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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第181話 魔王デトデリオン(中)

 空中を蹴り、ユアに迫るデトデリオン。彼の足には緑色の魔法陣が展開されており、空中を蹴る度に空気が硬化する。


 「終わりだ」


 右手にも緑色の魔法陣を展開させ、ユアに向かって攻撃を試みようとしたデトデリオン。


 しかしデトデリオンの攻撃が決まる直前、ユアの前に黄色い壁が出現する。


 「させない! 『光壁(シャイニングウォール)』」


 ユアの前に展開されたものは『光壁(シャイニングウォール)』。これはレアルが行使した魔法だ。しかし十三使徒の魔法であろうとも、魔王の前では意味をなさない。


 「無駄だ。『闇波』」


 次の瞬間、ユアの前に展開されていた『光壁(シャイニングウォール)』が跡形もなく消え、デトデリオンの前には無防備なユアの姿が現れる、はずだった。


 「なに……」


 しかしデトデリオンの前に現れたのは、誰もいない地面。誰もいない地面を見た瞬間、デトデリオンはすぐに悟った。


 「後ろか」

 「正解……」


 デトデリオンの言葉の直後、彼の背後に雷を纏ったユアが姿を現す。その手にはユア同様、雷を纏ったユリエルが握られており、今にもデトデリオンのことを仕留めようとしている。


 完全に背後をとった。ユアはそう思った。だから次の瞬間、自分が目にした光景に、言葉が出なかった。


 「まだ遅い」

 「そんな……」


 そんな声と共に、デトデリオンの姿がユアの視界から消える。確かにユアの動きは素晴らしかった。そしてユアが今まで相手にしてきた敵だったならば、避けられなかっただろう。


 しかし今、ユアの目の前にいるのはダクリアの魔王だ。当然その力は今までユアが戦ってきた相手と格が違う。唯一、暗黒騎士ことシルフォーノ=セカンドが対等に渡り合えるくらいだ。


 雷神状態のユアの速度を優に超える速度で移動するデトデリオン。その移動には行使されている魔法は空中を硬化させる魔法だけで、その速さについて魔法の補助を受けている気配はない。


 そしてそんなデトデリオンが、ユアの背後に現れた。


 「今度こそ終わりだ」

 

 次で決めてやる。そう言わんばかりの表情で、デトデリオンがユアに襲いかかる。


 ユアは完全に不意を突かれて反応できない。レアルは魔法を行使しようにも、『光壁(シャイニングウォール)』を消滅させられた反動で、動きが遅れている。


 このままではデトデリオンの攻撃がユアに通ってしまうだろう。


 だが、ユアたちにはもう一人の仲間がいた。


 「やらせねぇ。『魔粒子収束砲』」

 「ほう」


 次の瞬間、ユアに攻撃をしようとしていたデトデリオンのことを、膨大な赤い魔力が襲う。それは特級魔法師一族であるヂルの本気。


 亜音速に匹敵する速さで打ち出された火属性魔力が、デトデリオンの身を滅ぼそうとする。その膨大な魔力はかなりのもので、例え魔王であっても対応が厳しい。


 ところがデトデリオンは小さく笑みを浮かべると、新たな魔法を行使する。


 「『闇球』」


 それは闇属性の魔力を球状にして発動する魔法。かつてセイヤがダリス大峡谷で巨大なムカデを仕留める際に使った魔法だ。


 「なんだと!?」


 デトデリオンの魔法を見たヂルは驚愕する。なぜならデトデリオンが行使した魔法はボウリングのボールほどの大きさであり、その程度の大きさでは到底『魔粒子収束砲』を防げるとは思えなかったから。


 だから次の瞬間、ヂルはさらに驚愕する。


 「ありえない……」


 ヂルの前に広がる光景。それは『魔粒子収束砲』が、デトデリオンの行使した『闇球』に、例外なくすべて吸い込まれる光景だった。その光景は、まるでブラックホールに吸い込まれる流星群のようだ。


 なぜあの程度の大きさで自分の本気の魔法が防がれてしまったのか、ヂルには理解できなかった。


 あまりの出来事に、呆然とするヂル。そしてヂルの目の前では今にもユアに襲い掛かろうとするデトデリオンの姿があった。


 レアルが『光壁(シャイニングウォール)』を行使してから、ここまででかかった時間は約七秒。体感にしてみれば五分以上のように思えたが、実際は七秒だけしか経っていない。


 だがその七秒のうちに、レアルは次の魔法の行使が可能になった。


 そしてヂルが『魔粒子収束砲』を行使したおかげで、ユアはデトデリオンから距離をとることができた。


 それぞれが違う魔法学園に通っている三人だが、このレイリア魔法大会を一緒に戦ったことで、少しずつだがお互いの思考が理解できてきた。そしてユアは、レアルが次に何をするかを予想して、デトデリオンから距離をとる。


 「ふん、わかっているな」


 デトデリオンから距離をとったユアを見て、レアルが笑みを浮かべる。なぜならユアの選択は最善の選択であり、一番安全だったから。


 レアルもまた、ユアがデトデリオンから距離をとってくれると思っていた。だからこそ、すぐに魔法の行使に移行できた。


 「光の神よ、今こそ裁きの鉄槌を、わが魂に答えて顕現せよ。『光天使の断罪』」


 レアルが魔法を行使した刹那、デトデリオンの上空に大きな黄色い魔法陣が展開される。その大きさから、レアルが行使しようとしている魔法の威力がかなりのものだと、デトデリオンは感じた。


