ」
そんな二人を見たレアルとヂルが、二人のことを止めようとした。二人の行動は無駄だったから。魔法が使えない時点で、デトデリオンに対抗するのは無意味だ。待っているのは無残な死だけ。
それなら一斉に違う方向に向かって走り出し、生存を狙った方がいいに決まっている。
すでに思考が敗北に変わっていたレアルたち。だからこそ、次の瞬間、彼らは衝撃を受けた。
「『纏光』」
「雷神の加護ここにあり、今こそその力を我に纏へ。『雷神』」
レアルたちの目の前で、セイヤが光を纏い、ユアが雷を纏う。
「なんだと!?」
「どういうことだ……」
「何なの、いったい」
驚愕の表情を浮かべながら二人のことを見るレアルたち。セイヤたちが纏ったそれは、紛れもない魔力だった。
「まさかこの状況で魔力が使えるとはな」
魔力を纏った二人を見て笑みを浮かべるデトデリオン。さすがにこれには魔王でも驚きだ。
「まだ勝負は終わっていないということだ」
「まだ終わっていない……」
デトデリオンを見据えながら武器を構えるセイヤとユア。なぜ二人が魔力を纏えたのか、答えは簡単だ。失った魔力を生み出したから。正確に言うのであれば、聖属性で魔力を発生させたから。
これはレイリア王国を見渡しても二人にしかできない芸当だ。そしてそんな二人が、偶然にもこの場にいた。
「確かに魔力を使えたことには驚いたが、これでもまだ戦うと言えるかな?」
「なに?」
「お前らは魔力が使えるみたいだが、残りの奴らはどうかな。『風蜂』」
「まさか……」
デトデリオンが魔法を行使すると、次々と蜂が出現する。その数は数えることも不可能なほど多い。そしてデトデリオンは、その蜂たちを、魔力が使えないレアルたちに向けて放った。
ブーン、と音を立ててレアルたちに迫る蜂の集団。その集団は魔力を失ったレアルたちに本能的な恐怖を与えるには十分だった。
「きゃぁぁぁ」
女性陣たちが恐怖のあまり叫ぶ。デトデリオンはそんな光景を喜々として見ていた。
(まずこれで十人は片付いた)
デトデリオンは心の中で十人は命を失うと踏んでいた。しかし、蜂の集団がレアルたちに襲い掛かることはなかった。なぜなら、突然発生した水の壁が守ったから。
「防御は任せて、セイヤくんとユアちゃんは蜂をお願い」
そんな声を上げたのはリリィだ。リリィは水をドーム状にすることによって、蜂の集団を防いだのだ。
「また魔力だと……」
デトデリオンは驚愕の表情を浮かべるが、不思議なことではない。リリィは妖精であり、セイヤの契約している。たとえ魔力が無くなろうとも、セイヤが供給してくれれば何も問題はない。そしてセイヤの魔力は聖属性によって発生している。
リリィが魔力を扱えるのは必然だった。
「ちっ、仕方がない。あの二人を狙え」
デトデリオンが蜂の集団に指示を出すと、蜂の集団は一斉にセイヤたちに向かって飛んで行く。いくら魔力が使えようとも、その数は到底剣などで防げる数でない。
それはセイヤもわかっていたことなので、ユアに言った。
「ユア、背中は任せる」
「えっ…………………………うん!」
セイヤの言葉は、ずっとユアの待っていた言葉だ。ダクリア二区で味わった挫折、そしてセイヤに背中を任せられたいという願い。その願いが今叶ったのだ。ユアの表情は最高に幸せだった。
「限界突破」
「はぁぁぁぁ」
次の瞬間、二人の視界から色が消え、モノクロになる。それは脳にかかる無駄な負担を減らし、少しでも速く動くための技。
ユアの『雷神』はすでにこの境地にまで達していた。
神速の世界に入った二人にとって、蜂の集団は脅威に値しない。背後には信頼できる最愛の人がいるため、集中するのは自分の前だけ。セイヤはホリンズを、ユアはユリエルを一身に振り続け、蜂の集団を殲滅していく。
「なかなかやる」
蜂の集団を殲滅していくセイヤとユアの姿を見て、デトデリオンは素直に賛辞を贈った。二人は息の合った動きで、蜂の集団はあっという間に数を減らしていく。
やっとその数が数えられるくらいになってくると、セイヤたちにも余裕生まれて来た。なので、ユアがセイヤに言う。
「セイヤ……ここは任せて……」
それはここを任せてデトデリオンを倒せという意味だ。セイヤは一瞬だけ不安そうな表情を浮かべたが、『雷神』を行使しているユアの姿を見て、すぐに大丈夫だと確信した。
「任せた、ユア」
「うん……」
残った蜂の集団をユアに任せ、セイヤはデトデリオンに攻撃を仕掛ける。ホリンズでデトデリオンに斬りかかるセイヤ。デトデリオンが何もしないわけもなく、すぐに武器を呼び出して、ホリンズを防ぐ。
「来い、ロンド」
「大剣か……」
セイヤの前で召喚された武器、それは大剣だ。デトデリオンはその大剣でセイヤのホリンズを防いだ。
一メートルは優に超える大剣で防いだデトデリオンは、そのまま強引に大剣を振り下ろし、セイヤのことを吹き飛ばす。
「くっ……」
デトデリオンの大剣を何とかホリンズで防いだセイヤ。だがその表情はいつも以上に厳しい。
「その速さもブロードの遺品か?」
セイヤの表情が厳しい理由。それはデトデリオンが、『纏光』を最大限で行使しているセイヤの動きについてきていることだ。
確かに魔王クラスともなればセイヤの『纏光』についてきてもおかしくはない。だが、いくらなんでも限界突破をしているセイヤの動きについてくるのは異常だった。
ましてやデトデリオンの使う属性は闇と風。そのどちらにも身体能力を上げる効果はない。
表情が厳しいセイヤに、デトデリオンがあるものを見せながら答える。
「惜しいな。確かにあの老人の技術を使ってはいるが、これは俺の傑作だ」
「なるほど」
それは腕に巻かれたブレスレット。そしてそのブレスレットには、五つの魔晶石がついている。
魔晶石の複数使用は、ブロードの技術だ。そしておそらく、デトデリオンはそこに何かしらの加工を加えてセイヤ並みの速さを得ている。それだけわかればセイヤには十分だった。
「つまりそのブレスレットを破壊すれば、お前の速さは消えるんだな」
「まあ、そういうことになる。できればの話だが」
セイヤは今一度双剣ホリンズを構えて、デトデリオンを見据えた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ごめんなさい、デトデリオンとの戦いはまだ終わらないです。ここまでの総まとめということで、いろいろ回収しなくてはいけないことが多々あり……デトデリオンさんとの戦いは次で終わります。
それでは次もよろしくお願いします。次も明日の22時頃です。