 レアルが行使しようとしている魔法は超広域攻撃魔法『光天使の断罪』、別名「レアルの裁き」


 圧倒的な魔力量を誇るレアルにしか使えない魔法であり、その魔法から逃れられたものは過去にいない。それは闇属性が使えるダクリアの魔法師も同じであった。


 だからデトデリオンにも通じると、レアルは思った。次の瞬間、摂氏三千度を超える光がデトデリオンに向かって降り注ぐ。


 雷神状態のユアを優に超えるデトデリオンの速さはかなりのものだが、この魔法の前では意味をなさない。なぜなら魔法の範囲があまりに広大すぎるため、逃げようと思ったところで逃げられないから。


 まさしく、逃れることのできない断罪。


 「終わった」


 レアルは摂氏三千度の光が降り注ぐ光景を見て、デトデリオンとの戦いが終わったと確信した。摂氏三千度の前では、人間はいとも簡単に蒸発し、その亡骸は残さない。だから光が降り注ぎ終わったところで、何も残らない、はずだった。


 「とてもいい魔法だな」

 「なんだと!?」


 何も残らないと確信していたからこそ、レアルの衝撃は大きかった。摂氏三千度の光が降り注いだ場所には何も残っていない。


 そこに建っていた廃墟や、舗装された道路、そして道端に生えていた雑草、そのすべてが無くなっている。しかしその中心には、無傷の姿でいるデトデリオンだけが残っていた。


 ありえない。レアルの中で、そんな言葉が反響していく。


 世代最強と謳われた自分の最強の魔法。それはつまり、このラピス島にいるどの魔法師の魔法よりも強いということを指している。


 だがその魔法が破られた。


 レアルはその事実に言葉を失うことしかできなかった。それはユアも同じだ。レアルの魔法、『光天使の断罪』は、属性こそ違うものの、ユアの『ホーリー・ロー』と同等の威力を持っている魔法だ。


 しかし『ホーリー・ロー』と同等の威力、下手をしたらそれ以上の威力を持つ『光天使の断罪』が防がれた。それも無傷で。


 その事実は、あまりにも衝撃的だった。


 (これが魔王……)


 想像以上の魔王の強さに、ユアは言葉がでない。もしかしたらセイヤでも勝てないのでは? そんな疑念がユアの心の中に生まれてくる。


 セイヤに魔王モードがあることを、ユアは知らない。だからユアは、心の底でセイヤのことを疑ってしまった。


 そして、セイヤが勝てない相手に、自分が勝てるわけがないと思い込んでしまう。


 それはヂルも同じだ。自分の本気である『魔粒子収束砲』を破られたことで、もう勝てない、と確信した。自分の本気が破られた以上、もう自分の力では勝てない。そう思った。







 たった十秒ばかりの出来事で、レイリアの希望と呼ばれていた三人の戦意が喪失される。そのことは、観客席にいた観客たちにもわかった。


 ここまで謎の乱入者に対して、何とか勝ってきた学生魔法師たち。その中でも圧倒的な力で敵を殲滅してきたのが、今スクリーンに映る三人だ。


 しかしその三人の全力をもってしても、歯が立たない敵。


 そんな敵を倒せる学生魔法師がいるのだろうか。そんな疑問が観客たちの中に生まれたとき、ふと思い出される存在があった。


 それは岩山エリアで女の敵ともいえる魔法師を跡形もなく消し去った魔法師。名前はわからない。だが、その実力は一級品に間違いない。そしてスクリーンに映るレイリアの希望たちとも並ぶかもしれない。


 観客たちは次第にその魔法師のことを考え始める。


 「あいつなら」

 「もしかしたら」


 観客たちの思いは、次第に期待へと変わっていく。


 あの少年なら、あの金髪なら、あのハーレム野郎なら、この敵を倒せるのではないか?


 いつしか観客たちは、キリスナ=セイヤという男の登場を待っていた。






 あまりの実力の差に、戦意を失っている三人を見て、デトデリオンはつまらなそうな表情を浮かべた。


 彼らは年齢の割にはかなりの実力を持っている。しかし魔王の前ではその実力は足元にも及ばない。その程度の魔法師がレイリア王国の未来を担うと考えると、デトデリオンは興味を失った。


 このレイリア魔法大会でレイリアの金の卵たちを葬れば、自分たちの評価は上がる。そう考えていたデトデリオンだが、彼の目の前にいる魔法師たちは、取るに足らない存在だ。


 圧倒的な実力差を前にして、戦意を喪失するようでは、倒したところで意味もない。このまま殺さないという選択肢もあったが、デトデリオンはあえて三人を葬ることを決めた。


 それは見せしめのため。現在スクリーンから観戦しているのであろう観客たちに、ダクリアの力を見せつける。


 「今度こそ終わりだ」


 デトデリオンはそう言って、緑の魔法陣から風を撃ち出す。それは取るに足らない弱小な魔法だが、戦意を失っている三人の首をとるには十分だ。


 だが、まさにデトデリオンの魔法が三人の首を刈ろうとした瞬間、急に風が吹いて、魔法が打ち消された。そして水の壁が現れる。


 「増援か」


 デトデリオンは突然目の前に現れた水の壁を見て、増援が来たと悟る。


 「ずいぶんと強そうな相手ね」

 「お前が親玉か?」


 そこに現れたのは、青い髪の女性を隣に置く金髪の少年。そしてその後ろには、十人の学生魔法師がいた。


 いつも読んでいただきありがとうございます。次は火曜日の21時頃の予定です。

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